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「熊本地震から1年 災害対策 市町村長の重い責任」(時論公論)

山﨑 登  解説委員

熊本地震から1年になるのを前にした今月10日、熊本地震や東日本大震災などで大きな被害を受けた15人の市町村長が、全国の自治体のトップに向けて、ここには選挙で選ばれた東京23区の区長が含まれますが、災害時にトップがなすべき事柄をまとめて発表しました。熊本地震など最近の災害では市町村長の判断が遅れたり、備えが疎かだったりして、被害が大きくなったり、混乱が広がったりしました。実際に大きな災害を経験した自治体のトップが自らの経験と反省からまとめた提言をみながら、災害時の市町村長の役割と責任、そして現在の災害対策の課題を考えます。

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《まとまった提言》
「災害時にトップがなすべきこと」と題された提言は、熊本市長や熊本県益城町の町長、それに岩手県陸前高田市長や宮城県石巻市長、さらには台風などの大雨で被害を受けた兵庫県豊岡市長や新潟県三条市長など、最近の大規模な災害で被災した15人の市町村長が共同でまとめたもので、松本防災担当大臣に手渡されました。

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内容は「自然の脅威が目前に迫った時には勝負の大半がついている。(中略)平時の訓練と備えがなければ、危機への対処はほとんど失敗する」に始まる『平時の備え』が7項目、「判断の遅れは命取りになる」「避難勧告を躊躇してはならない」など災害発生時の『直面する危機への対応』が5項目、さらには「トップはマスコミ等を通じてできる限り住民の前に姿を見せ、(中略)被災者を励ますこと」「大量のがれき、ゴミが出てくる。広い仮置き場をすぐに手配すること」など『救援・復旧・復興への対応』が12項目の合わせて24項目です。

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自分たちの失敗を繰り返さないようにして欲しいとまとめられた提言は、防災省庁のガイドライン等に比べると率直な表現で、単刀直入に記されています。内容をみると地震に限らず、大雨の災害や火山の噴火など、大規模な自然災害に見舞われた際の対応として共通していることがわかります。
 
《提言の背景にあるもの》
こうした提言がまとめられた背景は大きくいって2つです。

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①一つは最近の災害で、市町村長の判断や市町村の対応に多くの問題があったことです。去年の熊本地震では、熊本県宇土市や益城町など5つの市と町で庁舎が壊れて使えなくなり、機能を別の場所に移さざるをえませんでした。災害時には被害の大きさに応じて業務量が増えていきます。被害の確認、避難所の開設、被災者への食料や水などの供給、医療や介護の手当てなど普段の10倍以上だといいます。それを物理的なスペースが足りない仮の場所で、しかも日頃使っている住民の名簿などの資料が十分にない中でやろうとすると、仕事が遅れたり、滞ったりします。また災害後に迅速に判断ができる体制を作れなかったことも熊本地震の反省です。益城町では災害直後に12ヶ所の避難所ができましたが、避難所の世話をするために、町の幹部を含めたほとんどの職員が張り付き、当初、災害対策本部の会議をすることができませんでした。

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②背景の2つめは、災害対策における市町村長の責任の重さです。現在の災害対策は地理的環境や地形、それに住民の年齢構成や住まいのあり方などの実情を踏まえて進めるために「自治体防災」という考え方が基本になっています。このため「地域防災計画の作成」「災害対策本部の設置」「住民に対する避難勧告や避難指示の発表」「都道府県知事に対する自衛隊派遣の要請」など広い範囲でトップに責務を負わせ、強い権限を与えています。したがって、災害時には住民の命に関わる判断を市町村長がすることになることを、住民も知っておいたほうがいいと思います。しかし多くの自治体のトップは災害のプロではありません。日本は毎年のようにどこかで大きな地震や水害が起きますが、一つ一つの市町村にとっては20年とか30年とかに一度襲ってくる稀な出来事です。まして任期が4年のトップは、ほとんどの場合、生まれて初めて対策の指揮をとることになります。私が取材した何人かの市町村長は「災害時に待ったなしの判断を求められ、あれほど孤独を感じたことはなかった」と話していました。

《自治体防災を支えるために》
ではどうしたらいいのでしょうか。最も重要なことは、災害時にはトップの判断に対策がスムーズにいくかどうかがかかっていることを市町村長自身が自覚して、日頃の備えを進めておくことです。地震や水害などで庁舎が壊れたり、使えなくなったりしないように建物を補強し、非常用電源を上の階に移して水に浸からないようにし、職員の防災意識を高めておかなくてはいけません。そのうえで万一に備えて代替庁舎を考えておくことも必要ですし、トップ自身が被災したり、出張などで留守の場合に備えて、判断の代行順位を決めておくことも重要です。つまりは災害時にも市町村の業務が継続できるようにしておく必要があって、国はそうした事柄を書き込んだ「業務継続計画・BCP」を作るよう求めていますが、全国の1741の市町村で、去年(平成28年)の4月現在で作っているのは半分以下の41.9%(730)にとどまっています。

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《提言が突きつける課題》
こうして提言の内容とトップの責任や役割をみてくると、別の課題が浮かび上がってきます。それは提言が現在の自治体防災につきつけている課題です。重い責任を負わせながら、そのための研修や判断を補佐する仕組みがないことへの問題意識です。課題を2点指摘することができます。

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①1つは自治体のトップへの研修制度を作るとともに、判断を支える体制の整備が必要です。現在内閣府や消防庁、それに阪神・淡路大震災の教訓を生かすために作られた兵庫県の「人と防災未来センター」がトップへの研修を行っていますが、あくまで希望する自治体が対象です。選挙で当選したら必ず、災害を経験した市町村長から直接研修を受けるような仕組みを作り、長期にわたってつとめる人には再研修を受けてもらうようにする必要があります。またトップの判断を補佐するために各自治体に災害対策に精通した人材を育成することも重要です。

②2つめは自治体防災を補完する広域防災の検討です。最近の災害の広がりや深刻さをみると自治体防災の限界は明らかです。一昨年、栃木県の鬼怒川が決壊した際、住民は隣接するつくば市に避難する方が早く、安全だった地区がありましたが、常総市は市内の避難所に行くよう呼びかけて混乱しました。心配される利根川や荒川などが決壊した際の水害では、埼玉県と東京23区で100万人を超える人に被害がでる恐れがあります。その際に市区町村の中だけで避難を考えることは難しく、またそれぞれが独自の判断でバラバラに避難勧告を出したら道路が渋滞するなどして大混乱に陥ります。現在の災害対策に欠けている広域防災の検討を急ぐ必要があります。
 
《まとめ》
提言をまとめたメンバーの一人である熊本県益城町の西村博則町長は「熊本地震が起きた際、災害経験のある市町村からのアドバイスには助けられた」「想定外をなくして備えることの重要性を全国のトップに伝えたい」と話していました。

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毎年のように起きる大きな災害。そこで毎年のように繰り返される市町村の失敗を防ぐために、内閣府と消防庁は今回の提言を全国で生かすとともに、自治体防災の限界と広域防災についての議論を深める必要があると思います。

(山崎 登 解説委員)

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