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「新しい世界秩序とG7の役割」(時論公論)

二村 伸  解説委員

G7サミット・主要7か国の首脳会議が、26日、イタリアのタオルミーナで始まりました。世界の経済的な課題や安全保障、地域の様々な問題に対処するため、先進国の首脳が知恵を絞りあってきたG7は、時代とともに変質し、存在意義が問われることもしばしばありましたが、今年のサミットは近年になく注目を集めています。伊勢志摩サミットからたった1年とは思えないほど、世界がめまぐるしく揺れ動き、首脳の顔ぶれが大きく変わったからです。とりわけトランプ大統領の言動はG7のあり方をも変えかねず、サミット関係者は、G7の歴史の中でも今回ほど予測の難しい会議はないと話しています。世界が不確実性を増す中で、新しい首脳を含めた7人が初めて一堂に会するこの場でどのようなメッセージが打ち出されるのか、各国の思惑とG7の役割について考えます。

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解説のポイントは、
▼今年のG7の主要な議題と注目点
▼G7が担ってきた役割と課題
▼そしてG7の今後です。

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まず、こちらの写真は、去年5月の伊勢志摩サミットの首脳たちです。中央の議長を囲んで、国家元首と在任期間が長い首脳から順に並ぶ暗黙のルールがありますが、わずか1年足らずの間に安部総理大臣の両脇に立ったオバマ、オランド米仏両大統領を含め、7人中4人もの首脳が表舞台から去りました。
代わって登場したのは、既存の政治を打破しようとするアメリカのトランプ大統領と、フランス史上最年少のマクロン大統領、イギリスのEU離脱を主導するメイ首相、そして議長国イタリアのジェンティローニ首相です。フレッシュで個性的な顔ぶれとなった今年のサミットは、イタリア・シチリア島のリゾート、タオルミーナで26日と27日の2日間にわたって開催されます。

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主要な議題は、
▼世界経済と貿易
▼地球温暖化対策
▼移民・難民問題
▼テロ対策とシリアをはじめとする中東情勢
▼それに北朝鮮問題やウクライナ危機などの地域情勢です。

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日本時間の午後8時に始まった昼食会と、それに続く最初のセッションで首脳たちは、テロ対策や中東情勢、それに北朝鮮問題などについて協議し、その後、経済・貿易と温暖化対策について話し合っているものと見られます。これまでのサミットは世界経済から議論を始めるのが通例でしたが、今回政治外交・安全保障を最初のテーマとしたのは、合意しやすい議題から入り、難航が予想されるその後の協議を円滑に進めたいからではないかといった見方もあります。

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アメリカファーストを掲げるトランプ大統領と、EU各国との共存より独自の道を歩むメイ首相に対し、EUを軸に多国間主義を訴えるメルケル首相とマクロン大統領、各国の立場が異なる上、これから選挙を控えた首脳や、難しい内政問題を抱えた首脳もいて、思惑はそれぞれです。自由と民主主義、人権、法の支配など価値観を共有してきたG7は、トランプ大統領によってその枠組みすら揺らぎかねず、大きな岐路にあります。私はこれまでG7・G8サミットを10回ほど取材してきましたが、これほど首脳たちの向いている方向が違うことはありませんでした。

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とくに違いが目立つのは貿易と地球温暖化対策、それに移民・難民問題です。
貿易では、保護主義に反対し、自由主義こそ成長と雇用をもたらすとする日本やヨーロッパに対し、アメリカ・トランプ政権は保護主義的な政策を打ち出しています。温暖化対策では、パリ協定からの離脱を公約に掲げて当選したトランプ大統領を各国がいかに説得するか、貿易よりも難しい議論が予想されます。また、移民や難民を制限するため国境管理の強化を求めるアメリカとイギリスに対し、多様性のある社会をめざすドイツやフランス、カナダなどは、移民は脅威でなく機会と捉えるべきだと寛容な姿勢を示しています。こうした各国の思惑の違いをどこまで埋めることができるかが焦点です。トランプ政権は、これ以外にも世界の貧困や食糧危機、途上国の保健・教育など、これまでG7が力を入れてきた地球規模の問題に対する取り組みに消極的で、G7が国際社会で果たしてきた役割を放棄しかねないと懸念する声が各国NGOから上がっています。

従来のサミットでは、シェルパと呼ばれる各国政府高官による事前の協議で、首脳の会議が始まるまでには全体の9割は決まっていたということですが、今回はどんな決着を見せるか方向性が見えません。

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70年代から長年サミットにかかわりシェルパもつとめた小田部陽一氏は、「G7は炉端で少人数の首脳が忌憚なく意見を述べ注文をつける場だが、新顔ばかりでどこまで闊達な意見交換ができるか注目したい。G7のレゾンデートル・存在理由が問われ、後世に歴史の1コマと位置づけられるかもしれない」と話しています。

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G7は,今から42年前、フランスのランブイエで開かれた先進国首脳会議に端を発します。オイルショック後の景気後退の中で、世界経済の立て直し策を話し合うためフランスのジスカールデスタン大統領の呼びかけで開催されました。メンバーはアメリカ、日本、西ドイツ、イギリス、フランスとイタリアの6か国、翌76年カナダが加わってG7体制が確立。
自由と民主主義を旗印に冷戦終結後の世界を牽引し、98年のイギリスのバーミンガム・サミットからはロシアも正式メンバーに加わりました。冷戦時代西側と敵対し、ソビエト連邦崩壊後は経済が破綻、いわば途上国に近いロシアを仲間に加えたのは、ロシアをとりこんで改革を進めさせるとともに、NATOの東への拡大に理解を得る狙いもありましたが、2014年ウクライナ危機でロシアが軍事介入、クリミアを併合したことから資格停止となりG8の枠組みが崩れて再びG7となっています。

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1990年代半ばまで世界全体のGDPの70%近くを占めていたG7は、2008年のリーマンショック以降そのシェアが50%を割りました。一方で新興5か国のGDPは10年で3倍に増え、G7の影響力は低下、存在意義が問われるようになりましたが、
新興国の経済が低迷し、G20も世界の様々な問題を解決する体制にはなれず限界を露呈、再びG7の役割が見直されています。

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戦後の国際秩序を否定し、新たな秩序を築こうとしているロシアや中国による覇権主義、拡張主義に対抗できるのはG7であり、テロとの戦いや過激派組織ISの封じ込め、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への圧力強化のためにもG7の結束が欠かせません。

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その鍵を握るトランプ大統領に対して各国首脳は、自由貿易体制が1930年代、各国が保護主義に走り世界大戦を招いた反省から築き上げられたこと、そして一国主義に走らず、G7の枠組みの中で、世界の安定と持続的な成長のために主導的な役割を担うことが、アメリカの利益となることをトランプ大統領に対して粘り強く説得し続けるしかありません。1年前、伊勢志摩サミットで、自由と民主主義、人権などの基本的価値を共有し、核兵器のない世界の実現に向けて結束を確認したアメリカを含むG7各国は、40年余りにわたって積み上げてきたG7の歴史を受け継ぐ責務があります。

(二村 伸 解説委員)

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