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鳥インフルエンザ 鹿児島で被害拡大の裏に課題や負担が

  • 2023年02月03日
鶏舎内での処分作業

過去最大の被害となっている鳥インフルエンザ。鹿児島県内では今シーズンは13の養鶏場から検出され、今月に入って大隅地方でも初検出されるなど影響はまだまだ収まりません。なぜここまで被害が広がったのか。その背景を取材すると日本の養鶏業の新たな課題が見えてきました。

                                                                   (鹿児島局記者 熊谷直哉)

ウインドレス鶏舎で初確認

今シーズンは、過去最多となる134万羽を超えるニワトリが県内で処分されました。鳥インフルエンザウイルスが検出された養鶏場も過去最多の13例に上ります。

処分に向かう作業員たち

今回の取材で、以前のケースと今シーズンの感染状況を比較すると、意外なことが分かりました。昨シーズンとその前のシーズンは、窓がないウインドレス鶏舎での発生はありませんでしたが、今シーズンは初めて感染が確認されたのです。13例のうち8例がウインドレス鶏舎でした。

鶏舎内部「豆電球よりは暗い」

ウインドレス鶏舎の中はどのようになっているのでしょうか。内部で処分の作業にあたった男性は、「家庭の豆電球よりは暗い感じでした。真っ暗ではないにしてもあまり明るくはない。窓もほとんど無い」と話します。

ウインドレス鶏舎は、野鳥などとの接触を避けられるため、鳥インフルエンザ対策にも有効だと考えられてきました。

ウインドレス鶏舎

ニワトリを管理しやすく生産性向上が見込めるため国も推進。補助金の対象となる事業も、ウインドレス鶏舎であることが推奨されています。ただ、アニマルウェルフェアと呼ばれる、家畜に対しての動物愛護の考えが進んでいるEUでは、平飼いが望ましいとされてきました。

かなりぎゅうぎゅうでつまっているような状態でした。ケージが4列ぐらい高さがあるので足場を確認するのも難しい。

ウイルスの変異が影響か?

農林水産省の疫学調査チームは、感染対策に有効だと考えられていたウインドレス鶏舎でなぜ被害が広がったのか、調査を続けています。

こうした中、ウイルスの変異が影響していると指摘する専門家がいます。鹿児島大学共同獣医学部の小澤真准教授です。

これまでは、ネズミなどが侵入してウイルスを運んでいると考えられていましたが、そのための対策では通用しなくなっていると話します。

風の流れ、空気の流れに乗って外部のウイルスが侵入してしまうリスクというのは結構無視できないレベルなのかもしれないと思っています。羽とか糞尿も含めて風に乗って鶏舎に入ってしまう。

“食の安全保障”も背景に

さらに、134万羽まで被害が拡大した背景には、長年かけて推進した養鶏業の大規模化と集約化があると指摘します。養鶏を営む事業者数が年々減少する中、国は食糧自給率をあげる「食の安全保障」を提唱しています。その結果農場あたりの飼育数は急速に増加しましたが、そのことが大量の処分につながったというのです。

一極集中にした方が人件費を削減できるしあるいは飼料や光熱費などの節約につながります。すると当然1つの農場にウイルスが入ってしまった場合の処分数ははね上がってしまいます。ウインドレス鶏舎にすることによって、生産性が上がるとかいい面もいっぱいあるんですけど、それだけではなくてどういった侵入要因が考えられるのかというのをこれから話し合いながら新たな可能性についてひとつずつ対策を考える必要があるのかなと思います。

作業を行った人の精神的な負担も

そして、他にも問題があると指摘する意見がNHK鹿児島局に寄せられました。それは、防護服を着て生きたニワトリを処分するという作業の精神的な負担の重さです。今回、実際に作業を行った人が話を聞かせてくれました。

「慣れないうちは心がきつかったなと。感染しているわけではない元気なニワトリにも処分をしないといけなかったので、命を奪うということなので。」

こう話すのは、JA鹿児島いずみの坊木聡さんです。ふだんは広報事務を担当していますが、地元の養鶏場で鳥インフルエンザウイルスの検出が相次ぎ、県の要請で処分の現場に入りました。JA鹿児島いずみでは、職員のおよそ3分の1にあたる80人が交代で作業にあたりました。

その作業の手順です。まずニワトリを手作業で捕まえて台車で運び、プラスチックの容器に移し替えます。

次に容器に10羽ほど入れると炭酸ガスを注入。そして動かなくなったニワトリを袋状のコンテナに入れて埋めるのです。

作業は分担され、坊木さんはコンテナに入ったニワトリを運ぶ役割でした。

坊木聡さん

炭酸ガスを入れてしばらくすると静かになるので、苦しまずに死ねたニワトリはよかったのかもしれないですけど、死にきれていないニワトリもいて。おそらく苦しくて、暴れて爪でフレキシブルコンテナを破いて。そういったことを目の当たりにしたので、かわいそうだなと。

今回、鹿児島でニワトリの処分の作業にあたった人は、少なくとも8200人以上。県は作業後に医療機関への相談を促すなど、メンタル面のケアも行っているということです。こうした事態がこれからも繰り返されるのか。坊木さんは複雑な思いを抱いています。

坊木聡さん

実際に鳥インフルエンザが出た養鶏業者さんの気持ちを考えると、私たちの気持ちなんてちっぽけなものだと思いますが…。今後も鳥インフルエンザが出ないようにすることは不可能だと思います。ことしのような事態になれば、また行かなければならないのだと思います。

取材を終えて

昨今叫ばれている「食の安全保障」の問題が、鳥インフルエンザにも影響していたことからは、感染したニワトリを処分するだけでは済まない構造的な課題が垣間見えたと感じています。去年から継続して被害状況を報じてきましたが、防疫対策のため現場に近づくことができず、なかなか実態を伝えられずにいました。今回、現場で作業した人に話を聞いたことで、さまざまな観点から対策を考える必要があることも分かりました。これからもウイルスとの戦いは続くとみられます。鹿児島の主要産業である養鶏業を、今後も取材していきます。

  • 熊谷直哉

    NHK鹿児島放送局 記者

    熊谷直哉

    2020年入局 京都府出身 事件事故や経済を担当 首都圏局での営業部門を経て去年から鹿児島局記者

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