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「憲法70年 国会と国民の議論は」(時論公論)

清永 聡  解説委員
安達 宜正  解説委員

日本国憲法は施行から70年を迎えました。
憲法はこれまで一度も改正されず、戦後日本の進路を定めてきました。しかし、安倍総理大臣がこれまでより踏み込んだ発言を行うなど、憲法の改正をめぐって、今、さまざまな意見が出ています。国会の議論と、私たち国民にとって大切なことは何かを考えます。

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【憲法70年・国会の状況は】
(清永)
昭和22年。皇居前の広場では雨の中記念の式典が行われ、昭和天皇と共に新しい憲法を祝いました。戦後日本の出発を象徴した憲法ですが、70年となる今、政治や社会は大きく変化しています。

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(安達)
憲法改正の発議が行う政治環境が整いつつあることは確かです。1つは国会です。衆参両院で与党と日本維新の会など憲法改正に前向きな勢力が発議に必要な3分の2を占めています。もう1つは安倍総理の存在です。

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3日も憲法改正を目指す集会にビデオメッセージを寄せ、憲法改正を実現し、2020年までその施行を目指す意向を示しました。自民党総裁任期が最長で2021年9月まで延長され、そこまで総理をつとめる可能性があります。これまでも在任中の憲法改正に言及してきましたが、今回のメッセージでは改正項目として、憲法9条に自衛隊に関する条文の追加や高等教育の無償化を例示、さらに踏み込む形となりました。ただ、これには国会の発議権を侵すことにもつながるという批判もあります。いずれにせよ、憲法施行70年はそうした政治状況で迎えたことをまず、押さえていく必要があります。

【国民の意識は】

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(清永)
一方で、国民の意識はどうでしょうか。今回のNHKの世論調査で、印象深かったのは、前回2002年の調査との比較です。「憲法を改正する必要があると思う」という答えは「必要がない」を上回りましたが、前回より15ポイント低くなりました。安倍総理が具体的な改正項目の1つとして例示した憲法9条についても、改正が必要ないとする答えが半数を超え、前回と比較すると5ポイント増えています。
このデータを見ると、国民にとって本当に「機は熟した」と言えるのでしょうか。

【国会の改憲議論は今】

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(安達)
参議院選挙後、しばらく開かれていなかった衆議院の憲法審査会が再開され、これまでに▼参政権や▼緊急事態条項をテーマに各党の意見表明や参考人質疑が行われました。ただ今国会はこうした討議が続く見通しで、具体的な改憲案の絞り込みは早くても次の国会以降になるという見方が出ています。

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その一方で自民党が憲法改正に取り組む姿勢を強めているともまた確かです。野党時代にまとめた「憲法改正草案」を事実上、棚上げしたのはその表れです。この草案は保守色が強く、これを事実上、棚上げすることで公明党に加え、野党との接点を探る動きに出たと言えます。

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また、自民党を除けば、具体的な改憲案を示しているのは維新とこころです。維新は改憲項目として▼教育の無償化▼統治機構改革など3点をあげています。民進党では細野前代表代行が私案をまとめました。民進党内で細野氏の案に同調する声が広がっているとは必ずしも言えませんが、教育や地方分権をテーマとしている点は維新と重っています。
(清永)
ただし、これらのテーマが一度に全部改正されることはありません。憲法を改正する際には、内容を区分して個別に発議することが定められているからです。これらの中で現実に、どのテーマを絞り込んでくる可能性があるのでしょう。

【高等教育の無償化】

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(安達)
考えられるのは「高等教育の無償化」です。2つ理由があります。1つは教育が安倍政権の重点政策だからです。「教育再生」を掲げ、▼給付型奨学金の創設や▼道徳の教科化などを進めてきました。もう1つは発議に向けた現実的な選択と考えられるからです。発議を行うには野党の一部。少なくとも維新の協力は欠かせず、このテーマならば賛同が得られる可能性は高いからです。
(清永)
ただ、「高等教育の無償化」をわざわざ憲法に書き込む必要があるのかと思います。憲法をわざわざ改正しなくても、政策を具体的に進めていく中で実現していけばいいのではないか。「給付型奨学金の拡充」など財源を確保すればできる話だという反論もあります。
(安達)
こうした意見は連立を組む公明党にもあります。また民進党や共産党などからは「お試し改憲」との批判もあります。自民党の本当の狙いは戦力の不保持などを定めた、憲法9条の改正。その本丸を狙う前に既成事実を作りたいだけだという批判です。

【国民の憲法議論は】

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(清永)
世論調査ではもう1つ気になる結果があります。「憲法の議論が深まっているか」という質問に、「深まっていない」と答えた人が、合わせて67%、3分の2に上っていることです。
(安達)
国会での議論に比べ、国民の間で憲法改正議論が必ずしも積極的に行われていない現実を示しているのでしょう。

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(清永)
国民の議論に水を差すような動きも見られます。
金沢市では、憲法を守る立場のグループが憲法集会を計画したところ、市が市役所前広場の使用を認めなかったことが明らかになりました。
また、憲法改正をめざすグループによると、やはり催しで会場の使用が認められなかったケースがあったということです。
こうした活動を制限する動きは、ここ数年各地で後を絶ちません。
(安達)
学校教育の現場でも憲法問題を扱いにくいという声をよく聞きます。しかし、改憲が発議されても、最終的には18歳以上の国民すべての人に判断が迫られます。憲法改正が具体的な議論になってきているのならばなおさらのこと、議論の環境を整えることが必要です。

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(清永)
「政治的中立」と言いますが、本来は様々な考えに接することで、中心がどこかを考えることができるはずです。多様な言論を確保し、意見を交わす場はむしろ欠かせません。もし、「政治的中立」という名目で消極的な姿勢が繰り返されれば、憲法を語ることは難しくなり、国民の関心はますます低くなってしまうでしょう。

【今後の焦点は】
(安達)
国会の憲法をめぐる議論ですが、自民・公明両党ともに今の段階では発議を目指すならば、民進党も含めた大多数の賛成が不可欠と言う立場です。しかし民進党は安倍総理在任中には憲法改正に賛同しないとしています。3日の護憲派の集会で、蓮舫代表が共産党や自由党、社民党の幹部とともに参加したのはその象徴です。

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そうなると、どこかの段階で自民党が方針転換、与党と維新などで発議を目指すことになるかもしれません。また衆議院解散がなければ来年12月まで、国政選挙はありません。この間に発議を目指すのか、それとも衆院選を行った後になるのかも焦点となります。

【国民も憲法を考え議論する機会を】
(清永)
憲法については、政治と国民とが等しく議論を重ねることが本来、必要なはずです。本当に憲法を改正する必要があるのか。そして改正するならばどの項目か。私たちがしっかりと判断するためにも、もっと憲法を知り、幅広く議論できるようにすることが、70年を迎えた今、求められるのではないでしょうか。

(清永 聡 解説委員 / 安達 宜正 解説委員)

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