なぜ鹿児島では節分に落花生を投げるのか?

2021年2月2日

NHK鹿児島の調査報道班に、鹿児島市の23歳の女性から「なぜ鹿児島では節分に落花生を投げるのか」という調査依頼が寄せられました。知っているようで知らない鹿児島の節分の実態を取材しました。(鹿児島放送局記者 西崎奈央)

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【落花生と大豆 多いのは】

まず調べたのは、そもそも鹿児島では落花生と大豆どちらが多いのかということです。両方を取り扱っている、鹿児島市内のスーパーで話を聞くと。

(イオン鹿児島鴨池店 店長)
「落花生と大豆の仕入れ量の差は7対3で落花生を強化しております。明らかに落花生の方が多いです」

次に、家庭ではどちらをまくことが多いのか。街頭で聞いてみました。

(豆派)
「豆だよ。やっぱりおれは北九州出身で外様だからかな。初めて聞いた落花生なんて」
「豆ですね。落花生は千葉県とかのイメージがあったので初めて聞いてすごくびっくりしました」

(落花生派)
「あとで拾って食べられるから、落花生。鹿児島は特産地の鹿屋があるしね。だいたい昔から落花生ですよね。豆をまくのはあまり見たことないよ」
「落花生かな。おうちの中でまいたときにお掃除がしやすい」

結果は、落花生の方が圧倒的に多くなりました。


【なぜ落花生 歴史をたどると】

節分の歴史も調べてみました。百科事典などによると、節分は室町時代から伝わる行事。穀物は神秘的な力を持つと考えられ、悪霊を退けるため「鬼は外、福は内」の掛け声とともに豆をまくようになったとされています。

鹿児島では「セツガワイ」「セッガワイ」(節がわり)などと呼ばれています。6世紀に建立された霧島神宮では、大豆をまいているということです。

それでは、なぜ鹿児島では落花生が多くなったのでしょうか。県内各地の歴史に詳しい、黎明館(鹿児島県歴史・美術センター)の小野恭一さんに話を聞きました。

(小野恭一さん)
「はっきりとは分からないんですけれども、例えば栗野(現・湧水町の栗野地区)の町史に昭和48年とあり、その中には「豆のほかには落花生をまくところもある」とあります。ただ、やはり地域の風土に根ざして文化は生まれてきますから。落花生がいっぱいとれれば大豆に代わってこっちでもいいんじゃないのというのがきっかけになっていると思います」


【落花生農家では】

その落花生をまいたという最も古い記録が残っている湧水町です。雲月農園の竹野愛さん。いまジャンボ落花生という、通常よりひと回り大きな落花生を育てています。

(竹野愛さん)
「なぜ落花生をまき始めたかは分からないんですよ。ただ、みんな家でじいちゃんばあちゃんが作っているから、家にあるからだよねとか、投げても殻むいて食べられるからもったいなくないって言うんですよ」

業界団体によりますと、落花生をまくようになった明確な理由は分からないものの、九州では昭和30年から40年に生産量が増えたことが原因ではないかとしています。全国の都道府県のうち、落花生をまいているのは北海道、東北、関東、九州の一部。東京でも2割に上るということです。

(竹野愛さん)
「ジャンボ落花生はぶつけたときに力が強そうなので、普通のより鬼に効き目がありそうな気がしますよね。大きいので拾いやすいですし、見つけやすいですね。このまま割って食べても衛生的です」

生産量の増加が新たな習慣につながった経緯からは、異なる文化を受け入れてきた鹿児島の懐の深さが見えてきました。
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【鹿児島には多様な節分文化】

こうした寛容性は落花生以外にも発揮されていました。実は鹿児島では、全国の独特な節分の習慣が県内各地で見られるのです。

長崎などに伝わる、赤カブや赤大根を酢漬けにして食べたり庭へ投げたりする習慣がある地域。奈良などに伝わる、厄年の人が小銭を外に投げて子どもがお菓子を買いに行く習慣が残る地域もあるということです。

(小野恭一さん)
「地域地域のすごく特色が豊かな県ですよね、鹿児島県って。奄美では節分の行事がないですし。南北600キロの非常に多様な地域ですので、それぞれの地域の風土に合わせて、身近な食材とか人々の色々な考え方や知恵をもとに多様な文化が育ってきたんだろうと。なので節分の文化も地域地域によって色々異なるところがあったり、他から受け入れてきたりしたんだと思います」

取材をするまで、こんなに様々な節分の文化があるとは知りませんでした。地域ごとに伝わる節分文化を大切にしていきたいと思います。

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