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「原発廃炉・安全担う 人材育成急げ」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

近畿大学の研究炉がきのう3年ぶりに再稼働し、学生たちが原子炉を操作。
新基準のもと、研究炉が再開するのはこれが初めて。
研究炉は学生の実習の場となっていただけに、その再開は、福島の廃炉などを担う人材を育成していく上で重要な意味。
しかし今、原子力を学ぼうという若者が減少するなど人材育成の現場では深刻な事態。
福島の廃炉は40年。今後も長期にわたって人材が確保できるのか。
研究炉の果たす役割。福島の廃炉と人材育成。今後の人材確保に必要なこと。
以上3点から、解説。

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近大炉は本体の直径が4mと国内最小クラスの研究炉で、昭和36年に運転開始。階段を上った最上部が炉心。出力はわずか1ワットと豆電球も点かないくらいで、冷却設備も必要ない。
最大の役割は、学生に、炉を動かす実体験を積ませ、原子力関連の人材を育成すること。
福島の事故前は年間500人を超える学生や研究者が利用。
しかし事故で基準が厳しくなり3年前に停止。火災対策や、制御棒の予備を準備するなど、対応を迫られた。
この間実習はできず、原子炉を一度も操作することなく卒業していった学生も。
きのうは学生8人が1時間ほど原子炉を操作した後、放射線を測定。

このような原子力関連の人材育成、今、極めて重要。
福島の廃炉の困難さがあるから。
現場では先月まで溶けた燃料の調査。
このうち1号機で格納容器の底に落ちた溶融燃料を確認しようとメーカーなどの技術者が総力を挙げて開発したロボット。
足場からカメラがついたケーブルを垂らし、溶けた燃料を探る。今回、底に近づくほど放射線量が上がり、何らかの放射線源の存在が推定されるなど一定の成果も。
しかし事故で足場が傷んでいたため位置決めに時間がかかり、調査地点が限られた上に、砂のような堆積物にはばまれ溶けた燃料は捉えられなかった。
また2号機でも、カメラが強い放射線で使えなくなるなどトラブルが続き、困難さを思い知らされた。

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政府と東電は今年の夏にどんな方法で取り出すのか方針を決めたいと。
そのためには溶けた燃料の状況の把握が不可欠。しかし今回の調査だけではデータが不足しており、取り出し方針を決めるのは難しい。
ここは工程にこだわることなく、追加の調査をして容器内の情報をもっと集める必要。
そしてこの先も、放射線に強いカメラやロボット、溶けた燃料を取り出す器具、
さらに取り出した燃料を保管する容器など様々な機器の開発が必要。
そのためには放射線の危険性や法規制も熟知した優秀な人材が必要。
ところが今、その育成現場では深刻な問題が。
まずは学生の原子力離れ。

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大学の原子力関連の学部などに進学する学生は、この20年で半分以下に。
温暖化対策に有効だとして原発が見直された一時期、回復傾向だったが福島の事故で再び減り、事故前の水準には戻っていない。

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また事故の影響で、原子力関連の仕事に就こうという学生も激減。原子力関連企業の就職説明会の参加者は事故前の5分の1に。

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さらに人材育成をする場も減少。
近畿大学の炉も含めて国内には10年前までは20基あまりの研究炉があったが、老朽化などで11基まで減っていた。
そして先月、原子力機構がさらに2基廃止することを正式に決定。
そのうちのひとつ、茨城県にあるJMTR。
一般の原発よりも10倍強い放射線を出すことができ、原発の燃料の材料に強力な放射線を当てることで劣化状況を早く確認でき、放射線に、より強い燃料の開発につなげるなど原発の安全向上に役立ってきた。
しかし新基準に対応するには耐震補強に400億円かかることが分かり、原子力機構は予算を
ねん出できないとして廃炉を決定。
JMTRのすぐ隣には東北大学の材料研究施設があり、研究者や学生がJMTRで放射線を当てた材料をここに運んで研究を行ってたが、今後はそれもできなくなる。

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今回の決定で問題なのは原子力の人材育成の長期的な戦略がないまま、一研究機関の予算でまかなえないという理由で廃止が決められている点。
福島の廃炉はもちろん。政府は今後も原子力に頼る方針を示しているわけで、なおのこと、この先数10年にわたってどんな研究開発が必要なのか、どれだけの規模の人材を確保しなければならないのか、そしてそのためにはどんな研究の場が必要なのか示す必要。
その上で、今ある研究炉を残すのか廃止するのかを判断すべきでしょう。

また原子力には反対の意見もある。仮にすぐに原発ゼロにするにしても、こうした長期的な方針を示すことは、変わらず必要。
福島の廃炉に加えて、一般の原発の廃炉や、高レベル放射性廃棄物の処分もある。
この先原発をどうしようと、原子力の分野でやるべき仕事は長期にわたってたくさんあるわけ。こうした点を政府は若者にアピールし、人材確保対策を早急に示すことが求められる。

(水野 倫之 解説委員)

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