NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「緊迫 朝鮮半島情勢」(時論公論)

出石 直  解説委員

アメリカのトランプ政権は、朝鮮半島近くの海域に空母機動部隊を展開し軍事的な圧力を強めています。これに対し北朝鮮も、弾道ミサイルの発射を試みるなど強硬姿勢を崩していません。朝鮮半島情勢が緊迫する中、韓国ではきょう(17日)から大統領選挙の選挙運動が始まり北朝鮮にどう対処するかが争点となっています。 
不透明さを増す朝鮮半島情勢を展望します。

j170417_00mado.jpg

解説のポイントです。

j170417_01.jpg

◇ 朝鮮半島の危機はどこまで差し迫っているのでしょうか?
◇ 韓国の次の大統領は誰になるのか。
  そしてどんな対北朝鮮政策が取られるのでしょうか?
◇ 朝鮮半島の危機は果たして回避できるのでしょうか?


まず現在の朝鮮半島情勢についてみていきたいと思います。
シリアへのミサイル攻撃に踏み切ったトランプ大統領は、北朝鮮に対しても厳しい姿勢を打ち出しています。
最近の発言です。
「ミサイル発射は安全保障上の重大な脅威だ」
「すべての選択肢がテーブルの上にある」
「中国の協力が得られなければアメリカ単独で対応する」

j170417_02_1.jpg

実際、アメリカ軍は、空母カール・ビンソンを中心とする艦隊を呼び戻し、朝鮮半島に近い西太平洋に展開しました。日本の外務省も、海外安全情報を出して韓国に駐在したり渡航したりする人に対し、半島情勢に関する情報に注意するよう呼びかけました。
米中首脳会談を終えて帰国したばかりの習近平国家主席が、急遽、トランプ大統領と電話会したことも、軍事行動が差し迫っているのではないかという不安に拍車をかけました。

一方の北朝鮮も強硬な発言を繰り返しています。

j170417_03.jpg

「ICBM=大陸間弾道ミサイルの試験発射準備は最終段階」
「弾道ミサイル発射は在日米軍基地を狙った訓練」
「核戦争が勃発しても恐れない」
トランプ大統領が何らかの軍事的な措置を検討していることは間違いありません。
ただ軍事的措置といってもさまざまな可能性が考えられます。

j170417_04_1.jpg

原子力空母や戦略爆撃機の展開、戦術核の韓国への再配備、サイバー攻撃、ドローンなどによる諜報活動の強化。核施設への空爆は、クリントン政権時代の1994年に検討されたことがありますが、当時と今とでは状況が大きく異なります。北朝鮮は5回の核実験を重ね、ミサイルも発射準備を悟られずに移動式の発射台から一度に複数を発射できる技術を手にしています。北朝鮮の反撃能力は格段に高まっており、韓国や日本が受けるであろう被害と影響は当時と較べものになりません。
先制攻撃を含めた軍事的オプションをちらつかせることで交渉力を高めることと、実際に軍事力を行使することを、私たちは混同してはならないと思います。軍事的衝突が最悪のシナリオであることは、アメリカも北朝鮮も十分理解しているはずです。
ここは事態を冷静に捉えるべきではないでしょうか。

そんな中で、韓国では大統領選挙に向けた選挙運動が始まりました。北朝鮮への対応が重要な争点になっています。

j170417_06_0.jpg

最新の世論調査では、共に民主党のムン・ジェイン候補が40%、国民の党のアン・チョルス候補が37%と支持が拮抗しており、保守系の候補は一桁台で低迷しています。
有力2候補の北朝鮮についての主張には大きな違いがあります。
ムン・ジェイン候補は、「当選したらワシントンより先にピョンヤンを訪問する」「ケソン工業団地の操業を再開する」と述べるなど北朝鮮との関係改善を訴えています。
一方、医師として勤務した後、ベンチャー企業を立ち上げ“韓国のビル・ゲイツ”と呼ばれるアン・チョルス候補は、経済政策では労働者寄りの革新的なスタンス、安全保障政策では保守という中道派で米韓同盟重視の立場です。
2人とも迎撃ミサイルシステム=THAADの韓国への配備には否定的でしたが、北朝鮮の脅威が増してきたことを受けて、ともに事実上の容認へと立場を転換しています。
ここで注目されるのはパク・クネ前大統領の事件で2つに分裂した保守派の動向です。
北朝鮮に融和的なムン・ジェイン候補を警戒する保守派が選挙戦から撤退してアン・チョルス氏の支持に回れば、情勢は一気に変わる可能性があります。

j170417_06_1.jpg

朝鮮半島情勢は、各候補の安全保障政策に影響を与えているだけでなく、選挙の行方も大きく左右しそうな気配です。

最後に朝鮮半島の危機は回避できるのか考えます。
トランプ政権が、北朝鮮問題に真剣に取り組む姿勢を見せていること自体は歓迎すべきことです。中東やウクライナなどに較べるとアメリカの北朝鮮への関心は、これまでけっして高いとは言えなかったからです。ただトランプ政権が複雑な朝鮮半島情勢をどこまで理解し、どのような解決策を描いているのか、肝心のところがいまひとつ見えてきません。
トランプ大統領は「今の危険な状況は中国が簡単に止められる」と発言していますが、あまりに楽観的な見方です。アメリカは制裁の履行など圧力の強化を中国に求めていますが、中国が北朝鮮にとって最大の貿易相手国だからこそ、一定の影響力を保持していることも忘れてはなりません。

アメリカと中国の間ではこんなやりとりも交わされているのではないでしょうか。
「北朝鮮が核武装すれば、やがて韓国も日本も核兵器を持とうとするかも知れない。北朝鮮、韓国、そして日本までもが核武装する東アジアと、中国だけが核保有を許される状況と、どちらが中国の国益にかなうか」。

j170417_08_1.jpg

j170417_08_2.jpg

いささか乱暴ではありますが、大国、中国を本気にさせるにはこの種の議論も必要になってくるのかも知れません。

j170417_09.jpg

北朝鮮も、挑発的な言動とは裏腹に本音では対話を望んでいるように見えます。先週開かれた最高人民会議で19年ぶりに外交委員会という組織が復活し、委員長には駐スイス大使や外相を歴任した国際派のリ・スヨン氏が就任しました。対話局面への転換を模索しているとも受け取れます。
北朝鮮は理屈で動く国です。北朝鮮でしか通用しないひとりよがりな理屈ではありますが
“アメリカに対し核抑止力を持つことで安全が保てる”、 “核武装だけが生き残る道だ”と信じ込んでいます。それを覆す理屈を提示しなければ、核やミサイルを放棄することはないでしょう。核武装をするデメリット、核を放棄するメリットをきちんと具体的に伝え、核武装よりも核を放棄する方が得だ、その選択しかないと理屈でわからせることが必要です。
北朝鮮を変えられるのは北朝鮮しかないからです。

アメリカのペンス副大統領はきょう(18日)から日本を訪問します。今月末にはティラーソン国務長官の呼びかけで北朝鮮問題についての国連安保理での緊急閣僚会合が予定されています。日本としては、拉致問題も抱える日本の立場、朝鮮半島の非核化に向けたこれまでの取り組みをきちんと説明し国際社会を動かしていくことが求められるでしょう。まずは緊張を和らげ、そして、道のりは遠いかも知れませんが、問題解決のための知恵を絞る、
危機をチャンスに変えていくことに今は全力を傾けるべきではないでしょうか。

(出石 直 解説委員)

キーワード

関連記事