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「公文書や記録は誰のものか」(時論公論)

清永 聡  解説委員

行政文書が短い期間で捨てられる。あるはずだという記録が見つからないと言われる。国の公文書や記録をめぐって、いま次々と問題が指摘されています。

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情報公開請求に対する不開示の通知を並べました。南スーダンに派遣された自衛隊の「活動報告書」を去年請求したもの。そして、森友学園をめぐる交渉記録を財務省と近畿財務局に求めたものです。

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いずれも通知には、「文書不存在」「文書の保有が確認できなかった」と書かれています。陸上自衛隊の「日報」は、後に見つかりましたが、財務省の交渉記録は廃棄したと説明しています。

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そして「加計学園」をめぐり、内閣府と文部科学省のやりとりを記したとされる文書です。19人の職員にメールで送信され、今も個人のパソコンの中などに保管されていることがNHKの取材で明らかになっています。しかし、文科省は今も「確認できない」としています。
なぜ、こうした「抜け穴」が起きるのでしょうか。

【解説のポイント】

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●情報公開と公文書管理の経緯とその制度は。
●短い期間で廃棄されてしまう制度の「抜け穴」とは何か。
●最後に公文書のもう1つの役割を考えます。

【法律ができるまでの長い歴史】

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日本で情報公開制度を求める声が強まったのは、ロッキード事件がきっかけと言われています。政府の情報を知るすべがないことに、国民の不満が高まりました。
しかし、法律はなかなかできず、国よりも先に一部の自治体が情報公開の条例を作ります。また、オンブズマンなどが各地で情報公開を求める裁判や運動を起こします。市民の司法や行政への地道な働きかけが続けられました。
さらに、薬害エイズ事件で文書ファイルが問題となり、2001年、「情報公開法」が施行されました。「公文書管理法」も2011年に施行されます。
このように公文書をめぐる「公開」と「管理」という2つの法律は、長い時間をかけ市民の活動や数々の事件を教訓に整備されました。

【行政文書の管理・公開は】

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今の制度です。行政文書は、各行政機関が、内容に応じて保存期間を30年などの期間に分けていきます。そしてファイルを作り、管理簿にまとめます。この管理簿はネットでも公開されています。
その後、保存期間が過ぎても、歴史的な文書と判断されれば、国立公文書館に移されます。また、廃棄するときは総理大臣の同意など、厳しい条件がついています。

【1年未満文書という「例外」】
ところが、これにはいわば「例外」があります。

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各省庁は規則や細則で保存期間1年未満というもう一つのルールを作っています。「短期で目的を終えるもの」などが対象とされています。
ここに大きな問題があります。公開の対象になる行政文書なのに、管理簿にも載せられず、公文書館にも移されず、審査を受けずに廃棄できます。つまり、いつ、どういう文書が作られ、捨てられたのか。仕組み上、記録は残らないことになります。
南スーダンに派遣された陸上自衛隊の「日報」の文書も、森友学園に国有地を売却した際の交渉記録もこの1年未満という扱いでした。そもそもこれらの文書が、1年未満で良いのでしょうか。

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さらに問題は、1年未満の保存期間とした判断の妥当性も検証できないことです。同じような文書がどのくらいあるかも分からず、情報公開請求をしても「廃棄した」と言われてしまいます。
国有地の売却をめぐっては、会計検査院も経緯を調べています。しかし検査院も、「文書がない」と言われれば、強制的に調べることはできません。

【“ブラックボックス”】

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市民団体「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、この状態を「ブラックボックス」と呼んでいます。そして「このままでは国有財産の売却経緯は、すべての省庁が1年未満になりかねない」と、国を相手取って、裁判を起こしています。訴えでは「最低でも、5年間は保存すべき文書だ」としています。
さらに日弁連・日本弁護士連合会も、公文書の安易な破棄を防止し、管理の徹底を求める声明を出しています。
一方、政府は「その後の決裁文書が保存されているから問題はない」などと説明しています。しかし細かな経緯が後から重要になることもあるはずです。また、例外がどこまでも広がれば、制度は骨抜きにされてしまいます。
1年未満という保存期間を原則として廃止することや、少なくとも基準をもっと厳格にすることが必要ではないでしょうか。

【文部科学省の文書問題】
もう一つ、いま問題になっているのが、「加計学園」をめぐる文書です。この文書は、今も業務で使われる個人のパソコンの中などに保管されていることが、NHKの取材で明らかになっています。

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しかし文科省は「担当課の共有フォルダーなどを調査した結果、確認できなかった」と説明しています。
ただし文科省は「個人のパソコン」は調べていません。その背景には「行政文書は共有フォルダーに入っている」「個人のパソコンに公開対象になる文書はない」という考えがあるのではないでしょうか。

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たしかに、個人のメモまでをすべて公表の対象にしてしまえば、文書が膨大になります。また、公務員がメモを作りにくくなり、活動への支障も指摘されます。
では、今回のケースはどうでしょう。行政文書は「職員が職務上作成し」「組織的に用いるもの」で「行政機関が保有」などと定義されています。一方で今回の文書は「説明資料として作成された」「メールで19人に送信された」などとされています。
このため複数の専門家は「行政文書にあたる可能性が高い」と指摘しています。仮に行政文書だが開示できない理由があったとする場合は、今度は適切な管理が行われていたのかどうかが問われることになります。

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文部科学省は「出所不明の文書だ」として再調査を行わない方針です。しかし、本当に出所が不明なのかどうか、そして「公開対象の行政文書」かどうかをはっきりさせるためにも、改めて調査を行うべきではないでしょうか。
公文書管理法は公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置づけています。その民主主義が損なわれていないか。国民の疑問を取り除くことが、まず求められるはずです。

【歴史の検証を】
最後に、公文書にはもう一つ大きな役割があることを、指摘したいと思います。
私は一昨年まで3年間、国立公文書館で、太平洋戦争後に開かれた戦争犯罪の記録、特にBC級戦犯の裁判記録を開示請求し、閲覧してきました。

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この文書もかつて法務省が収集、整理し、国立公文書館に移管したものです。残っているのは、公的な文書だけではありません。被告が法廷で記した個人のメモや弁護士の走り書きも含まれています。
こうした詳しい記録が残されたからこそ、現在の私たちは当時の戦争裁判の問題点や被告とされた人たちの苦悩、そして戦争の悲惨な歴史まで知ることができるのだと思います。
公文書は、歴史の過程を次の世代へと伝える役割も担っています。つまり、公文書は、今の私たちのものだけではなく、未来の国民への財産でもあるはずです。
歴史を正しく伝え、法律の理念を生かすためも、制度を改善していくことが、これからも求められます。
そして、担当者も、どうか自分の利害だけにとらわれず、いつか歴史の検証を受けるという謙虚な気持ちで、文書の保存と公開に取り組んでもらいたいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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