ページの本文へ

かごしまWEB特集

  1. NHK鹿児島
  2. かごしまWEB特集
  3. 徹底解説!公文書管理条例の意義と課題

徹底解説!公文書管理条例の意義と課題

全国で唯一公文書館のない鹿児島
  • 2023年04月19日

公文書の適正な管理と保存を図るための県の条例案が、先日、県議会で可決されました。一見地味にも見える条例ですが、今後の鹿児島にとって実はとても重要な意味を持つものです。全国で唯一公文書館のない鹿児島で条例が制定された意義と課題を取材しました。

         (鹿児島局記者・磯島諒)

公文書管理条例の意義は?

可決された公文書管理条例

そもそも公文書というものは、県が私たちの税金をもとに政策などをどのように意思決定したかを記録したものです。私たちは県の活動が記録された公文書を通して、県の働きを検証することができますし、公文書自体が県庁の歩み、鹿児島の歴史を形作るものとなります。

今回の条例は、その公文書をどのように作成・保存・公開するかなどについて基本的な事項を定めたものです。県政を検証するためにどういった情報に県民がアクセスできるようになるか、そして鹿児島に関するどのような歴史が残っていくかを方向付ける、重要な条例です。

条例で何が定められているか

条例の制定でこれまで変わる点は大きく分けて4つあります。

①公文書を県民共有の知的資源と規定
条例では、公文書を民主主義の根幹を支える県民共有の知的資源に位置づけるとともに、県の活動を、現在だけでなく将来の県民に対しても説明する責務を果たすことを目的と規定しています。

②重要な公文書を「歴史公文書」に位置づけ永久保存・利用推進
政策過程や歴史などに関する重要な情報が記録された公文書を「歴史公文書」と位置づけて永久保存し、目録を作成して公表するほか、閲覧や写しの交付などを通じて公文書の利用を推進するとしています。

③職員だけの判断で公文書の廃棄できないように
これまでは保存期限の過ぎた公文書を廃棄するかどうかは、原則として各担当課の職員が判断していましたが、条例では、公文書管理に詳しい有識者などで作る委員会の意見を聴くとしています。

④「時の経過」考慮で公開範囲広がるか
文書を公開するかを判断する際に「時の経過」という考え方が導入されます。具体的には、これまでは県の公文書を閲覧したい場合は原則、情報公開請求をするしかありませんでした。この場合、個人情報が書かれた部分などは非開示、いわゆる黒塗りになって公開されていました。

一方、公文書管理条例が施行されれば、庁内で使わなくなった永久保存される公文書については、この条例に基づいて閲覧などを請求できるようになります。この場合、情報公開請求では公開されない部分についても「時の経過」が考慮され、秘匿性が薄まったなどとして公開される可能性があります。

条例案は、県議会の定例会に提案され、2023年3月に可決されました。今後は永久保存する「歴史公文書」を選別する具体的な基準を規則などで定めたうえで、2024年4月から全面的に施行される見通しです。

今後の課題① 全国で唯一公文書館のない鹿児島

国立公文書館の様子

今回の条例は県の公文書管理にとって前進とも言えますが、課題もあります。1つは、一般的に永久保存される文書の移管先となる公文書館について記載がないことです。今回の条例では文書の移管先は知事となっています。内閣府などによりますと、全国の都道府県で公文書館がないのは鹿児島県、愛媛県、熊本県の3県、さらに市町村の施設も含めて公文書館が1つもないのは鹿児島県だけとなっています。

県は、公文書館を設置するかどうかについては、条例の公布後、永久保存する文書の数量が把握できる2025年度以降を目安に検討を始める方針ですが、公文書管理に詳しい専門家は次のように話しています。

学習院大学の下重直樹 
准教授

条例で公文書の利用を促進し、よりアクセスしやすくすることを県民に対して約束する一方で、当面は公文書館のような施設を設けないというのは少し矛盾していると感じる。そもそも県レベルで公文書館がないのは極めて異例だ。公文書館は永続的に検証していく必要がある記録を安定的に保存するだけでなく、その利活用の拠点になる場所でもある。これまで利用の道が十分に開かれてこなかったような公文書を誰もが妨げられることなく利用できるようにするためにも公文書館というのは欠かせない。公文書管理を通して県として何をどのように実現したいのか、中長期的なビジョンを丁寧に説明していくべきだ

今後の課題② 公文書作成の具体的なルール作り

もう1つの課題は「どういった場合に公文書を作成するかに関する具体的なルール作り」です。

そもそもまずは公文書が作られないと、後世に残りようがありません。特に、県の政策や対応を検証するには、その結果だけでなく、庁内でどのような議論や過程を経て意思決定されたかについての記録が必要です。

条例には、意思決定に至る過程を合理的に跡づけ、検証できるように文書を作成することを職員に義務づける規定が入りました。こういった規定は国の公文書管理法にも設けられています。ただ、この条文だけではどういった場合にどのような文書を作るべきか、一般の職員には分かりづらい面もあります。

実際、これまでも、意思決定の過程に関する公文書が十分に作成されていないと受け取れる事例もありました。

例えば2022年11月29日、馬毛島での自衛隊基地の建設について、塩田知事は国による住民の安全対策が講じられることが確認されたなどとして「理解せざるを得ない」と県議会で述べ、計画を容認する考えを明らかにしました。これは県として1つの大きな決断だったといえます。

県によりますと、この考えの表明までに、知事と担当部署の職員が複数回打ち合わせをして意思決定をしたとしていますが、この打ち合わせで知事や各職員がどういう発言や議論をしたかを記録した公文書が作られていないことがNHKの取材でわかりました。県は、各職員の個人的なメモや、打ち合わせでの議論を踏まえて作成した議会での知事の発言案などの資料があり、業務に支障がないため作成していないとしています。

NHKの情報公開請求で開示された知事の発言案。
当日発言に至るまでに知事らがどういった意見を出したか、庁内でどういった議論が行われたかが分かる公文書は不存在。

意思決定の過程に関する公文書の作成のルールについて、国の場合は、法律だけでなく、より具体的なガイドラインを作成していて、政策立案の方針に影響を及ぼす打ち合わせについては内容が分かる公文書を作成することなどを規定しています。

一方、現在の県の文書規程などでは、どういった場合に議事録などの公文書を作成するか統一的なルールはなく、条例の公布後も作成するかどうかを明言していません。この点について専門家は次のように話しています。

学習院大学
下重直樹准教授

重大な意思決定に関する打ち合わせでの発言などが分かる公文書が作成されていないのは、意思決定の背景や過程は当事者だけが知っていればいいという発想に思える。公文書管理条例は県民を含めて公文書を広く活用し、そこに書かれている意味、背景、重要性をお互いに評価し合いながら、より正しい意思決定をしていくことを目指すものだが、その精神とは逆のことをしてしまっているのではないか。現在の県民だけでなく、今起きていることに対して直接発言ができない将来の県民に対しても、先人がどういう事に悩んで、苦しんで結論を出してきたのかを伝えて、より合理的な判断をしてもらう。そのためにも意思決定の過程の記録が重要だ。そうした記録を残すために、条例の公布後は現場の職員がどういった場合にどのような文書を作成すべきか迷わないように、ガイドラインやマニュアルを整備していくことが必要になる

公文書は民主主義の根幹で県民の知的資源

公文書は条例にも書かれているとおり、民主主義の根幹を支える県民の知的資源です。

県の活動が検証できる形で公文書が作られ、公開されることで、政策の透明性・県への信頼が高まるとともに、その公文書をもとに、よりよい社会に向けて議論を深めることができます。

今後も重要な公文書がしっかりと残され、県民が利用しやすくなる対応がとられていくか、公文書館の設置や文書の作成などに関する具体的なルール作りの検討が進んでいくか、取材していきたいと思います。

  • 磯島諒

    NHK鹿児島放送局

    磯島諒

    秋田局を経て鹿児島局に赴任 鹿児島県政キャップとして政治資金や公文書管理などを取材

ページトップに戻る