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「米中首脳会談を読む 対立と協調のゆくえ」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員
加藤 青延  解説委員

アメリカのトランプ大統領が、中国の習近平国家主席と初めて米中首脳会談を行いました。
はたして両首脳は、どのような関係を築いていくのでしょうか?
世界じゅうから事前に大きな注目を集め、期待も高かった会談でしたが、終わってみれば、
異例ずくめの展開の末、具体的な成果には乏しい結果となりました。
米中双方の立場から今回の会談を分析し、今後の米中関係を考えます。

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まず加藤さん、中国側は、今回の会談にどのような狙いで臨んだのでしょうか?

加藤)
習近平国家主席としては、とかく予測不能な面が多いと言われるトランプ大統領と、少しでも早く対面し、安定した米中関係を構築したい。そして、その外交成果をよりどころに、国内の支持をかため、今年秋の党大会で二期目に臨む自らの権力基盤を盤石なものにするという狙いがあったのだと思います。ただ実際には、米中双方の間の対立の溝は、かなり根深いものがあり、事はなかなか思惑通りには進まず、結局、多くの問題を先送りにする形で、なんとか体裁を整えたという印象が否めません。

髙橋)
アメリカ側から見ると、政権発足から100日足らず、まだ政府の陣容も整っていないこの時期に、課題山積の米中首脳会談を開いたこと、それ自体が異例の対応でした。
いまトランプ政権は、矢継ぎ早に大統領令を連発し、選挙公約の実現に努めてきたにもかかわらず、内政の課題については、早くも行き詰まりが目立ちます。
そこで、外交で何とか早く得点を挙げたい。そうした焦りにも似た性急な思わくがあった観は否めません。現に、習近平主席という初対面の相手を、敢えてフロリダ州にある大統領の別荘に招いたのも、機先を制してみずからが、交渉の主導権を握ろうという狙いがあったからです。

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髙橋)
今回の会談で、唯一のハイライトとなるはずだった首脳どうしの夕食会が、まさに、これから始まろうかというその直前、異変は起きました。
トランプ大統領は、シリアで化学兵器が使われたとされる問題で、アサド政権に対する軍事攻撃を文字どおり“即断”し、世界をあっと言わせたのです。

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加藤)
たしかにそれは習近平主席にとって想定外のシナリオだったと思います。
中国としては、夕食会は、米中の和やかなムードを内外に示す宣伝の場にしたかったはずです。それが一転して、外交の修羅場になってしまった。しかもアメリカ側の発表では、習主席はアメリカのシリア攻撃に「理解」を示したと伝えられています。
本来であれば、中国は、アメリカ単独の軍事行動に対しては消極的姿勢をとり、国連での十分な議論を求めるというのが外交の定石でした。しかも、盟友ともいえるロシアがシリア軍の化学兵器の使用を否定する中、中国がアメリカの行動を容認したと見られることは避けたかったはずです。しかし、もしその場で習主席がアメリカを非難すれば、せっかくの夕食会の友好ムードを台無しにしかねないという苦しい状況に陥ったと思います。

髙橋)
無論トランプ大統領が、今回のシリア攻撃を、米中首脳会談にぶつけるように、前々から仕組んでいたとは、到底思えません。しかし、無法なふるまいには、力の行使をためらわない。そうしたトランプ政権の決意を見せることを、中国の最高首脳の面前で敢えて避ける必要はないという計算は、多かれ少なかれあったのでしょう。

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髙橋)
現に、今回の会談で最大の焦点となった北朝鮮による核とミサイルの問題で、トランプ大統領は、「あらゆる選択肢がある」として、中国が協力しなければ、アメリカは単独でも行動を起こすという考えを伝え、中国が北朝鮮に対する圧力強化に応じるよう迫りました。
しかし、対話による解決を求める中国との立場の溝は埋まらず、米中双方は、北朝鮮に対する深刻な懸念を共有するにとどまりました。具体的な解決策は合意できなかったのです。

加藤)
実のところ、習主席は、トランプ大統領からもっと役割を果たせと言われて、大変戸惑ったと思います。アメリカは中国こそ北朝鮮に最も影響力がある、或いは、後ろ盾になっているという見方をしていると思いますが、実際には中国と北朝鮮の政府関係は、大変冷え切っています。それは、習近平政権が誕生して以来5年近く、中朝首脳会談が一回も開かれていないことからも、わかると思います。
ただ、北朝鮮の体制が崩壊すれば、大量の難民が中国になだれ込み、中国は社会も経済も大混乱になる。災いがわが身に降りかかることは困るから、とにかく無茶をしないで「話し合いによって平和解決してほしい」と習近平主席も言わざるを得なかったのではないかと思います。

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髙橋)
さて、米中の間で、もうひとつの対立点となったのが、経済問題でした。
アメリカファーストを掲げるトランプ大統領と、そうした保護主義的な主張に反対する習近平国家主席。かつての米中の交渉とは、それぞれの立場がそっくり入れ替わった形となりました。トランプ政権にとって、中国に対する巨額の貿易赤字を減らすことは、選挙キャンペーン以来の優先課題のひとつでもありました。
しかし、具体的にどのような方策で赤字を減らしていくのか、そこは準備不足もあったのでしょう。結局、今回の会談は、貿易不均衡を是正するための計画を策定し、100日間という期限を切って、実行に移していくことで合意しました。

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加藤)
100日間については、問題解決のゴールを引き延ばしたという見方と、逆に、期限を決めてそれまでに何とかしなくてはならないところに追い込まれたという、二つの見方が出来ると思います。中国としては、先月末現在で3兆ドルの外貨準備がありますので、この100日間でアメリカの商品、飛行機や自動車などをいわゆる「爆買い」すれば、ある程度、貿易不均衡を緩和できるという目算があるのではないかと思います。

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髙橋)
では、今後の米中関係は、トランプ政権で、どのような顔ぶれが担うのでしょうか?
選挙戦の頃から中国に対して厳しい姿勢を見せてきた通商の分野には、確かに「対中強硬派」と目されている人物が目立ちます。
しかし、大統領の周辺には、中国企業とビジネス経験もあるトランプ大統領の娘婿、クシュナー上級顧問や、企業経営者らが大統領に経済政策を助言する機関のトップに、習近平主席とも昵懇の仲で知られるシュワルツマン議長など、「融和派」と目される面々が多いのです。
外交・安全保障を担う閣僚らは、そのどちらでもありません。
トランプ政権は、中国に対して必ずしも強硬一辺倒ではない。だからと言って融和一色でもない。いわば“多重性”が特徴なのでしょう。

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髙橋)
しかも、トランプ政権は、世論の動向にも極めて敏感です。
ことしアメリカで行われた最新の世論調査では、中国を好意的に見る人が、去年より7ポイント増えて44%。逆に中国が嫌いと答えた人が8ポイント減って47%と、ここ数年、悪化していた対中感情には、改善の兆しも出てきました。

こうした世論の変化をにらみながら、中国側の出方しだいで揺さぶりもかけ、妥協もする。そうした駆け引きの中から、トランプ政権の中国に対する政策は、機軸が定まっていくのかも知れません。ただ、米中関係は、もはや対立か協調かではっきり色分けできるようないわゆる「二者択一」の時代ではなくなっているのも、また確かでしょう。

加藤)
中国にとって今回の首脳会談の最大の成果は、トランプ大統領が年内に中国を訪問することで合意に取り付けたことだと思います。米中間で首脳相互訪問の実績が作れるからです。ただ、今回の首脳会談で先送りした宿題を、それまでに、かなり片づけておかなければならなくなりました。むしろこれからが大変だと思います。

髙橋)
トランプ政権の誕生で、対立と協調の要素がますます複雑に絡み合う米中関係。その影響を直接受ける日本の外交・安全保障も、目まぐるしい変化のスピードに追いつきながら、目先の出来事だけに振りまわされない複眼的な視点で捉えることが必要になっています。

(髙橋祐介/加藤青延 解説委員)

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