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高校野球“旧金属バット”はどこへ? 驚きの活用も

  • 2024年05月13日

ピッチャーをけがから守るために高校野球でこの春から導入された低反発の金属バット。センバツ大会でも“飛ばないバット”として注目を集めました。では、従来使われていた金属バットはいま、どうなっているのでしょうか。              (鹿児島局記者・松尾誠悟)

バットでトレーニング!?

鹿児島高校はバットを持ったトレーニングを始めた

1、2、3、4」。「エッサ、ホイサ。エッサ、ホイサ」。
鹿児島市の鹿児島高校野球部のグラウンドに行くと、選手たちが元気のよいかけ声を響かせ、ランニングしていました。選手たちの手元をよく見ると、持っているのは2本のバット。練習前のウォーミングアップとして、バットのグリップの部分を持ち、脇を締めてグラウンドの周りを2往復しています。鹿児島高校では新たな基準のバットが登場し、使われなくなった従来のバットを捨てるのではなく、トレーニングに使って再利用することにしたのです。鹿児島高校の上之薗大悟監督は、トレーニングのねらいは、バットを持ちながら走ることで、体や腕の使い方を身につけ、バットの芯でボールを捉える力をつけることだといいます。

上之薗大悟監督

力がない子どもたちが多いのでいかにバットをうまく使うか。まず、自分の軸を知るということですね。脇をしめると力が出るので、その力をバッティングにいかに利用するかだと思います

児玉璃玖選手

最初はきつくてしんどいな。何しているんだろうと思っていました。でも、いまやってみれば打球も変わってきて、体の面としてもだいぶ強くなってきていると思います

“新金属バット”ってなに?

バットの違いの1つは直径の上限

打球のスピードが上がり、ピッチャーをけがから守るためにこの春のセンバツ高校野球から導入され、県大会でも使い始めています。従来のバットと見た目は変わりませんが、直径の上限が64ミリと従来のものより3ミリ小さくなりました。さらに、金属部分が従来の3ミリから4ミリ以上と厚くなって反発力が抑えられ、従来のバットと比べ打球のスピードや飛距離が出せなくなりました。 “飛ばないバット”として注目を集め、センバツ大会ではホームランの数が3本と過去最少となりました。

スリランカへ、花器に

福岡県高野連はスリランカへバットを送った(画像提供:スジーワさん)

使われなくなったバットを有効活用する動きは、鹿児島県外でも広がっています。福岡県高等学校野球連盟(高野連)では、ことし2月におよそ250本のバットをスリランカに寄贈しました。福岡県高野連で審判として活動するスリランカ出身のスジーワ・ウィジャヤナーヤカさんが高野連に呼びかけたのがきっかけです。スジーワさんは、もともとスリランカで盛んなクリケットの選手でしたが、高校から野球部に入部。道具が十分にある環境ではなく、部員20人が1つのボールを使ってキャッチボールをしていたといいます。そのような経験から「野球の普及に役立ててほしい」と母国に送りました。

スジーワさん

スリランカでは、まだまだ使える道具です。私はしんどい思いをして野球をやってきました。野球ができる環境をつくっていき、野球の力のレベルアップにつなげてほしい

バットが花器に生まれ変わった(画像提供:沖縄県高野連)

また、沖縄県高野連ではSDGsの活動の一環として廃棄されるバットをリサイクルしました。屋良淳元高野連会長の発案で、花器やペン立てに生まれ変わらせました。各学校からバットを集め、花器やペン立てなどにするために、機械でバットを裁断。バットの裁断には沖縄県の工業高校の野球部の生徒らが担いました。さらに、花器に入れる多肉植物は農業高校の生徒が栽培したものです。高校生の力を結集させて作られた花器やペン立ては、ことし3月に行われた県大会の会場で販売。用意していたおよそ130個の商品は完売し、売り上げはバットの購入費など、高野連の活動資金にあてようと考えています。

屋良淳元会長

もともとはSDGsの一環で始めたのですが、販売してみると、「ロゴが残っているのがいい」とか「使い込んで、汚れている感じがいい」と喜んでいただけたことに驚きました。高校生がみずから手づくりすることで学校間の交流にもなりました。今後は、球児を応援する取り組みとして、活動のすそ野を広げたい

未来の高校球児のために

中学校に寄付され筋力アップに活用されている

そして、使われなくなったバットは未来の高校球児の育成にも一役かっています。鹿児島県いちき串木野市にある市来中学校の野球部は、鹿児島工業高校からバットを5本ゆずり受けました。高校野球のバットは中学野球のバットより重くなっています。筋力アップにつなげようと、この冬からティーバッティングで使い始めました。選手たちは、打撃のスイング力や飛距離の向上を感じていました。さらに、競技力の向上に加えて、バットをはじめ「道具を長く使うことの大切さ」を学ぶきっかけにもなっています。

柿森成介選手

いま使っているものを大事にして次の後輩とかも使えるようにしたいです。高校になってからも硬式バットを振るのですごく練習になっています

榎並海斗監督

感謝の気持ちとか、いまある環境をもう一回考える意味ではすごくいいことでした。今回のバットを糧にして高校でも野球をやってみたいな、この先も野球と関わってみたいという子が増えたらと思っています

道具を長く使う大切さを学ぶきっかけに

取材後記

私はこの春のセンバツ高校野球を甲子園のバックネット裏から取材してきました。今大会の大きな取材テーマが「新たな基準のバットで高校野球がどう変わるか」ということでした。バットについて監督や選手、メーカーに話を聞くなかで、ふと従来のバットはどうなるのだろうかと思いました。甲子園から戻り、鹿児島で取材を進めると、鹿児島でもトレーニングやソフトボール部や軟式野球部に寄贈していることがわかりました。バットという道具の1つの変化で、さまざまな動きがあり、おもしろい取材でした。
一方でこの新基準のバットは、価格が1本あたりで3万5000円程度と従来のバットより1万円ほど高くなっています。このため、予算が限られる公立高校などでは、経済的な理由でたくさんそろえることができません。ある公立高校では、新基準のバットは公式戦や練習試合のときだけ使用し、ふだんの練習では従来のバットを使い続けている現状もあり、課題も残されていると感じます。

 

  • 松尾誠悟

    NHK鹿児島放送局 記者

    松尾誠悟

    2020年入局。災害担当のかたわらスポーツや医療など幅広く担当。大学時代は学生記者でアメフトなど8つのスポーツを取材してきた。ギョーザとビールを愛する26歳。

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