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「辺野古護岸工事開始 国・沖縄の対立は」(時論公論)

西川 龍一  解説委員
安達 宜正  解説委員

沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設に向けて、国は埋め立て区域の外側を囲う護岸工事に着手し、沖縄の反発は強まっています。今夜は予定を変更してこの問題について、政治担当の安達解説委員とともにお伝えします。

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安達さん、埋め立て区域での初めての工事、大きな意味を持ちますね?

【安達】
返還合意から21年。重大局面と言っていいでしょう。専門家に聞くとこれが本格的に始まれば原状回復は困難、いわば後戻りができない可能性もあるといいます。

【西川】
確かにこれまでの海上での作業は、濁った海水が広がるのを防ぐ「汚濁防止膜」を海底に沈めた巨大なブロックに固定する工事でした。ブロックの撤去による原状回復はまだ可能な状況でした。
今回始まった護岸を造る工事は、大量の石材を海に沈めて海底に積み上げて造ることになっています。さらに、沖縄防衛局は、護岸で囲うことができた場所から土砂を投入して埋め立てを始める計画です。埋め立てに使われる土砂は、2000万立方メートルあまり。東京ドームおよそ16杯分になります。これだけの量が実際に海に投入されれば、建設予定地となっている海を元の状態に戻すことは困難です。

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翁長知事があらゆる手段で辺野古移設を阻止する考えを崩していないこともあり、沖縄県は、海上での作業を止めるため、防衛局への働きかけを進めてきました。海の埋め立てに必要な沖縄県知事による海底の岩礁を壊すための「岩礁破砕許可」が先月末で切れたことから、先月28日に工事の一時中止を指示しました。さらに、今月に入っても防衛局が海上でのボーリング調査を続けていたため、調査を行うには協議が必要だとして文書で通知。しかし、防衛局側は、県との協議にも応じないまま、きょうの工事に踏み切った形です。

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【安達】
政府にしてみれば当初の計画通りです。菅官房長官。記者会見で「普天間全面返還の確かな一歩」と述べました。去年12月、沖縄県と争って勝訴した最高裁判所の判決。その前の沖縄との和解条項に従って、計画通りに着手したというわけです。それに加えて、おとといのうるま市長選挙で自民党と公明党が推薦した候補が翁長知事などの推した候補を破ったことも、後押ししたと言えるかもしれません。

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【西川】
確かに、うるま市長選挙の前にも今年に入って、宮古島・浦添とあわせて3つの市長選挙で、翁長知事らの推す候補が相次いで敗れたことで、翁長知事の求心力が低下しているという声は、沖縄県内でも聞かれます。

【安達】
政権与党には県政の流れが変わった。「翁長知事が言う、オール沖縄は全く現実と違う」という自信の声も聞こえてきます。ただ、その一方で、こうした選挙では辺野古移設問題が大きな争点になっていないこともまた事実です。さらに言えば、3市とも、もともと政権与党の側が市政を握っていました。市長としてのこれまでの実績をアピールしたことが有利に働いたと見る向きもあります。

【西川】
そうした状況をみてみますと、一連の市長選挙の結果だけで沖縄県民の辺野古移設に対する意識が変わったとは言えません。

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今回の海上での護岸工事着工を受けて翁長知事は「さんご礁の生態系を死滅に追いやるおそれのある環境保全の重要性を無視した暴挙だ」と批判し、「護岸工事は始まったばかりで、2度と後戻りができない事態にまで至ったものではない。あらゆる手段を適切な時期に行使し、県民との約束を守るため全力で闘う」と述べました。
具体的な手立てとして考えられるのは、「工事差し止め訴訟」と「埋め立て承認撤回」です。撤回は、最高裁で認められなかった承認の「取り消し」とは別に承認後新たに重大な事由が生じた場合に承認そのものを撤回するものです。撤回すれば、移設工事はいったん止まることになります。沖縄県は、埋め立て工事に必要な「岩礁破砕許可」を更新しないまま国が工事を進めることが新たな事由に当たると考えています。
ただ、政府も黙っていないでしょうね?

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【安達】
岩礁破砕許可を再申請しなかったのは地元の漁協が漁業権を放棄したからというのが政府の主張です。それはそうと翁長知事が撤回を決めたら、政府も対抗措置をとることは間違いないでしょう。承認撤回の効力の停止。これを求め、再び法廷闘争が始まることになるでしょう。それに加え、移設作業が中断すれば、人件費などの損失を被ります。政府関係者は、損失額は1日あたり、数千万円に上るといいます。この損害賠償を沖縄県に求める訴訟。さらに翁長知事個人に対する損害賠償請求も検討すべきだという声もあります。ただ実際にこれに踏み切ることになれば沖縄県との関係。さらに県民との関係がより悪化することになりますので、慎重な意見も強くあります。今の段階では、翁長知事へのけん制と見ていいのではないでしょうか。

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【西川】
沖縄では移設に反対する活動中に逮捕・起訴された市民グループのリーダーに対する勾留が5か月以上続き、国際的な人権団体や法律の専門家から人権侵害との指摘が出ています。政権内部から翁長知事個人への訴訟を示唆する声があがることも含め、沖縄の気持ちに寄り添うと言いながら、現政権は歴代のどの政権よりも強引に普天間基地の辺野古移設を進めていると見られています。国と沖縄県の対立は、抜き差しならないところまで来ていることは確かです。

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【安達】
「世界一危険な基地」と言われ、これをどうにかしなければならないという点では安倍政権も沖縄県と同じです。歴代政権がアメリカ政府との長い交渉で「唯一の解決策」としてまとまり、トランプ大統領との日米首脳会談でもそれを確認している以上、この方針は続くことになります。そうした中で、安倍政権、翁長知事側双方とも、来年の政治決戦に焦点をあわせていると見ることもできます。

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来年が政治決戦の年となるという認識です。年明け1月には名護市長選挙、11月頃に県知事選挙。さらに年内に衆議院解散がなければ、衆院選もあります。

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【西川】
そうかもしれません。沖縄では新たな動きが出ています。自民党沖縄県連は、今月8日の県連大会で辺野古移設を容認する方針を決め、翁長知事との対立軸を示した形です。知事を支援するグループの周辺からは、県民の意思を示すための県民投票を求める声の他、知事自身が辞職して県民投票と当日で出直しの知事選挙を模索してはどうかという声もあります。

【安達】
来年の政治決戦までに政府にはそれまでにできるだけ工事を進め、「後戻りできない現実」を示し、一連の選挙を有利に導きたいという想いもあると思います。一方、翁長知事の側はそれまでどうにか持ちこたえて、民意を問う機会を得て、反転攻勢を狙いたいということではないでしょうか。

【西川】
アメリカ軍キャンプシュワブのゲート前で、移設に反対する人たちが資材の搬入などを阻止しようと座り込みを始めたのは3年前。抗議の座り込みは、すでに1000日を超えています。なし崩し的に工事を進めることは許さないという声がある一方で、ことここに至っては、工事を止めることはできないとあきらめの声があることも事実です。今月28日には、去年、散歩中の女性がアメリカ軍の元軍属の男に殺害された事件から1年を迎えます。この日を3日後に控えた海上での護岸工事着工を、過重な基地負担を抱える沖縄の人たちがどんな気持ちで迎えているのか、思いをはせる必要があります。

(西川 龍一 解説委員 / 安達 宜正  解説委員)

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