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「一帯一路 中ロの思惑は」(時論公論)

加藤 青延  解説委員
石川 一洋  解説委員

(加藤)
中国が提唱する経済圏構想「一帯一路」をテーマにした初めての大がかりな国際会議が15日閉幕しました。この会議からは、主催国中国をはじめ、ロシアなど関係する国々のさまざまな思惑も透けて見えてきました。そこで、ロシア担当の石川一洋解説委員とともに、今回の国際会議で浮かび上がった関係国のねらいと、今後の国際情勢について考えてみたいと思います。

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【VTR:フォーラム】
北京で開かれた今回の国際会議には、ロシアのプーチン大統領ら29カ国の首脳を含む130あまりの国の代表団などが参加。最終日のきのうは、あらゆる形の保護主義に反対することなどを盛り込んだ共同声明が発表されました。

【VTR:習近平記者会見】
「『一帯一路』の建設は、全面展開の新しい段階に入った」

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「一帯一路」というのはアジアとヨーロッパとをつなぐ巨大な経済圏構想です。
「陸と海のシルクロード」構想とも呼ばれています。
提唱国の中国にとっては、この地域の経済発展のイニシアチブを中国が握ることで、世界第二の経済大国としてふさわしい影響力をこの地域に浸透させたいねらいがあります。
石川さん、最初に一言、ロシアにとって一帯一路はどのような意味をもつのでしょうか。

(石川)
ロシアは自らをユーラシア・つまりヨーロッパとアジアをつなぐ大国であり、この中国の壮大な構想はロシア自身の地位に大きな影響を与えるとしている。そのためロシアは一帯一路において、ロシアが脇役ではなく、主要な貿易路として主役となるべきだと考えている。

(加藤)
この地図は中国側メディアが伝えたものを元にしていますが、陸路について、あえてモスクワを経由させるルートとして描かれているのは、そうしたロシアの思惑に配慮したものといえそうです。
石川さん、一帯一路をめぐる中国とロシアの思惑にはだいぶ違いがありそうですが、それでもプーチン大統領は、今回、中国主催の国際会議に参加しその存在感を示しました。その思惑はどこにあるのでしょうか。

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(石川)
ロシア中心にカザフスタン、キルギスタンなど旧ソビエト諸国とユーラシア経済連合を発足させ、人、もの、資本の流通を自由化しています。ロシアルートを使えばすでに制度としての交易路は存在するというわけです。ロシアが言うユーラシアとは旧ソビエト圏と同じ意味で、自らの影響力を確保したいという思惑が隠れています。特に安全保障面では、ロシアはユーラシア経済圏の諸国と集団安全保障条約という相互防衛条約を結び、中国を除いたロシア中心の枠組みを崩していません。
しかし中国の一帯一路はこのロシア中心の枠組みを飲み込むものともなりえます。中央アジアを通ってアゼルバイジャン、グルジアなどのコーカサス、さらにウクライナを通ってロシア抜きにヨーロッパへの最短の交易路が実現してしまいます。ヨーロッパ諸国が一帯一路に参加するのは、中国の資金でロシア抜きの物流の流れを築こうとしているのではないかという警戒感を持っています。ただロシアとしても囲い込むことだけではジリ貧と考え、戦略的パートナーである中国と連携することで影響力を確保したいとしています。苦渋の決断といえるのです。

(加藤)
いささか同床異夢のところもあるようですが、どうしても一帯一路を成功させたい中国は、構想をさらに進めるため、今回、一帯一路の原資ともなる「シルクロード基金」に1000億元、日本円でおよそ1兆6000億円あまりを追加拠出することを明らかにしました。

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(スタジオ)
そもそも中国が「一帯一路」構想を打ち出したのは、中国が東側に張り出して超大国アメリカとぶつかることは避け、西側、つまりユーラシア大陸に活路を見出そうという発想でした。
つまりアメリカとの対立を避ける狙いがあったのですが、先月はじめにアメリカで行われた米中首脳会談をきっかけに、中国のアメリカとの立ち居地に少し変化が現れました。

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首脳会談後の夕食会で、トランプ大統領から突然、シリアに対して武力攻撃を行ったことを打ち明けられ、習近平主席は、理解を示したと伝えられました。トランプ大統領は、大いに感謝し、米中の間合いがだいぶ近づいたように見えました。

(スタジオ)
どうもあの時をきっかけに、シリアを支持してきたロシアと中国との関係が逆に少しギクシャクしたように見えたのですが石川さんいかがでしょうか?

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(石川)
連携してきた中ロに隙間風が見えたのは確かです。トランプ政権によるシリアへの突然ミサイル攻撃では、習主席がトランプ大統領と首脳会談の最中で、プーチン大統領としては電話をかけることもままならない、本来は中ロ連携を示す場であるのに、いわば中国をアメリカに囲い込まれたという思いが強いのです。北朝鮮問題も緊迫する中で、プーチン習両首脳は一度も電話会談も行いませんでした。中国がアメリカに擦り寄ったのかとの不快感も心の中では持っているかもしれません。

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一方プーチン大統領も、トランプ大統領が、民主化など他国の内政に過度に介入する姿勢を示さないのであれば、双方の利害を調整することは十分可能と考えています。これから7月にも行われる初めての米ロ首脳会談に向けて、米ロの接触が活発になっています。
それだからこそ、プーチン大統領は、アメリカとの交渉で強い立場に立つためにも、中国との戦略的パートナーシップに揺らぎは見せたくない。今回の首脳会談はシリアなどでできた隙間を埋めて改めて連携を確認するという意味があるのです。

(加藤)
実は今回、中国は国境を接する二つの国から冷や水を浴びせられた形になりました。ひとつは、地理的に海のシルクロードの中心に位置する南アジアの大国インドです。

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インドは、会議への招待を受けながらも政府代表の派遣を拒否しました。中国がパキスタンで進める経済回廊や、インド洋周辺国にいわゆる「真珠の首飾り」といわれる港湾建設を進め、インドをけん制するような動きに出ていることに不快感を示したものと見られます。
石川さん、インドはロシアと友好な関係にありますが、今回のインドの行動をロシアはどう見ているのでしょうか。

(石川)
中ロの国益が常に一致するわけではありません。インドへの対応が典型的です。ロシアはインド、イラン、つまり南の大国との間でエネルギーを中心に南北の回廊を強化したいとして、インドをロシアのエネルギー権益に積極的に招き入れているのです。中国との関係を大事にしながらもバランスを取るのがプーチン外交の本質です。

(加藤)そして、もうひとつの国が北朝鮮です。

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中国は北朝鮮に対して、核やミサイルの開発をやめるよう説得をしてきたのですが、今回の国際会議の開幕式にあわせるかのように新型ミサイルの発射実験を強行し、まさに主催国中国の顔に泥を塗る形になりました。

(スタジオ)
石川さん、北朝鮮に対してロシアは融和的な態度をしめしていますが、今回はどう対応しようとしているのですか。

(石川)
プーチン大統領は北朝鮮の弾道ミサイル発射について「有害で危険だ」と述べて批判しています。高度2000キロという高高度へのミサイル発射の場合わずかな軌道のずれでロシア極東にも被害を及ぼしかねず、ミサイル防衛部隊は高度な警戒態勢をとりもしました。
ただロシアの危機感がほかの国よりも薄いのは事実です。北朝鮮がロシアを標的とすることはないと考えているからです。ロシアは北朝鮮が追い込まれたとき仲介者としての役割を果たす時が来ると見ていて、プーチン大統領も対話を強調しています。

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むしろロシアが警戒しているのは北朝鮮を理由にアメリカのグローバルなミサイル防衛が北東アジアに展開することです。北朝鮮に自粛を求めつつ、ロシアは日米のミサイル防衛強化の動きへの警戒感を強め、中国と連携するでしょう。中ロ双方ともに、アメリカと対等な関係を築くためにも当面、中ロ関係を強化するのが得策、つまりお互いに相手を利用しようというしたたかな考えがあるのではないでしょうか。

(加藤)
これまで見てきましたように、「一帯一路」という巨大な経済圏構想の背後にも、経済と安全保障の両面から世界に影響力を行使しあおうとする大国のせめぎあいがあることが今回の国際会議でも浮かび上がったといえます。そうした複雑な力学の中でしたたかに振舞う大国に振り回されるのではなく、逆にその動きをしっかりと見極め、適切に対応できる心構えと才知を持つことが今後私たちにとっても、ますます重要になってくると思います。

(加藤 青延 解説委員/石川 一洋  解説委員)

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