鳥インフル相次ぐ中 出水のツルに異変 韓国に”緊急避難”?
- 2022年12月27日
鳥インフルエンザの感染が広がるなか、野鳥のツルにも異変が起きています。
出水平野で1200羽以上が死んだり弱ったりして回収される異常事態のなか、越冬中のツルが、かつてない動きを見せています。韓国のソウル支局と共同取材しました。
(薩摩川内支局・堀祐也/ソウル支局・長砂貴英/鹿児島局・平田瑞季)
出水平野で広がるツルの危機
出水市の街のシンボルともなっているツル。出水平野は国際的に貴重な湿地としてラムサール条約にも指定され、例年1万羽以上が飛来するツルの姿が観光客をひきつけてきました。
しかし今シーズン、鳥インフルエンザの流行で、死んだり弱ったりして回収されたツルはすでに1200羽以上。過去最多だった2年前のシーズンの実に10倍近くに上り、かつてない事態となっています。
長島町で目撃された”異変“
こうしたなか、出水市の北西およそ20キロに位置する長島町で、ある異変が目撃されていました。
毎年、ツルの観察を続けてきた山崎友喜さんは、11月中旬に、3日間で千羽を超える、おびただしい数のツルが北に飛ぶ姿を見たのです。
これはもう100%何か異変が起きていると。そういうふうに感じたので、出水のツル保護協会の知り合いの方に『長島で北帰行するツルをどんどん観察しているんだけど、どうなっているんですか』と電話しました
例年、ツルが北に向かって飛ぶのはシベリアに帰る春です。観察歴20年以上の山崎さんですらこの時期に集団で北に飛ぶ姿は見たことがありません。山崎さんは鳥インフルエンザの影響ではないかと推測しています。
今まで20数年間ツルをいろいろ観察して来ましたけど、1度もこういうことはなかったわけです。野生動物として何か本能的に危感を感じて、もう少し分散しようとしているのかもしれません
韓国ではツルが急増の異変
北上したツルたちはどこへ行ったのか?同じ時期、お隣の韓国でも、異変が起きていました。
ソウル支局の長砂記者は、韓国南部のスンチョン(順天)を訪れました。
鹿児島でツルの北上が目撃されたのとときを同じくして、ツルが大挙飛来していました。
スンチョンの湿地は、出水市と同じようにラムサール条約に登録されていて、自治体や地元住民が「ツルのまち」として長年、環境保全に取り組んできました。例年、越冬のためにやってくるツルは3000羽ほどですが、先月末にその数が急増して、およそ3倍の1万羽近くが飛来しました。自治体から委託を受けて、長年、ツルの観察を行っている男性は、これほど多くの飛来は過去に例がないと言います。
年平均で300羽から400羽ずつ越冬のために渡ってくる個体数が増えていて、ことしは何羽になるか楽しみにしていましたが、この急増は異常事態です
対応に追われる韓国自治体
ツルの越冬地につながる農道は、通行止めとなって、「鳥インフルエンザ緊急防疫・消毒」と書かれた看板が立っていました。先月以降、200羽あまりのツルの死骸が見つかり、その多くの高病原性の鳥インフルエンザの感染が確認されたため、地元のスンチョン市が先月から、湿地や農地への立ち入りを制限し消毒を強化していたのです。
さらにツルへのエサのやり方も変更しました。これまで人の手で行っていましたが、機械を使って広範囲にまくようにして、ツルの密集を少しでも緩和しようと模索しています。
実は出水市と姉妹都市というスンチョン。地元の湿地を紹介するパンフレットにもツルが描かれていて、ツルが越冬しやすい環境づくりに努め、地域の活性化につなげてきました。
出水市と同じく「ツルのまちづくり」と鳥インフルエンザ対策の両立という、難しい対応に直面するなか、スンチョン市スンチョン湾保全課ファン・ソンミ(黄善美)さんは、大挙押し寄せてきたツルについて、出水市とも互いに情報共有を密にして、対策を考えていけたらと話していました。
一日も早く、出水市の状況が改善されることを願っていますし、連絡も取っています。でも今シーズンのようなことは、出水市でも初めてということですし、私たちスンチョン市も初めて経験していることです。とりあえず急いで現場で対応すべき部分は対応し、今シーズンが終われば、出水市とスンチョン市、そして日本の環境省と韓国の環境省が効果的な越冬地の管理や、鳥インフルエンザの拡大を食い止める方法について、話し合うことができればと思います
ツルは”緊急避難”か?
どうして韓国でツルの飛来が増加しているのか?渡り鳥を長年、研究している、山階鳥類研究所の尾崎清明副所長に話しをききました。ツルが危険を感じ”緊急避難”しているのではないかと指摘しました。
死んだりあるいは弱った個体が観察されるとツル自身もかなり驚いてしまう。さらに、死骸や弱った鳥を収容するために通常人が入らない場所に人が入っていくこともふだんより多く見られているため、両方の要因でツルが危険を感じ移動としたと考えられる。
スンチョンは一部の個体が出水平野に渡る際に立ち寄る場所でもあるので、ツルからするとすでに知っていて多くの群れがいるスンチョンに緊急避難的に移動したと考えられる
国境を飛び越えて移動するツルたち。尾崎副所長は正確に事態を把握するためには両国で情報交換する仕組みを作る必要があると指摘します。
韓国で個体数が具体的にいつごろ増えだしたのか、それが出水市の数とどれだけ関連しているのか、さらに鳥インフルエンザの発生状況もきちんと情報を把握できていません。
そうした情報を両国が密に交換して関連性を明らかにする必要がある
取材を終えて
九州と韓国の位置関係を見てみますと東京に行くよりもずっと近い距離にあります。
野生動物の保護や気候問題などの課題は一国だけでの対応は限界があります。
今回のツルをめぐる異変を通じて、日本と韓国の両国が、今後さまざまな自然環境の危機をめぐる対応で、自治体でも民間でも連携を深めるきっかけにつながればと、取材を通じて感じました。