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「天皇退位 最終報告」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

天皇陛下の退位などを検討する政府の有識者会議が最終報告をまとめました。天皇陛下の退位を可能とする特例法を整備するとした国会の考え方を前提にしていて、政府は今国会での特例法の成立を目指すことになります。

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解説のポイントです。
▽最終報告の内容は。
▽特例法での退位。
▽残された課題は。

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今回の有識者会議は、国民的な議論を印象づける意味もあって去年9月、政府が設置しました。今年1月、天皇陛下の退位について恒久的な制度を創設する場合と一代限りの特例法整備を行う場合の2つの方向性を示した論点整理を公表しました。その後、国会では、先月、与野党が衆参両院の正副議長のもと、特例法の制定によって退位を可能とする「国会の考え方」のとりまとめに合意。一方の有識者会議は、国会に配慮した形で中断していた議論を「国会の考え方」表明を受けて再開し、きょうの最終報告に至りました。

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最終報告の主な内容です。
天皇陛下の退位については、国会が退位を認める一代限りの特例法の制定を求め、安倍総理が「厳粛に受け止め、ただちに法案の立案に取りかかりたい」などと述べたことから、特例法による退位を前提としました。その上で、退位後の天皇皇后両陛下のお立場や法律的な課題などについて整理しました。
退位後の呼称は、天皇は上皇、皇后は上皇后で、敬称はともに陛下とし、両陛下は退位後も新たに即位する天皇とともに「内廷皇族」として生活費はこれまで通り「内廷費」から支出するとしました。

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一方で、退位後の天皇については、▽再び皇位につく資格、▽摂政や臨時代行に就任する資格、▽皇室に関する重要事項を審議する皇室会議議員となる資格はいずれも有しないことなどが必要としています。また、天皇の公務は、退位後すべて新たな天皇に譲るとすることが適当であるとしました。
公務の継続が将来的に困難になるという退位の理由をふまえるとともに、退位した天皇と新天皇の間で象徴や権威の二重性などの弊害を生まないよう留意した形です。

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皇位継承順位が第1位となる秋篠宮さまは、今の皇太子さまのお子さまではないため、宮家の皇族のまま天皇の跡継ぎの皇嗣となられます。皇太子さまの公務の多くを受け継ぐ可能性が高いため、処遇を「皇太子」と同等とし、ご一家に支給する皇族費を皇太子ご一家並みに増額するとしています。

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なぜ、退位は、一代限りの特例法となったのか。
これについては、恒久的な制度を求める意見も多く、「国会の考え方」のとりまとめでも議論となりました。最終的に「皇位継承は皇室典範の定めによる」とした憲法2条に違反する疑いが生じないよう、皇室典範の付則に「特例法は皇室典範と一体だ」とする規定を設けることになりました。この付則によって今回の特例法が将来の先例となり得るとしたことで与野党が歩み寄った経緯があります。

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有識者会議の座長代理の御厨貴東京大学名誉教授は、皇室典範を改正して退位の要件を設けることは、一見法に則っているように見えても、むしろ恣意的な運用、つまり法律の拡大解釈などで天皇の意に沿わない退位などが起きかねないと指摘しています。時代時代で天皇の抱える事情は異なり、退位の要件をすべて皇室典範の中に網羅することは困難です。限られた時間の中で、ご高齢である陛下のお気持ちをどのように受け止めるのか。「天皇は、国政に関する権能を有しない」と定めた憲法4条に抵触しないという条件の中、慎重で迅速にという難しい要望にこの形で応えることになったのです。

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今回の最終報告を受けて、政府は天皇陛下の退位に向けた特例法の制定を目指すことになります。特例法による退位はどう位置づけられるのか。政府は、法案の概要をほぼ固めています。
法案では、「お気持ち」表明を踏まえて、天皇陛下が憲法に定められた国事行為に加え、被災地のお見舞いなど、象徴としての活動を続けられてきたとしたうえで、83歳というご高齢となり、今後これらの活動を続けることが困難となることに深いご心労を抱かれていることを明記する方針です。
そして、国民がご心労を理解し、共感していることなどをふまえ、天皇陛下の退位と皇太子さまの即位を実現することを定めるなど趣旨を書き込むことにしています。

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また、天皇陛下はこの法律の施行の日に退位し、皇太子さまが直ちに即位する。具体的な期日は、総理大臣があらかじめ皇室会議の意見を聞いた上で、法律の公布から3年を超えない範囲で政令で定めるとしています。

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法案策定にあたっての問題は、やはり憲法との関係でした。お気持ちの表明をもって法の整備を行うということになれば、天皇の政治活動を禁じた憲法4条に抵触するおそれがあります。有識者会議も国会の議論もこの点をどう乗り越えるかがポイントでした。このため法案は、天皇陛下に対する国民の理解と共感が退位につながることを明確にしました。陛下の深いご心労を知った国民世論の要請をふまえて、退位できるよう法整備するという形としたわけです。さらに憲法で世襲制、皇室典範で終身制を規定していることと、今回一代に限って退位を認めるという要件の整合性をつけ、退位という例外について法としての規範性を持たせるという宿題を果たそうとしています。

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さて、3つ目のポイント「残された課題」です。今回の最終報告は、結論には至らなかったものの、「今後一層先延ばしのできない課題」を指摘しました。皇族数の減少という問題です。この問題の対策についての議論が深まることへの期待を盛り込みました。現在皇室は、天皇陛下と皇后さまや皇太子ご一家など18人の皇族で構成されています。このうち皇位継承権のある男性皇族は4人で、皇嗣となる秋篠宮さまより若い男性皇族は、悠仁さまだけです。女性皇族は、天皇や皇族以外の一般の男性と結婚した場合には皇族ではなくなります。安定的な皇位継承を確保するためにはどうするべきなのか。女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設といった根強い反対意見がある問題を含め、政府にとっては皇室問題を考える上で避けては通れない課題です。

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皇室の歴史をさかのぼると、昭和天皇までの124代の天皇のうち、半数近くの58代で譲位が行われてきました。最後の譲位は今からちょうど200年前、江戸時代後期の1817年に仁孝天皇に譲位した光格上皇でした。
最終報告を受けて、政府は、今月中に各党に法案の骨子を示した上で、来月中旬以降に法案を国会に提出します。憲法1条は、天皇の地位は、主権の存する日本国民の総意に基づくと定めています。現憲法下で初めて即位された天皇陛下は、象徴天皇としての自らの務めを日々自ら模索し、国民の期待に応えられようとしてきました。自らの老いを率直に認められた「お気持ち」の表明から8か月、退位は国民の総意であることを示す意味でも、最後は改めて国民の代表である立法府が両院の正副議長のもとでまとめた合意形成を大切にする必要があります。

(西川 龍一 解説委員)

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