NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

時論公論 「宜野湾市長選 普天間移設の行方は」

安達 宜正  解説委員
西川 龍一  解説委員

アメリカ軍普天間基地の地元、沖縄県宜野湾市の市長選挙で、安倍政権の全面的な支援を受けた現職の市長が再選されました。政権側が進める普天間基地の名護市辺野古への移設にどんな影響を与えるのか考えます。
 
j160126_mado.jpg

(西川)今回の宜野湾市長選挙が注目を集めたのは、普天間基地の辺野古移設をめぐって対立を深める安倍政権と沖縄県の翁長知事の代理対決の構図となったためです。選挙の結果は、現職の佐喜真さんが再選を果たしています。
 
j160126_01.jpg

ただ、双方の候補者が辺野古移設の是非をめぐって論戦を交わし、大きな争点になるといったことにはなりませんでした。翁長知事と同じく明確に辺野古移設反対を掲げた新人に対し、現職の方は、普天間基地の早期閉鎖を訴えるにとどめ、移設先については明言しなかったからです。看板だけの代理対決になったという印象です。
安達さん、こうした状況を踏まえて、この結果をどうみますか?
 
(安達)
普天間基地の移設を実現する。そのためには安倍政権とのパイプを重視しなければならないという判断が宜野湾市民に広がったのでしょう。私が担当する、中央政界の反応という点では、安倍政権は安堵したということだと思います。安倍総理は「この勝利は大きい」と述べたようですが、ここで負ければ、辺野古移設反対で、沖縄県、移設先の名護市、そして、基地を抱える宜野湾市の足並みが揃うことになったからです。政権与党はそれだけは避けたかった。佐喜真さん。辺野古移設の是非には触れていませんでしたが、政権与党が国政選挙並みに全力で支援したのはそのためです。与党内にはこの選挙で勝利すれば、宜野湾市民の「基地の返還を最優先して欲しい」という声を背に辺野古への移設を進める、いわば大義のようなものが得られるという声がありました。それにしても、市を二分する戦いでした。西川さんは現地に入り、取材してきたわけですが、市民の複雑な思い、肌で感じられたでしょうか。
 
j160126_02.jpg

(西川)
取材した日も普天間基地からは、海兵隊のヘリコプターや新型輸送機のオスプレイが轟音とともに飛び立つ様子が頻繁に見られました。そうした様子を見ると目の前にある普天間基地については、一刻も早く閉鎖して欲しいという思いは当然のことだと思います。一方で、市民の方と話をすると、移設先については、辺野古を含む県内は否定的、つまり、県内移設では、沖縄の負担軽減にはならないという考えは、基地を抱える宜野湾市の方々の中にも広がっているという印象でした。
 
(安達)
それはNHKが投票を終えた有権者を対象にした出口調査にも表れています。今回の投票にあたって、辺野古への移設によって危険性を除去することに賛成が57%で多数を占めましたが、反対する意見も43%を占めました。沖縄県内への移設、いわばたらいまわしすることへの反感も一定数、あったと言えると思います。それでも佐喜真さんが勝ったのは、普天間基地の固定化だけは避けたいと言う、現実的な思いが強かったということだと思います。
 
j160126_03_1.jpg

(西川)
その宜野湾市ですが、人口9万6千人あまり。市のど真ん中に普天間基地があり、住宅や学校などが隣接しています。世界一危険な基地と言われる所以です。
 
j160126_04_0.jpg

その基地の返還について、日米両政府が合意してから、すでに20年が経過しました。基地返還の先行きが一向に見通せない中で、市民感情からすれば、政権とのパイプが太い自らの実績をアピールすることで、普天間基地そのものの固定化を避けるという現職の訴えは、わかりやすかったと思います。

j160126_04_1.jpg

辺野古への移設は事実上争点とならなかったにもかかわらず、現職を全面的に支援してきた政府は、これを契機に辺野古移設に向けた埋め立て工事を一気に進めるのではないかという見方も沖縄側にはあるようです。その点、政府の考えはどうなのでしょう?

(安達)
そこは難しいところで、見方も分かれますが、安倍政権が攻勢に出る環境が整ったという判断する可能性もあるかもしれません。▼安倍総理大臣は先週末の国会での施政方針演説でも、沖縄県の基地負担の軽減を取り上げ、普天間基地の辺野古移設の先送りはしないと言明しています。辺野古への移設が実現すれば▼基地の面積が3分の1以下に減ること、▼安全対策、騒音対策のうえでも、効果があると強調しました。
 
j160126_05.jpg

ただ、▼沖縄県の政治スケジュールからすると、まだこの問題をめぐる議論は続くと見るべきでしょう。次の焦点は6月の沖縄県議会議員選挙、そして夏の参議院選挙となるでしょう。とりわけ、参議院沖縄選挙区はいまのところ、政権与党は現職大臣の島尻沖縄担当大臣。辺野古移設反対派は伊波元宜野湾市長。この2人が戦う訳ですから、双方負けられない戦いになるように思います。
 
j160126_06.jpg

(西川)
一方、翁長知事にしてみれば、オール沖縄の意志を示すためにも負けられない選挙と位置づけていただけに、ショックは大きいと思います。翁長知事は、「県民の民意はおととしの選挙で示されてもいるし、市民は心の中に葛藤としてそれぞれ抱えているものがある」と述べました。
沖縄では、おととしの名護市長選以来、辺野古移設反対を掲げた候補者が選挙戦を制し続けていました。県民が辺野古移設反対という意志を示し続けることを背景に政府に辺野古断念を迫りたいという知事の思惑にも狂いが生じる形になりました。翁長知事は▼選挙など政治の戦い、▼裁判、司法の戦い、そして▼県民の運動による戦いを三本柱としているようですから、どこかの段階で、基地移設を問う県民投票を実施するのではないかと言う見方もあります。
 
j160126_07_1.jpg

(安達)
この問題にはアメリカと言う要因があって、政府と沖縄だけでは解決できないことは確かです。「最低でも県外」と公約した、鳩山民主党政権、私はこの時、政治部与党キャップでしたが、辺野古以外にもいろいろな案があったのは事実です。例えば、▼鹿児島県の徳之島への移設、▼嘉手納基地への統合案、▼北マリアナ連邦の議会がテニアン島への誘致を求め、その代表者が日本を訪問し、政権幹部に面会を求めたこともありました。しかし、外務省や防衛省はこうした代替案に慎重な姿勢を崩しません。アメリカとの交渉が困難だという理由です。安全保障上の問題に加えて、アメリカ側の思惑もあって、やっと辺野古に決まったという思いが強いわけです。あのアメリカと、もう一度白紙の状態から交渉をするのかと。口を揃えて、「辺野古が唯一の解決策だ」という面もあると思います。

j160126_08.jpg

(西川)
ただ、そのアメリカと交渉をすることこそ、外務省や防衛省の仕事ではないのでしょうか。もとをたどれば普天間基地に所属するアメリカ海兵隊の兵士による少女暴行事件が基地の返還を求める大きなうねりを呼んだことを忘れてはならないと思います。
翁長知事は、先週、辺野古承認取り消しをめぐり新たに国を提訴することを表明しました。国と県の訴訟は、これで3件目になり、翁長知事はこの問題で引く考えはありません。
安倍総理は、22日の施政方針演説では、「沖縄の皆さんと対話を重ね、理解を得る努力を粘り強く続けながら、あすの沖縄を共に切り拓いてまいります」とも述べています。この言葉をどう具現化していくのか。接点を見いだす努力が問われます。
 
(西川 龍一 解説委員 / 安達 宜正 解説委員)

キーワード

関連記事