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「自衛隊 撤収開始 南スーダンPKOが残したもの」(時論公論)

増田 剛  解説委員

アフリカの南スーダンで、国連のPKO=平和維持活動に参加してきた陸上自衛隊の施設部隊が、現地からの撤収を開始し、きのう、第1陣が帰国しました。南スーダンにおける自衛隊PKOの意義と課題、そして、今後の日本の国際貢献のあり方について考えます。

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解説のポイントです。

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まず、政府が、自衛隊の撤収を決めた理由と背景を分析し、南スーダンでの活動の成果と問題点を検証します。また、今回のPKOに影を差す形となった、いわゆる「日報隠し」の問題の経過や影響を考察し、今後の日本の国際貢献はどうあるべきかを考えます。

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南スーダンの首都ジュバに派遣されていた陸上自衛隊部隊の撤収は、今週17日から始まり、きのう、第1陣の隊員=青森県に駐屯する部隊を出身母体とする70人が、青森空港に到着しました。残りの隊員も順次、帰国の途に就き、来月末までには、およそ350人の全部隊の撤収が完了することになっています。

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南スーダンでは、大統領派の政府軍と元副大統領を支持する反政府勢力の対立が繰り返され、去年7月には、ジュバで大規模な武力衝突が発生。多数の死傷者が出ました。その後、ジュバの治安は、比較的、落ち着いた状態になっているものの、各地に武力衝突が拡大しています。国連も、治安情勢が極めて厳しいものになっているとして、先週、双方に武力の使用を停止するよう緊急の声明を出しました。部隊には、撤収が完了するまで気を抜かず、隊員全員の無事な帰国を実現してほしいと思います。

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さて、日本政府が撤収を決定したのは先月10日。安倍総理は「南スーダンPKOへの自衛隊の派遣は、ことし1月に5年を迎え、施設部隊の派遣としては、過去最長となる。この間、自衛隊が担当するジュバでの施設整備は、一区切りをつけることができた」と理由を説明しました。

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また、菅官房長官は、「ジュバにおいて、撤収せざるを得ないような治安情勢の悪化が生じているとは考えていない」と述べ、撤収は治安の変化が理由ではないと強調しています。
ただ、この説明を額面通りに受け取るべきではないでしょう。

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私は、政府が撤収を決断した背景には、外交と内政の両面にまたがるリスクと、そのリスクを回避する狙いがあると考えます。
まず、外交上のリスク。国連南スーダン派遣団は、63の国が参加する国際プロジェクトです。治安情勢の悪化を理由に、日本だけが撤収に踏み切れば、国際社会から厳しい批判を浴びるのは必至です。治安が比較的安定している、今のうちに決める方が良いと判断したのでしょう。そして、内政上のリスク。日本のPKOで、これまで死傷者が出たことはありません。ジュバ周辺の治安は安定していると、国会で繰り返しながら、不測の事態が起こり、部隊に死傷者が出るようなことがあれば、政権へのダメージは測り知れません。
このタイミングでの撤収は、将来の治安悪化を想定した、政権のリスク回避の意味合いが大きかったのではないでしょうか。

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2012年から5年余りにわたった南スーダンの自衛隊PKO。
部隊の派遣は11次、道路補修はのべ210キロ、用地造成も50万平方メートルにのぼりました。

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その一方で、南スーダンPKOは、常に国会で論争の的になっていました。海外での武力行使を禁じた憲法9条との関係、なかでも、紛争当事者間の停戦合意などを派遣の前提とする「PKO参加5原則」が守られているかどうかが、問われ続けたのです。
政府は、南スーダンの反政府勢力を紛争当事者と認定せず、「武力衝突」はあっても、法的な意味での「戦闘行為」はないなどと説明することで、民進党や共産党などからの追及をかわし続けました。
ただ、こうした政府の姿勢に対し、野党などからは「実態を素直にとらえて5原則に照らし合わせているのではなく、派遣を継続するために、5原則に合うよう実態を都合よく解釈しているのではないか」という批判が出ています。
自衛隊の海外派遣のたびに繰り返される、こうした疑念を払拭するためにも、政府は、今回の経験をふまえて、部隊の派遣や撤収の基準をより明確にする必要があるでしょう。

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今回のPKOをめぐっては、防衛省・自衛隊の信頼性に疑問を投げかける、重大な問題も発覚しました。いわゆる「日報隠し」です。日報とは、南スーダンに派遣されている部隊が、日々の活動を記録した文書のことで、去年7月にジュバで起きた大規模な武力衝突についても、状況が詳細に記されていました。防衛省は、情報公開請求に対し、当初、日報は破棄して存在しないと説明していましたが、実際には、陸上自衛隊が日報の電子データを一貫して保管していたことが発覚。しかも、これまでの説明とは矛盾するため、外部には公表しないという判断になり、データを消去するよう指示が出されたというのです。

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組織的な隠ぺいが疑われる事態ですが、稲田防衛大臣は、自らの関与を否定。徹底した調査が必要だとして、元検事がトップを務める大臣直轄の組織による特別防衛監察の実施を指示しました。言うまでもなく、国の安全保障も、国際貢献も、国民の信頼があってこそ成り立つものです。情報公開請求に対する不開示決定という、誤った判断を発端にして、矛盾を隠すためにうそを重ねたあげく、最後には、証拠となるデータを消去しようとする。国民に対する背信行為と言っても良く、防衛省には、真相の究明と関係者の厳正な処分、再発防止の徹底を強く求めます。
また、稲田大臣が切った特別防衛監察というカードも、野党側の追及をかわすための方便となるようなことが、あってはなりません。
強力な権限を駆使して、情報管理の問題点や隠ぺいの有無を明らかにするとともに、できるだけ早く、調査結果を国会に報告する必要があります。

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今回、南スーダンから撤収することで、日本が参加するPKOは、事実上、ゼロになります。ことしは、自衛隊が初めてPKOに参加してから25年となる節目の年。政府は、引き続き、自衛隊の海外派遣を通じて、積極的に国際社会に貢献する考えです。また政府内には、「部隊の派遣が長期間、途切れれば、自衛隊の海外任務の能力が低下しかねない」という声もあり、水面下では、新たな派遣先の検討が進められています。

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日本が国際社会の責任ある一員として、国際貢献に尽力することはもちろん、重要でしょう。ただ、PKOの役割は、25年前からは大きく変わりました。ルワンダでの大虐殺などを経て、従来の復興支援や停戦監視に留まらず、住民保護のために積極的に武力介入を行うことが求められるようになっています。憲法9条の制約のもとで活動する自衛隊にとって、PKO参加のハードルは、むしろ高くなっているのが現実で、「自衛隊派遣ありき」という発想では、かえって、意義のある国際貢献が難しくなる可能性すらあります。
自衛隊が存分に能力を発揮できる環境では、積極的に自衛隊を活用することも良いでしょう。ただ、そうではない分野では、自衛隊の活用によらない支援のあり方も含めて検討していく必要があります。私たちは、今こそ、日本の国際貢献のあるべき姿について、真正面から議論を始める時ではないでしょうか。

(増田 剛 解説委員)

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