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「待ったなし 人手不足対策」(時論公論)

今井 純子  解説委員

人手不足が、一段と深刻になっています。仕事を求めている人、ひとりに対して、企業から何人の求人があるかを示す、有効求人倍率。きょう公表された4月の数字は、バブル期で最も高かった水準を超えました。人手不足の現状と、今、求められる対策について考えてみたいと思います。

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【解説のポイント】
解説のポイントです。
▼ 人手不足で企業が営業時間やサービスの縮小に踏み切り、社会のあり方までが問われるなど、さまざまな影響が広がっています。
▼ そして、その人手不足。背景に人口減少がある、構造的な問題です。
▼ それだけに、企業は待ったなしの対策を求められています。特に、人手不足が深刻な中小企業で先進的に取り組む事例を見ていきます。

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【人手不足の現状】
まず、現状を見てみましょう。
きょう公表された4月の有効求人倍率は、1点48倍。これは、バブル期の最高だった1990年7月の1点46倍を抜き、1974年2月以来、43年2ヶ月ぶりの高い水準となりました。仕事を探している2人の人を、3つの企業が取り合う形で、企業にとっては、深刻な状態です。

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(限界にぶつかる“便利な社会”)
影響は、身近なところにもでています。
▼ ファミリーレストランやスーパーなどの営業時間が短くなったほか、
▼ 宅配最大手のヤマトホールディングスは、時間指定サービスの見直しなど、サービスの一部縮小や値上げに踏み切りました。
これまで、こうした企業は、人をたくさん雇って、顧客が求めるきめ細かいサービスにこたえてきました。それが、人手不足によって限界にぶつかった形で、とことんまで便利を求める日本の社会のあり方そのものが、問われる事態になっています。

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【人手不足の背景】
(景気の回復)
こうした人手不足の背景にあるのは、ひとつは、好調な景気です。
今年1月から3月のGDPは、年率に換算して+2.2%。5・四半期連続でプラスとなっています。景気拡大の長さは、バブル期を超えたとみられています。
ただ、1990年当時、日本経済は、5%を超える高い成長率を達成していました。景気回復の勢いは、バブル期とはかなり様子が違います。

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(大きいのは人口減少)
では、それほど高い成長率ではないのに、なぜ、今、ここまで人手不足が深刻なのか。背景にある、もうひとつの、そして大きな要因は、働く世代の減少です。
こちらは、主な働き手となる、15歳から64歳の人口の推移です。バブル期の後、1995年をピークに、20年間におよそ1000万人減りました。今後、20年でさらに加速度的に、1200万人あまり減る、つまり、毎週、1万人以上のペースで減る見通しです。
外国人労働者をもっと受け入れたらどうかという意見はあります。実際、今でも技能実習生などの形で、多くの外国人が日本の企業で働いています。ですが、これだけの穴を埋めるほど、本格的に外国人労働者を受け入れることには、まだまだ抵抗が強いのが現状で、簡単ではないでしょう。

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(人手不足は構造的な問題)
そう考えると、人手不足は、今後、多少景気が悪くなっても、そう簡単には解消しない、構造的な問題です。企業にとってみると、今、本格的な対策に乗り出さないと、これから先、どんどん人が採れなくなる。待ったなしのタイミングに差し掛かっていると言っていいでしょう。

【企業の対策】
余裕のある企業の間では、ロボットの導入など、省力化の動きが急速に進んでいます。
▼ 去年の秋以降、国内で産業用ロボットの受注額は、2四半期連続で、前の年と比べ、2桁の大幅な伸びを示しています
▼ 最近では、ホテルやレストランの受付。店のレジ。物流センターなどでの荷物の搬送、土地の測量。こうしたところでも、人の代わりにロボットを導入する動きが、急速に進んでいます。

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【問題は中小企業】
(中小企業の人手不足の現状)
問題は、こうした大規模な投資をする余力のない中小企業です。
今年1月から4月の間に、求人難から倒産に追い込まれた企業は、12件。去年の同じ時期の2.4倍で、すべて中小企業です。
なんとか、人手を確保しようと、今年の春闘では、大企業を上回る賃金引き上げに踏み切る中小企業が目立ちました。ただ、それでも人が集まらないという悲鳴が上がっています。中小企業を対象にした調査では、74%が人手不足を感じていています。その対策として、残業を増やした企業が35%。一方、IT化や設備の導入による省力化は、18%にとどまっています。中小企業は、働く人の70%が働き、日本の経済を支えてきた存在ですが、このままでは、ますます、人が集まらない悪循環に陥る心配があります。
では、どうしたらいいのでしょうか。知恵と工夫で先進的に取り組んできた事例を見てみたいと思います。

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(ITの活用で生産性を高める)
▼ まず、1つ目は、ITへのコツコツした投資で生産性を高めた事例。京都・宇治市にある精密機械のメーカーの取り組みです。ここはアルミニウムの加工について、例えば「どのくらいの回転数、どのくらいのスピードで加工すると、いいか」といった職人の熟練の技をデータベース化しました。そのうえで、繰り返しの作業は、24時間無人で加工できるシステムを開発し、限られた貴重な人材は、試作品の開発や、マーケティングなど、人でしかできない新たな知的な業務につけました。その結果、製造に1時間かかっていた作業が数分ですむなど、大幅に生産性が上がったほか、やりがいを求めて、毎年優秀な学生が応募してくるようになったとしています。この会社の山本副社長は、「中小企業でも、社内でシステムをつくれる人材を育て、コツコツIT投資をすれば、生産性を大幅に上げることができる」と話しています。

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(多様な人材の採用)
▼ もうひとつは、幅広い人材に対象を広げて、働いてもらおうという取り組みです。東京・新宿にあるレーザー専門の商社です。ここは、ひとりひとりの希望に応じて、短時間勤務や在宅勤務などの制度を柔軟に整え、その上で、社員がいつ急に休んでも、ほかの人がカバーできるよう、1つの業務を2人で担当したり、1人がいくつもの業務をこなせるようにしたりしました。さらに、中途採用の人が不利な扱いにならないよう「英語力」「IT力」「対人能力」といった力を評価して、昇進や手当てに反映させる制度も導入しました。この結果、この10年、離職率は事実上ゼロ。育児中の女性や毎日フルで働くのは厳しいという高齢者など、多様な人材を年間通じて採用できるようになった上、社員が自ら語学力やIT力を磨き、競争力が高まったとしています。この会社の近藤社長は「日本では、大卒の3人に1人が、3年以内に会社をやめる。そうした転職組をはじめ、多様な人を中途で採用し、活躍し続けてもらうしくみを整えれば、中小企業でも人手不足で困ることはないはずだ」と話しています。

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【まとめ】
今、紹介した2つの企業は、いずれも、経営者の強い指導力で改革を進めました。むしろ中小企業だからこそ、経営者の考え1つで、柔軟で思い切った対策をとれる面があるはずです。もはや、企業が働く側に選ばれる時代に入ったと言ってもいいでしょう。魅力的な職場への改革が、待ったなしに求められています。

(今井 純子 解説委員)

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