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「トランプ政権100日から見えたもの」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任してから100日という節目を迎えます。
「これほど社会を分断し、混乱を招き、実績にも乏しい政権はかつて無かった」多くのアメリカのメディアが、そう酷評する一方で、「就任当初の不安感は解消されつつある。むしろ経験の無さを強みに変えて、従来のワシントン政治を刷新して欲しい」そうした期待の声があるのもまた事実です。はたして、この100日間から何が見えたのでしょうか?

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トランプ政権がいま、外交・安全保障の課題にどのように取り組んでいるのか?
内政の課題にはなぜ停滞が目立つのか?その原因を探り、
今後のトランプ大統領による政権運営の行方を考えます。

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まず、就任100日を控えた支持率を見てみましょう。
この調査では、トランプ大統領を「支持する」と答えた人は42%、「支持しない」と答えた人は53%でした。歴代大統領のうち、最近の5人が1期目の同じ時期、どれぐらいの支持率があったのかと比べてみても、最低の水準にとどまっていることがわかります。

アメリカの大統領にとって、就任直後の100日間は、新しい政権への期待から、世論もメディアも批判を控える傾向にあることから「ハネムーン期間」と呼ばれます。
しかし、トランプ政権は当初から「ハネムーン期間」は一切無かったのです。
アメリカの世論を真二つに引き裂いた去年の激しい選挙戦の影響もあるからでしょう。

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そこで、選挙戦で争点にはならなかった北朝鮮による核とミサイル問題への対応について、いまのトランプ政権による取り組みがどう評価されているのかを見てみましょう。
トランプ政権による対応は「概ね正しい」と答えた人は46%、「攻撃的すぎる」と答えた人は37%、逆に「慎重すぎる」と答えた人は7%でした。
北朝鮮に対して「あらゆる選択肢を排除しない」そう唱えるトランプ外交に危うさを感じる人がいるのは確かです。しかし、トランプ氏は、行政経験も軍務に就いた経験もないアメリカ史上初めての大統領です。とりわけ外交・安全保障の手腕を不安視されていたことを考えれば、まずますの評価と言っても良いでしょう。
トランプ大統領自身、内政の課題が早くも行き詰まりを見せるなか、こうした評価にさぞ自信を深め、外交・安全保障に政権浮揚への活路を見出したいと考えたとしても不思議はありません。

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現に、就任当初は「アメリカファースト」の名のもとに、「世界の警察官にはならない」と公言していたトランプ大統領ですが、シリアで化学兵器が使われたと伝わるや、軍事攻撃を即断し、世界をあっと言わせました。
「越えてはならない一線を越える無法なふるまいには、力の行使をためらわない」それが“トランプ・ドクトリン”だというのです。

もっとも、対話と圧力のバランスをとりながら“力によって裏打ちされた平和”を目指すのは、共和党政権による外交・安全保障に伝統的な考え方でもあります。政権発足当時、国家安全保障担当の大統領補佐官に就任したフリン氏が、ロシアとの関係を疑われて早々と辞任に追い込まれ、後任に、いまのアメリカ軍きっての“戦略家”と言われるマクマスター補佐官を迎えたことが、影響しているのでしょう。

実際、トランプ大統領は、就任前から米ロ関係の改善に強い意欲を見せる半面、中国との
貿易不均衡の問題には強硬な攻めの姿勢を見せていました。ところが、ロシアによるアメリカ大統領選挙への介入疑惑が明るみに出て、みずからの政権に火の粉が降りかかってくると、がらり反転。いま米ロ関係は、シリア攻撃をきっかけに、さらに冷え込んでいる一方で、米中は急接近しています。
北朝鮮への対応で中国から協力を取り付けるためとして、「中国を為替操作国に認定する」そうくり返し叫んできた公約の実現もトランプ政権は見送りました。
良く言えば“柔軟”、悪く言えば“場当たり的”それがトランプ外交の特徴なのでしょう。

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では、そうした“変わり身の早さ”は、なぜ内政では発揮されていないのでしょうか?
トランプ大統領は、選挙戦の最終盤で打ち出した「100日行動計画」を有権者との契約と位置づけ、就任早々から大統領令を矢継ぎ早に連発してきました。
しかし、これまでに達成できた政策課題の多くは、TPP離脱など、大統領の権限だけで実行可能なものに限られます。
政権交代の目玉政策にするはずだった「オバマケアの見直し」が進まないのも、マーケットが期待する「税制改革」や、自らが固執する「メキシコとの国境の壁の建設」が遅れているのも、議会から協力が得られていないからです。
トランプ大統領の公約実現への道は今、議会という“壁”にぶつかっているのです。

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ただ、与党の共和党は今、議会の上下両院で多数を占めています。なぜトランプ政権は、そうした共和党議員からの支持を掌握し切れていないのでしょうか?
その背景のひとつが、ホワイトハウス内の権力闘争です。
いまトランプ大統領の周囲には、大きく分けて3つのグループがあると考えられています。▼大統領の娘婿、クシュナー上級顧問ら、いわば“身内”のグループは、ウォール街を中心とする経済政策を重視し、穏健派と目されています。
▼これに対してバノン首席戦略官ら保守強硬派グループは、バノン氏が、クシュナー氏との主導権争いの末、国家安全保障会議の主要メンバーから外されるなど、このところ旗色が悪くなっています。
▼本来そうしたホワイトハウス内の軋轢を調整するはずのプリーバス首席補佐官ら、共和党主流派のグループは、いまのトランプ政権では影が薄く、先日「オバマケアの見直し」をめぐり、議会からの協力の取り付けにも失敗してしまったのです。

しかも、いま各省庁の政治任用の人事が一向に進んでいないのも、こうした権力闘争と無縁ではありません。トランプ政権は、発足100日を迎えた今も、政府の高官レベルに異様なほど空席が目立つのです。

大統領に最も近いところに、大統領自身の“身内”を配したトランプ政権。いまのホワイトハウスは、国家の統治システムの頂点と言うよりは、いわば“ファミリービジネス”ではないかと批判する声も絶えません。

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こうしたトランプ大統領による政権運営に、有権者による次の審判が下るのは、来年11月、議会上下両院の中間選挙です。
前哨戦は早くも始まっています。トランプ政権の閣僚に共和党議員3人が転出したことに伴う議会下院の補欠選挙で、共和党は今月、中西部カンザス州で接戦を制し、議席を守りました。しかし、南部ジョージア州の選挙は6月の決選投票にもつれ込むことになりました。来月の西部モンタナ州の選挙も、どうなるかわかりません。
いま野党・民主党陣営は、去年の大統領選挙の雪辱を果たそうと、来年の中間選挙に向けて、“反トランプ”を掲げ、攻勢をかけています。トランプ大統領としては、そうした攻勢をかわすためにも、みずからの政策課題に早く実のある成果を挙げたいところでしょう。就任から「まだ100日」とは言っても、残された時間には、それほど余裕はないのです。

100日間は、大統領の4年の任期から見れば、わずか7%足らずの通過点に過ぎません。そうした短い期間で、今後の政権の浮沈を占うことが難しいのは確かでしょう。
トランプ政権は、歴代どの政権にも増して、予測不能であることも変わりません。
その一方で、この100日から見えたのは、状況の変化や世論の動向に応じて変幻自在、良くも悪くも一貫性を欠くことに一貫性を持つ、世にも稀な大統領の姿です。
いま私たちが見ているトランプ政権には、“政権本来の実体”と呼べるものは、実は何もないのかも知れません。

(髙橋 祐介 解説委員)

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