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NHK鹿児島がポケモンカードを特集! その背景には深い事情?

  • 2023年02月02日
ポケモンカード このように並べて遊びます

NHK鹿児島放送局が「ポケモンカード」の特集を放送したことをご存じでしょうか。“おもちゃ”に分類されるポケカをわざわざ特集した背景には深い事情が?今回のWEB記事では、ニュースの制作現場の裏側を紹介します。

(鹿児島局記者 古河美香・デスク 中村雄一郎)

“ポケカ買うため”長い行列

特集の冒頭の場面は、鹿児島市にある電機店の前にできた長い行列でした。その1人に何のために並んでいるのか聞いてみると…。

「ポケモンカードのハイクラスパック「VSTARユニバース」です」との答え。

実は特集の放送日・12月2日は、新しいポケモンカードの発売日だったのです。整理券も配られ、並んだ人の数は確認できただけでも260人以上に上りました。

「いま来ました。ちょっとほかの人よりは遅いんですけど、整理券ももらえて運がよかったと思っています」と話していた男性。店から出てきたあとに話を聞くと…。

「買えました。長かったですね。1時間くらい並んでいたんじゃないですかね。早く帰って開けたいと思います」とうれしそうに話していました。

きっかけは若手スタッフの雑談

特集の“つかみ”にあたる、この場面。実は当日の朝まで何が撮影できるか分かっておらず、ぶっつけ本番のような取材でした。

そもそもこの話題を取り上げることになったきっかけは、1週間ほど前の日の仕事終わりに、編集チームの若手スタッフの中で盛り上がっていたポケモンについての雑談です。たまたま記者デスクの私(中村)がその話を聞きつけ、12月2日の特集枠が空いているので取材しようということになったのです。

雑談する編集チーム

実は私は以前から、6歳の長男がハマっているポケモンカードがなかなか入手できないことを疑問に感じていました。ニュースになるかもしれないと思っていましたが、はたして大人にも関心を持ってもらえる話題なのか、確信を持てずにいました。

“絶対にやりたい”

そうしたとき頼りにするのが、職場での雑談です。とくに日頃、警察や行政、政治家といった取材から離れたところにいる若手スタッフの考えは大切です。このとき話を聞いた石松眞珠紀さんの回答は「絶対におもしろいのでは!」というものでした。

編集を始めて3年目の若手 石松眞珠紀さん

(石松眞珠紀さん)
編集チームの雰囲気がとてもよくて、仕事が終わったあとに、土日にあったこととか、ふだんの趣味とか、よく雑談しているんです。そうしたときにポケモンカードの話が出たので、絶対にやりたいと思って飛びつきました。雑談の場に編集チームのデスクもいたので、その場で確認して。どこまで採用されるか分からなかったけど、ポケモンの歌もBGMで使いたいと思いました。そのときに、もうリポートの内容をイメージしていました。

見切り発車で迎えた発売日。電機店の前には想像を超えた長さの行列ができました。そして、古河美香記者の取材で、こうした行列には思わぬ背景があることも見えてきました。

カードを買い取り、そして販売へ

私(古河)が取材したのは、中古の本などを取り扱っている全国チェーン店。鹿児島市内の店では予約販売のみ受け付けていて、午前10時のオープンから事前予約をした人たちが続々と訪れ、ポケモンカードを受け取っていました。

この店では、新たに発売されるカードだけ取り扱っているのではありません。さまざまな種類のカードを買い取り、そして販売しているのです。

1枚30円のカードもたくさんありますが、ショーケースに入ったカードは、より高い価格で売られています。中には7万円のカードもありました。

ポケカをめぐる大人の事情とは

店に訪れた人に話を聞くと、遊ぶためだけにカードを購入するのではない大人の事情も見えてきました。

朝早くに別の店で購入したカードの一部を、さっそくこの店で買い取ってもらおうと訪れていた男性。店側から4枚で1万7000円あまりの見積もりを示されたのに対する回答は「キャンセル」でした

正直ほかの店舗より安かった。昨日の時点で買い取り価格を出しているところもあって、そこの値段と比較しました。きょうのうちにどこかで売ろうと思います。

日ごろからさまざまなサイトを見て、価格をチェックしているという、この男性。結局この日は別の店でカードを1枚だけ、1万8000円で買い取ってもらいました。このほかのカードは子どもたちと遊ぶため手元に残したということです。

転売の差額で生計立てる

カードは1袋10枚入りで550円、1枚あたりだと55円です。それが1万8000円にもなるとは驚きです…。

そして、取材の中で、こんな男性から話を聞くこともできました。

購入したカードをネットで高値で販売し、その差額だけで生計を立てているというのです。いわゆる「転売ヤー」と呼ばれる男性。この日も、複数の店で、発売されたばかりのカードを買い集め、転売する予定だと話していました。

「レアカード」になると1枚数十万円を超える価格で取引されることもあるなど、市場が広がるポケモンカード。この店ではおととし10月、カードの売り場面積を2倍に拡大し、カードが傷つかないよう保護する袋やケースを、大幅に増やしたということです。

ポケカ効果?玩具売上は“過去最高”

人気が高騰しているのはポケモンカードだけではなく、トレーディングカード全体の傾向です。日本玩具協会によりますと、2021年度の玩具の売り上げ額は推計で8946億円と、調査を始めた2001年以降、最も高くなりました。

その最大の理由は「カードゲーム・トレーディングカード」が前の年度と比べて45%も伸びたこと。特にポケモンカードは品薄状態が続いたということです。レアカードの高額取引といった話題性も、そうした人気に拍車をかけているといいます。

(BOOKOFF 鹿児島ジョイプラザ店 満園大輔 店長)
2、3年前からトレーディングカードの人気が徐々に出てきて、小さい子から大人まで購入する人が増えました。需要が高まって転売される人も増えていますけど、これから広がっていく市場かなと思うので、この先も力を入れていければなと思います。

ブームの過熱で問題も

ただ、ブームの過熱で問題も起きています。去年12月には、東京都内の会社の元代表が「レアカード」を数多く仕入れたように装う手口で所得を隠し、脱税した疑いで国税局から告発されました。

取材した店では、こうした“転売市場”とは別に、まずは子どもたちに楽しんでもらおうと、子どものためのカードは別に確保していました。カードを高値で転売することは違法ではありませんが、子どもにも行き渡るように、気を配っているということでした。

(BOOKOFF 鹿児島ジョイプラザ店 満園大輔 店長)
カードゲームなので小中高生に買ってもらえたらなと。きょうの分は別で取っているので、夕方以降販売できれば。お子さんが遊ぶカードは1枚30円で買えたりするので、欲しい人に買っていただければなと思います。

放送で使用したカードは…

最後に、もうひとつ裏話を紹介します。特集の放送でスタジオで使ったポケモンカードや関連グッズ。経費で購入したと思われるかもしれませんが、実はすべて私物です。なるべく買わずにすますのがNHKの流儀。そしてここにも、あの若手スタッフ・石松さんのこだわりがありました。アナウンサーが持っているカード、石松さんの大のお気に入りなのだそうです。

石松さんお気に入り グレイシアV

カードを見せる演出があるかどうか分からなかったのですが、もしあるのなら大好きなカードを見て欲しいなと思って持ってきていたんです。とにかくポケモンが大好きで、その日はイーブイの靴下もはいてきたんですよ。めちゃめちゃ楽しんで編集して、いいものができたと思います。

自分の好きなテーマを編集する機会ってそんなに多くないんです。だから特に気合いが入りました。そして今回、編集は映像をつなぐだけの仕事ではなく、編集者の知識や思いで大きく内容が変わるとあらためて感じました。この企画だけでなく普段の仕事から、まず一番は自分が理解すること、そしていろいろな勉強をして、編集できる世界を広げていきたいと思います。

  • 古河美香

    NHK鹿児島放送局

    古河美香

    長崎局を経て鹿児島局勤務 県政担当などを経て、現在は教育や経済を担当   2児の母親

  • 中村雄一郎

    NHK鹿児島放送局

    中村雄一郎

    ニュースデスクとして
    事件事故、災害、調査報道など担当。休日は子どもたちと公園や野山を駆け回る。

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