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戦争・統治に翻弄され… 大島紬のたどった道

  • 2024年01月16日

 

戦後、アメリカ軍の統治下にあった奄美群島が日本に復帰して2023年12月25日で70年を迎えました。奄美の伝統工芸品の大島紬は、産業の中心的存在でしたが、太平洋戦争やその後のアメリカ軍の統治に翻弄されてきました。その歴史をたどります。
                            (鹿児島放送局記者 熊谷直哉)

戦前は繁盛

お話を聞いたのは奄美市に住む 興 昭正さん(86)。

父親の代に大島紬の生産を始め、長年、生産に携わってきました。

 

興さんの生まれる前の昭和初期に父親の工場で撮られた写真には着物姿の織子が写っています。

 

大島紬は奄美の主要産業。戦時中には、紬の組合が軍用機を献上したということです。興さんも、大島紬の組合の仕事もしていた父親から、その話を聞いたことがありました。

興昭正さん

大島紬の団体は現金を稼いでいる団体で、ほかの企業はほとんどないですから、飛行機を献上するということになり、組合が出したという話は聞いております。父親は、そのことを誇りに思っていたようです。

戦時中・統治下の苦境

しかし、戦況が悪化すると大島紬を取り巻く状況も一変します。沖縄に近く、たびたび空襲を受けた当時の名瀬町では中心部の9割が消失。大島紬の関連施設も被害を受けました。

 

さらに紬はぜいたく品として製造が禁止され、終戦の年には、ついに生産されなくなりました。

興昭正さん

戦争が激しくなって奄美は沖縄が近いから占領されるかもしれないといって内地からきているお店の人や財力のある人は内地に避難していった。生きるため、食べるためですから。そういう時代ですからね。紬どころじゃなかったです。

終戦後も、厳しい状況は変わりません。大島紬の糸は、愛知県などから取り寄せていましたが、アメリカ軍統治下の奄美は「外国」となり、経済的なやりとりがほぼ途絶えました。島内にも、カイコを育てるための桑畑がありましたが、アメリカ兵の宿泊地になってしまったといいます。

興昭正さん

管理棟が2、3軒あってそこから先はずっと1面桑畑でカイコを飼っていましたが、ブルドーザーが来て、全部桑畑を潰してしまいました

アメリカ軍統治下で大島紬の生産量は、戦前のおおむね10分の1以下になりました。

 

興昭正さん

糸もないから作れない。作っても売れないから作ってないんですよ。販路がないから。作ったとしても持っていけないから。

復帰し ふたたび隆盛

大島紬が息を吹き返すきっかけとなったのが、奄美群島の日本復帰でした。本土との経済交流が復活して、糸の流通が増え、販路も拡大。興さんも父の工場を継ぎました。

 

復活の象徴とされるのが「紬アパート」といわれる建物です。

 

”紬アパート”

奄美群島の各地から来た従業員を受け入れるため、多くの大島紬の業者があわせて40棟以上を建設しました。興さんの工場にも沖永良部島や与論島など奄美群島全域から大島紬作りに人が訪れたといいます。興さんは「大島紬で収入を得た人たちは子どもたちの教育に熱心だった」と振り返ります。

興昭正さん

学問させて広い世界に夢をもった若い人たちを、親が一生懸命に応援する。広いところに出て、経済力をつけて、そういうことが島が発展することにもつながるからと

大島紬の生産額は、1980年には280億円あまりとピークに達し、奄美群島の経済の礎となったのです。

 

興昭正さん

紬が戦前から基幹産業として島の経済を支えてきた。それがずっと先祖から受け継がれて、島の経済を支えて今日生活ができるようになっている。命をつなぐ生命産業だ。生きていくためになくてはならないもの、これが大島紬だと思います。

取材を終えて

戦争や統治の苦難を乗り越え、奄美の人々の「支え」でありつづける「大島紬」。一連の取材中、何人もの地元の人から「何を取材しているの?」と聞かれ「大島紬です」と答えると、「私の親戚も大島紬を作っていた」「親がやっていた」などと返してくださり、島に深く根づいていたことを実感しました。多くの工程をへて出来上がる大島紬独特の色や文様、風合いはとても美しいと感じました。しかし、生産量は近年減少が続いています。時代に翻弄されながらも受け継がれてきた大島紬の歴史を知ることで、少しでも身近に感じてもらえたらと思っています。そして、大島紬が永く愛され続けてほしいと願っています。

  • 熊谷直哉

    NHK鹿児島放送局 記者

    熊谷直哉

    2020年入局 事件・事故や経済を担当。取材をきっかけに、思い切って大島紬のネクタイを買いました

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