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「築地か豊洲か 判断の行方は」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員

築地市場の豊洲移転問題を検証する、東京都の市場問題プロジェクトチームは今日、会合を開き、築地での改修の可能性を強く滲ませた報告書を纏めました。
この問題をめぐっては、小池知事が夏頃をメドに判断を行うとしており、1月後となった都議会議員選挙でも大きな争点になりそうです。
纏まった報告書の内容と、判断の行方について考えます。

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東京都の小池知事は、築地市場の豊洲移転を考えるに当たり、盛り土が無い場合の影響や、地下水対策をまとめる土壌汚染対策専門家会議と、経済性など市場のあり方全般を検討する市場問題プロジェクトチーム、この二つの会議を発足させ、検討内容を判断の材料とするとしていました。

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今日纏まったのは、このうち市場問題プロジェクトチームの報告書で、市場を従来通り豊洲に移す案と、現在の場所で市場を再生する二つの案を比べ、豊洲市場の課題を強く指摘すると共に、築地での改修案の可能性を滲ませたものとなっています。

その報告書、まずは豊洲移転案です。問題にしたのは、土壌汚染の無害化と市場会計の赤字でした。
豊洲新市場は、業務はすべて閉鎖型の建物の中で行われ、外部からの風雨や直射日光、鳥などの進入を防ぐことが出来るなど、衛生管理が徹底された最新鋭の施設です。

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しかし、土壌汚染対策に853億円を投入したものの、都民に約束した、地下水や土壌を環境基準以下にするという「無害化」の約束が果たされていない。
しかも市場整備費、およそ6000億円だけでなく、敷地40ヘクタールの巨大な設備に掛かる光熱費や施設の警備費、メインテナンスなど巨額の費用が発生し、市場会計は移転した途端に赤字、赤字額は年間100億から150億にのぼるとしています。
このため財政措置を講じなければ、市場は20年で閉鎖。「経営戦略なき巨大市場」と断じています。

一方、築地での改修案です。
報告書が示すのは、現在の築地市場を大幅に改修しながらの、築地ブランドの継続です。

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水産物を高い品質で管理する閉鎖型施設とするとともに、銀座に近い立地条件を生かした、レストランなどの観光施設を併設。食のノウハウと伝統が蓄積した、食のテーマパークを目指すとしています。

工期と費用については、営業を行いながら区画を分けて工事を順番に行うローリング方式と、他の場所に移転して改修する2つの案を示し、工事期間は3年半から15年。費用は最大で1388億円としました。

先日見つかった汚染物質の対策など、今後検討が必要な物があるものの、現在のコンパクトさを生かした市場運営で、市場会計は年間15億円から20億円の黒字。市場内に建設する高層タワーなどの家賃収入で、自立した市場を作るとしています。

このように今回の報告書は、両論併記の形をとりながらも、豊洲市場の問題点を強く指摘し、築地改修案の可能性を滲ませる内容となっています。
この背景にはなにがあるのか。報告書から見えてくるのは市場の持続性を重視する姿勢です。

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これは平成以降の、水産物が市場を経由した割合を示したグラフです。平成元年には75%あった市場経由率は年々下がり続け、25年には54%と20ポイント以上下落。取り扱い額も、3兆4000億円から1兆6000億円と半分以下に減っています。
産地とスーパーなどの直接取引や、インターネット取引などが増え、市場を巡る環境が大きく変わっているのです。

市場を経由する水産物が減れば、市場の経営は悪化します。豊洲市場は、取扱量を増やすことを計画していますが、結果は分かりません。
市場会計が破綻すれば、都の財政で補填する必要があります。将来に渡って市場を支えていくことができるのか。報告書はそこを問題視しているのです。

ただ、本当に築地改修案が上手くいくのか、です。なんと言っても、建設に関わる不確定要素が多すぎるのです。

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まずは改修の方法です。今回、報告書は、ブロック毎に建物を分け、順に移転させて工事を進めるローリング方式か、一時的な移転先を見つけて工事を行う2つを提案しています。しかし移転先を見つけての整備は、過去に検討しましたが結局見つからず、ローリング方式は、初めてみたものの、事業者の反対で、途中で頓挫した経緯があります。

報告書はかつての計画は、面積を拡張する無理のあるものだったとし、現在の建築技術をもってすれば、十分可能だとしています。

しかし本当に可能なのか。しかも工事期間についても不安視する声があります。
報告書では工期は3年半から15年としています。しかし先月、築地市場の表土から基準を超える鉛や水銀などの有害物質が検出されたことが分かり、今後地下10メートルを掘削しての詳細な調査が行われることになっています。場合によっては環境評価や汚染対策が必要かもしれません。

また築地市場は、江戸時代に松平藩の屋敷があった場所です。調査の結果、埋蔵文化財が見つかれば、発掘を行わなければなりません。工事が長引けば、衛生条件が悪く、耐震化が遅れている現在の築地市場を、使い続けることになります。

たしかに報告書が指摘する、豊洲市場の経営上の課題は重く受け止めなければなりません。ただ、取り扱い量が減っていくのであれば、面積の半分を民間に貸し出したりするなどの検討が、今後考えられそうです。
何より築地改修案については課題が山積し、完成したばかりの豊洲新市場を売却するなど現実的だとは思えません。

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小池都知事は常々、「既定路線という考え方はとらない」としてきました。
先週行われた都議会の所信表明でも「安心安全だけで無く、経済合理性や持続可能性も検討し、東京の未来に責任をもった総合的な判断をしていく」としています。

しかし築地での改修は事業者の大きな混乱を引き起こします。去年の11月に移転するはずだった事業者は、すでに豊洲市場に300億円の投資をしていますし、築地に残って改修するとなれば改めて事業者の合意が必要です。

この築地市場の移転問題。間近に迫った東京都議選でも、大きな争点になりそうです。
都議会第1党の自民党や日本維新の会は、豊洲への早期の移転を公約として掲げていますし、公明党も地下水の安全対策などを行ってスピード感をもって移転を実行していくべきだとしています。

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一方で共産党や東京・生活者ネットワークは移転に反対、民進党は土壌の追加対策などで都民の理解と納得がなければ、移転はあり得ない。都民ファーストの会は、小池知事の総合的な判断を尊重するという立場です。
築地市場の移転問題は、都民の関心も高く、選挙の結果は知事の判断にも大きな影響を与えそうです。

築地市場の豊洲移転を巡っては、食の安全や安心の問題。そして今回の報告書で示された市場の持続性など、さまざまな課題が明らかにされてきました。
複雑に問題が絡み合う中で、小池都知事がどういう判断を下すのか。判断の行方が注目されます。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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