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「日米経済対話~日本に求められる役割~」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

麻生副総理兼財務大臣は、きょうアメリカのペンス副大統領と初めての日米経済対話を行いました。きょうは新たな対話の枠組みの中で、日本がどう対応していくべきかについて考えます。

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解説のポイントは三つです。

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1)この対話をめぐる日米の思惑の違い
2)日本はどう対応すべきか
3)日本からアメリカに求めるべきこと
です。

まずきょう合意された内容です。

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今後の日米対話では、▼貿易と投資のルール等に関する共通戦略や、▼経済と構造政策の分野での協力、それに▼インフラなど分野別での協力、という3本の柱で議論を始めること。そして年内に、アメリカで第二回目の対話を行うことで合意しました。トランプ政権の陣容が整っていない中で、今回は、個別の問題に深く立ち入ることはありませんでした。

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この日米経済対話は、そもそも日本側がアメリカにもちかけたものでした。首脳同士とは別に、麻生副総理とペンス副大統領の間で対話の枠組みを設ける。いわば二重構造にすることで、経済問題を政治や安全保障と切り離して冷静に協議したいという意図がありました。ただ対話の中身をめぐっては、日米間で思惑の違いがあるようです。

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日本側は、二国間の協力関係に重点を置きたい考えです。これに対しアメリカ側は、貿易不均衡の是正にむけて個別分野の市場開放に関心を示しています。
アメリカの貿易政策を担当するアメリカ通商代表部は、先月末、各国の貿易障壁をまとめた報告書を議会に提出しました。

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この中で、日本の自動車市場をとりあげ、去年アメリカの自動車メーカーフォードが日本市場から撤退した事例も挙げながら、「さまざまな非関税障壁が市場の開放を妨げている」と、改めて指摘しました。さらに、次の通商代表に指名されたライトハイザー氏は、先月議会で証言した際、「農業分野の市場開放が求められる主要なターゲット」として日本を名指ししました。

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ペンス副大統領もきょうの記者会見で「アメリカの利益は二国間で交渉していくことだ」と述べ、日本との貿易交渉に意欲を示しました。
アメリカが二国間の交渉にこだわるのは、多国間交渉のように交渉相手の数が多くないため、譲歩することも比較的少なくてすむ一方、自らの主張を直接相手国にぶつけやすいと考えているからです。
では、二国間の貿易交渉となった場合、日本はどう対応したら良いでしょうか。

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アメリカは、この先、日本の一部の農産物にかかる高額の関税をやり玉にあげてくることが予想されます。とりわけ牛肉をめぐっては、かつてのBSEの影響で日本への輸出が激減した後、回復が遅れていて、アメリカの農業団体は、日本への輸出拡大に強い意欲を示しています。しかし日本は、TPP=環太平洋パートナーシップ交渉で、牛肉についてはコメなどともに関税撤廃の対象から除外し、16年という長い時間をかけて関税を38.5%から9%に引き下げることに合意しました。ぎりぎりの国内調整を経てようやく決着させたものです。このため、アメリカがTPP以上の譲歩を迫ってきたとしても、要求をのむのは難しい情勢です。
また、アメリカの不合理な主張に対しては、毅然と反論すべきでしょう。

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アメリカは日本の自動車市場を閉鎖的だといいますが、アメリカから日本へ車を輸出する際には関税がまったくかからないのに対し、日本からアメリカに輸出する際には2.5%の関税がかかります。アメリカ政府はTPP交渉で、これをなんと25年もかけてゼロにすることで合意しましたが、アメリカが日本にTPP以上の譲歩をせまるなら、日本もアメリカに一段の譲歩をせまることがあってもよいでしょう。
ただ先日行われた米中首脳会談をみますと、気になることがあります。

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この会談でトランプ大統領は中国の習近平国家主席に対して、「中国が北朝鮮問題の解決に乗り出せば、アメリカとの通商問題での取引はより良い結果を生む」と述べ、北朝鮮問題での中国の協力をせまりました。それと同時に、米中間に巨額の貿易不均衡があることを背景に、中国が輸出を有利にしようと意図的に通貨を安くしているとして「為替操作国」に認定する姿勢をちらつかせていました。もし中国が、為替操作国に認定されれば、アメリカへの輸出品の関税が引き上げられるなどの制裁措置がとられ、中国経済が打撃を受けるおそれがあります。トランプ大統領は、安全保障問題に経済を絡めることで、交渉を有利に進めようとしたのです。日本はアメリカと同盟関係にあり、中国とは立場が異なりますが、今後日本に対しても、トランプ流の交渉術で安全保障問題とからめて経済面での譲歩を求めてくる可能性もないとはいえません。
さらに、ここに来て心配なのは、為替相場をめぐるアメリカの動きです。

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トランプ大統領は先週、メディアのインタビューで、アメリカの通貨ドルが高すぎると発言しました。これを受けて外国為替市場では、ドルを売って円を買う動きが強まり、円高が進みました。さらに先週末には、アメリカ財務省が各国の為替政策に関する報告書をまとめ、アメリカが円安をのぞまない姿勢をにじませました。おりしも中東や朝鮮半島をめぐる地政学リスクが高まり、安全だとされる通貨円が買われやすくなっています。

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こうした中でトランプ政権が円安ドル高をのぞんでいないという見方が強まれば、円を買う動きが進むことにもなりかねません。

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しかし急激な円高は、輸出企業の業績の悪化を通じて日本経済全体を落ち込ませ、内需を縮小させてしまいます。一方、アメリカ側は日本の内需が拡大して日本への輸出が増えることを望んでいるはずで、これとは矛盾した結果が生じることになります。

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日米両国は、今後対話の場を通じて、お互いがどのような政策をとれば双方の経済にとってプラスとなるのか、緊密な意見交換をはかっていくことが求められています。

一方、日本からアメリカに働きかけていくべきこともあります。トランプ大統領が主張するような一方的な保護主義にブレーキをかけ、アメリカを多国間の貿易協議の枠組みに引き戻すことです。

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トランプ政権は、アメリカの貿易に関する措置がWTO=世界貿易機関によって問題があると認定されたとしても、それがアメリカの国益に反するのであればWTOのいうことに必ずしも従わないという姿勢を打ち出しています。

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さらにアメリカは、先月ドイツで開かれたG20=主要20カ国の財務相中央銀行総裁会議の声明文について、それまで盛り込まれていた「あらゆる形態の保護主義に抵抗する」という文言を削るよう求めました。このように、これまで国際社会が築き上げきた自由貿易の世界に背を向けるかの態度を示すアメリカに対し、一方的に保護主義的な政策に動くことのないよう働きかけを続けていくことも、日本が求められている役割ではないかと思います。

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いよいよ始まったトランプ政権との経済対話。
日本としては、この対話の場を、日米間の利害調整だけでなく、世界経済全体に対して日米両国がどのような貢献ができるのか。
そうした大きな視野に立った話し合いを期待したいと思います。

(神子田 章博  解説委員)

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