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「イラン ロウハニ大統領再選 対米関係は」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■イランで、19日に行われた大統領選挙で、
アメリカなど主要国との交渉で、歴史的な核合意を実現させた
「保守穏健派」のロウハニ大統領が再選されました。
折しも、アメリカのトランプ大統領は、就任後初めての外遊で、
サウジアラビアやイスラエルを訪問し、
「対イラン包囲網」をつくろうと呼びかけました。
2期目を迎えるロウハニ政権の課題、
とりわけ、アメリカとの関係がどうなるかを考えます。

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■解説のポイントは、
▼ロウハニ大統領が再選された理由。
▼ロウハニ政権、2期目の課題。
▼そして、アメリカとの関係、および、イラン核合意の行方です。

■まず、最初のポイントです。
今回の大統領選挙には、最終的に4人が立候補し、
「保守穏健派」のロウハニ大統領と
「保守強硬派」で、前の検事総長のライシ師の、
事実上2人の争いとなりました。

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投票の結果、得票率57.1%のロウハニ大統領が、
得票率38.3%のライシ師に大差をつけ、当選を決めました。

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イランの国民は、ロウハニ大統領の対話路線の継続を選択したのです。
多くの国民は、反米の「保守強硬派」が政権を奪還し、
再び、国際的な孤立や、厳しい経済制裁にさらされることを望んではいませんでした。

国際社会も、もし、ロウハニ氏が敗れ、「保守強硬派」が政権を奪回すれば、
核合意をはじめ、ロウハニ政権の成果が水の泡となり、
イランが、再び欧米と対決する道を進むのではないかと懸念していましたが、
そうした事態は避けられました。

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1979年のイスラム革命後のイランは、
イスラム法学者が統治する「政教一致」の体制で、
最高指導者にすべての権力が集中しています。
国民の直接選挙で選ばれる大統領は、政府のトップですが、権限は限られ、
国の重要な決定は、最高指導者のハメネイ師が行います。

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国内の政治勢力は、イスラム革命の原則に忠実な「保守派」と、
自由の拡大を求める「改革派」に分けられます。
現在、「保守派」が権力を独占していますが、
その「保守派」も、アメリカを強く敵視する「保守強硬派」と、
国際協調も重視する「保守穏健派」に分けられます。

イランは、「保守強硬派」のアフマディネジャド前政権のもとで、
核開発問題などで国際的に孤立し、
国連や欧米各国の制裁で経済的にも行き詰まっていました。

「保守穏健派」のロウハニ師は、前回4年前の大統領選挙で、
核開発問題を外交交渉で解決し、制裁を解除させると公約し、
国民の支持を集めて当選しました。

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その後、アメリカなど主要6か国との厳しい交渉の末、
おととし7月、「イラン核合意」を実現させました。
イランが核開発を大幅に制限する代わりに、
国際社会がイランへの経済制裁を解除するという合意です。
その結果、外国との貿易や投資が再開され、
経済の柱である原油の輸出量は、この1年で倍増しました。

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▼選挙戦で、ロウハニ大統領は、
アメリカなどとの直接交渉で核開発の権利を認めさせ、
経済制裁を解除させた実績をアピールし、対話路線の継続を訴えました。

▼これに対し、「保守強硬派」のライシ師は、
核合意では、イランの経済や国民の暮らしは改善されなかったと厳しく批判し、
外国に頼らない自立型の経済を目指すと主張しました。
ライシ師は、最高指導者ハメネイ師とも近く、
その後継者候補の1人と目されています。

ロウハニ大統領の得票率が50%を上回ったため、
決選投票は行われず、1回目の投票で再選が決まりました。
とは言うものの、多くの専門家は、
政治経験も知名度もないライシ師が4割近くの票を獲得したのは、
ロウハニ政権への不満が予想以上に広がっているためと見ています。

■続いて、ロウハニ政権の2期目の課題について考えます。

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まず、経済を一層向上させる必要があります。
多くの国民は、ロウハニ大統領の対話路線を支持したものの、
その成果に満足していません。
核合意による制裁解除は、期待していたほど進まず、
暮らしが良くなったという実感が得られずにいるのです。

とくに若い世代の人たちが、なかなか仕事に就けないという
雇用の問題に直面しています。
15歳から24歳までの若者の失業率は、現在およそ30%と、
核合意ができる前よりも、むしろ悪化しています。

2期目のロウハニ政権は、内政を安定させるためにも、
イランの経済を目に見える形で、改善させなければなりません。
若者たちに雇用の機会を提供することが、とくに重要です。
経済制裁の解除を着実に進め、外国の資本や技術を導入し、
産業を育ててゆく必要があります。

そのためには、主要国、とくに、アメリカとの関係がカギを握ります。
アメリカは、核合意の成立後も、イランを「テロ支援国家」に指定したままで、
イランのミサイル開発やテロ支援を理由に、独自の制裁を続けています。
金融機関も対象となり、米ドルによる決裁ができませんので、
アメリカ以外の外国企業も、イランとの貿易や投資に及び腰です。

ロウハニ大統領は、
「今後4年で、すべての制裁を解除させるよう、全力で取り組む」と公約しました。
しかし、アメリカで、イランに極めて敵対的なトランプ政権が発足したため、
その実現は極めて困難と言わざるを得ません。

■ここからは、今後のイランとアメリカの関係、
そして、イラン核合意はどうなるのかを考えます。

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トランプ政権は、イランに対し、強い敵意や不信感を抱いており、
先月から、対イラン政策を全面的に見直す作業を進めています。

トランプ大統領は、
核合意について、イランが核保有国になるのを遅らせることはできても、
阻止することはできないとして、「最悪の合意」だとこき下ろしていました。
そして、自らの選挙戦中には、核合意を「破棄する」などと発言していたため、
実際どうするのかが注目されました。

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トランプ政権は、先週17日、
核合意にもとづく制裁の解除を継続すると発表しました。
国連安保理のお墨付きも得た国際合意で、
イランもこれを守っていることから、
当面は、核合意を維持する方針に切りかえたようです。

一方で、トランプ政権は、同じ17日、
イランの弾道ミサイルの開発に関わった疑いがある個人や企業に対し、
新たな経済制裁を科すと発表しました。

そして、就任後初めての外遊として、今週、
サウジアラビアとイスラエルを訪問したトランプ大統領は、
イランの脅威を繰り返し強調したうえで、
「対イラン包囲網」を築いてゆく方針を打ち出しました。
サウジアラビアには、最新の迎撃ミサイルシステムなど、
日本円で12兆円にのぼる武器を売却することで合意しました。

このように、あらゆる機会を捉え、イランに対する圧力を強める姿勢で、
ミサイル開発やテロ支援を理由に、制裁を強化してゆくものと見られます。

トランプ政権のこうした強硬姿勢に対し、
ロウハニ大統領は、
「イランは辱めや脅しを受けることを容認しない」と反発しました。

そして、弾道ミサイルの開発については、
「必要な時にいつでも発射実験を行う」と述べ、
怯むことなく続ける姿勢を強調しました。

イランとアメリカは、今後、対立と緊張を深めてゆく可能性が高く、
オバマ政権時代よりも関係が良くなることは、まず考えられません。
対話のチャンネルを維持することさえ難しいかも知れません。

■イランのロウハニ政権は、これまで核合意を守ってきましたが、
もし、制裁解除が進まない状態が長く続けば、
国内の不満を抑えられなくなり、方針転換を迫られるかも知れません。
最終的に、核合意が崩壊したり、有名無実化したりする可能性も排除できません。
そうした事態になれば、中東の軍事的緊張が一気に高まり、
この地域にエネルギー資源を頼る日本も、大きな打撃を受けることになります。

アメリカ、イラン両国と良好な関係を築いてきた日本ですが、
今後、トランプ政権から、
イランへの制裁強化に協力を求められる局面もあると思います。
政府も企業も、状況の変化を見据え、新たな戦略づくりを迫られそうです。

(出川 展恒 解説委員)

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