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すりおろしりんご食べて窒息 保育園乳児死亡事故から1年

遺族の思いは、保育現場の課題は
  • 2024年05月28日

事故の発生から1年

2023年4月18日、姶良市の認可保育所で、生後6か月だった女の子がおやつとして出された「すりおろしりんご」を食べたあと窒息状態になり、意識不明の重体で40日後に亡くなりました。
事故の発生から1年。
女の子の父親に今の思いを聞くとともに、保育現場の不安や予防策について取材しました。
                              (鹿児島局記者 住山智洋)

Part1.娘を失った父親の心境は

 

亡くなった女の子の父親
父親

1年前はちょうど桜の時期で、一緒に見に行ったことが思い出されます。
夫婦2人とも日がたつにつれ、深く悲しむということはないですが、思い出すのは事故が起きた4月18日。今は手を合わせることしかできず、声をかけることもできません。

取材に答えた理由

父親

検証委員会の報告が終了したことや、娘が事故にあって1年ということもあり、
気持ちの整理というか、ひとつの区切りという気持ちで取材を受けることにしました。

検証委員会の報告について

 

検証委員会が提出した調査報告書には再発防止に向けた7つの提言

姶良市の検証委員会は3月、市長に提出した報告書で「りんごが窒息の原因となった可能性が高い」としたうえで、調理や提供のしかたや職員間の情報共有などに課題があったと指摘しました。
そして再発防止策として、以下の内容などを提言しました。

・りんごなど詰まりやすい果物は離乳食が終わる時期までは加熱して提供するとした
 国のガイドラインの順守
・保育士などへの研修や訓練を行う

父親

私たちが求めていた原因究明からは離れていましたが、おおむね意向に沿ったものと思います。それでも、娘が事故にあう前に対策をとってほしかったです。

娘との思い出を持参し、語る思い

 

父親が持参した娘の服とぬいぐるみ

父親は取材中、女の子が生まれたときに買ったクマのぬいぐるみや、保育園に通うために新調した洋服を見せてくれました。

父親

実際に服を着て娘が保育園に通うのを見たときは、うれしかったです。
やはり片づけることはできないですよね。ずっとそのまま。

父親

私たちにとって大事な娘はいつも、気持ちの真ん中にいます。このような事故は2度と起こしてほしくない。対応をしっかりとしていただけたらと思いますし、子どもと関わるときに、後悔しないようしてほしいです。

Part2.事故を防ぐために~保育現場の課題

子どもの命を預かる保育現場は、この事故をどう受け止め、事故防止に向けた取り組みを進めているのか。姶良市内にある別の保育園が取材に応じました。

 

同じ市内にある別の保育園長

間近で起こった窒息事故を受けて

同じ姶良市内の保育園で起きた1年前の事故は、大きな衝撃だったと言います。

保育園長

事故は偶然、あそこの園で起きたというだけで。『ひと事だとは思わず、自分のこととして考えていかないといけない』と、職員には注意喚起しています。

事故を受けて保育園では、国のガイドラインに沿って、りんごを出す際は必ず加熱して提供するよう見直しました。

 

園で導入の食材チェックシート。保護者との連携も重要と語る。

このほか、事故を防ぐために重視しているのが、保護者や職員間での情報の共有です。家庭で与えている食材をチェックシートで確認し、家で食べていないものは提供しないようにしたり、毎日行われる連絡会で、園児一人ひとりの体調の変化などの情報を職員間で共有しています。

それでも拭えぬ“事故への不安”

 

1人で複数の子どもを見る保育士

一方で、課題もあるといいます。それが慢性的な人手不足です。この保育園では、例えば3歳児のクラス15人に対して担任の保育士は1人。国の配置基準は満たしているものの、さまざまな事態に対応するには十分とはいえず、不安は拭えないと言います。
 

保育園長

担任が1人しかいない時に子どもにトラブルが起きれば、
そちらに気を取られてしまいます。
例えば15人いた場合、14人の子にかまえなくなる。人手がないことには、子どもを十分に見ることもできないと思うので、人手不足を解消していかないといけません。

模索が続く保育の現場

保育士の数がかぎられる中、事故のリスクをどのように減らしていけるか、模索が続いています。

保育園長

食事の提供の仕方も大事ですし、子どもから目が離れる時間をいかに減らせるかが課題だと感じます。保育士は書類仕事も多いので、そういった負担も減らせるように考えて取り組んでいます。

保育園長

少しの油断が事故につながると感じているので、その油断をなるべく減らすように、職員1人1人が丁寧に作業していくことを心がけることが大事じゃないかなと思っています。

取材後記

この事故について、関係者・行政機関・専門家に1年間、取材を続けてきました。その中でよく耳にするのは「これはどこでも起こり得る事故だ」という声です。
実際、この事故の発生以降も、幼い子どもが食べ物をのどに詰まらせてしまう事故が全国で続いています。防止に向けて、現状では「気をつけるしかない」という答えにどうしても行きつきますが、取材した専門家からは「危険な食べ物や与え方の注意点をピックアップしてくれるようなシステムを開発するなど、人の注意力だけに頼らない、技術の手助けを借りる考え方も検討していくべきだ」という意見も聞かれました。
悲しい事故を2度と起こさないために、社会や自分たちができることは何でしょうか。遺族や現場からの声を通して、各機関・施設が、各家庭が、各個人が考えるきっかけになればと思い、取材を続けています。

  • 住山 智洋

    NHK鹿児島 記者

    住山 智洋

    2022年入局
    鹿児島市で育つ
    事件・事故担当で、
    本事故の取材を続ける

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