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奄美で起きた卵不足 鶏卵生産量全国2位の鹿児島が抱える課題

  • 2022年12月12日

「卵が無い!」

今年の夏、奄美大島のスーパーではしばしばこの言葉が聞かれました。卵の生産量が全国2位を誇る鹿児島県ですが、奄美大島では今年の夏、卵不足に陥ったのです。

鳥インフルエンザでも打撃をうけている養鶏業。奄美で起きた卵不足の背景を調べると、奄美だけにとどまらない課題が見えてきました。

(奄美支局記者 庭本小季)

卵不足は台風の影響と思いきや…

8月から奄美支局で働き始めた私がこの問題を知ったのは、ことし9月の台風14号のときのことでした。

船の欠航を知らせる名瀬港の掲示板

奄美大島では、高波の影響で鹿児島県本土から食材などを運ぶ船が欠航。奄美市中心部のスーパーでは、卵を購入できる数が制限されました。 

てっきり、台風の影響で卵が不足しているのかと思っていたのですが、台風が通り過ぎ県本土からの船が再開されても、品薄の状態が続いたのです。

グリーンストア末広店の屋山ひとみ店長は、ことしは深刻な卵不足だったと振り返ります。

奄美市のスーパーに貼られた卵不足のお知らせ

ことしは本当に品薄状態がひどくて、卵不足を知らせる紙を10月半ばくらいまで卵売り場に貼っていたと思います。

原因は意外なものだった

なぜ卵不足が続いたのか。奄美大島で60年続く養鶏場の南和利さんを訪ねて話を聞いてみました。

南さんの養鶏場は、奄美大島では最も多い2万2千羽を飼育していて、毎日1万3000個の卵を島内のスーパや商店、飲食店に販売しています。

南さんが話してくれた卵不足の原因は意外なものでした。

暑いとニワトリが水ばかり飲んでしまうので、餌から取る栄養が足りなくなってしまいます。ニワトリ自体も卵を生むより体力をつけるのが先になるので、どうしても卵の量が少なくなってしまうんです。

暑さの問題と追われる対策

実はニワトリは平均体温が41℃と非常に高い動物です。汗をかかないため、体温をコントロールするのに水をたくさん飲む必要があるのです。最適な気温はおよそ24℃で、それを超えると水ばかり飲むようになるといわれています。

ニワトリが水ばかり飲むと生む卵に問題が生じます。飲み水で満腹になり、食べる餌の量が減るため、カルシウムが不足します。そうなると卵の殻が薄く、すぐに割れてしまうようになるのです。

割れている卵とか傷みやすくなってしまった卵は、生まれたとしても流通に乗せられません。

奄美大島の平均気温の上昇傾向が続く中、南さんは暑さ対策に追われています。

屋根には熱を吸収しにくくする白い塗料を塗装。鶏舎の壁には換気扇を設置するなどして少しでも鶏舎内の温度を下げようとしています。しかし、卵不足は解消できていないといいます。

今だんだん断熱塗料とか送風機は増えてきました。昔はなかったので、そういうものを取り入れながら対応していますが、それでも暑さに追いついていないですね。

奄美名物も原因のひとつ

話を聞くと、さらにもうひとつの理由がありました。奄美大島名物の鶏飯です。白米の上に、鶏肉や錦糸卵などを乗せ、ニワトリでだしを取ったスープをかけて食べる名物料理です。

奄美大島の名物料理 鶏飯

南さんは卵だけでなく、この鶏飯のために食用としてもニワトリを出荷しています。

コロナ禍を経て、観光客は増えてきています。奄美市笠利町にある奄美リゾートばしゃ山村ホテルでは、この夏、多いときで2日に100羽ほど仕入れました。太平裕治調理長は観光客に奄美の味を堪能してもらうため、地元のニワトリにこだわっているといいます。

地元のニワトリを使うことが一番良いかなと思っています。苦労しているのは養鶏場ではないでしょうか。店としては、ちゃんと仕入れをしたい分を持ってきてくれるので助かっています。

丸鶏でだしを取る鶏飯のスープ

各家庭に届ける卵を生産しながら奄美大島のおもてなしも支えていく。温暖化が進む中、南さんはその両立に頭を悩ませています。 

自然と相談しながらちょうど良いところを探すしかないのが現状です。新型コロナの感染拡大が少し収まったことで、お客さんが戻ってきた。そこに猛暑と台風も重なったという感じでした。あとどういう手立てをすれば良いのかなと思ってしまいますよね。

問題は奄美大島にとどまらず

南さんの養鶏場は、外気が入ってくる「開放型」と呼ばれる鶏舎で、ある程度、鶏舎内の温度が気候に左右されます。これに対して、全面的に壁や窓で覆う「閉鎖型」の鶏舎にして温度管理を行う方法もあります。 

しかし3800㎡ほどの鶏舎を家族で運営する南さんにとっては、導入するのはコストの問題などから難しいのが実情です。

そして、この卵不足は奄美大島だけにとどまる問題ではなく、いま全国各地の養鶏業者が温暖化対策を迫られています。そのひとつが、ここ数年、40℃近い気温がしばしば観測されている東北地方です。 

たとえば、岩手県の大手鶏卵会社では、鶏舎の外壁に水をしみこませた板を取り付けています。しみこんだ水が気化することによって鶏舎内の気温を下げるというものです。

四角い部分に水を循環させている

もうひとつが霧を使った対策です。鶏舎の外壁に霧を噴射するパイプを取り付け、換気扇から風とともに霧を鶏舎内に送ることで温度を下げる仕組みです。 

白い部分から霧が噴射される

こうした工夫は10年ほど前からで、岩手県も平成20年から各農家に遮熱対策を行うよう呼びかけ始めたといいます。

専門家「温暖化でコスト増」

国内外の養鶏業界に詳しく、東京農業大学の教授も務めた信岡誠治さんは、養鶏業では、温暖化に伴って施設整備のコスト負担が重くのしかかるようになっていると指摘しています。

今はもう異常高温や異常気象が異常でなくなっているのだけども、そういうことが1990年代から頻発するようになり、それに耐えられるようにということで、ウインドレスが普及しました。窓なしの鶏舎で断熱材を入れて、空気をどんどん流して強制的に換気を取ると、水も15℃から16℃くらいの冷たい水を飲ませようという形で、皆さんいろんな工夫をやっています。

コストはたしかにかかります。一番最新の方は1羽あたり1万円くらいかけている。普通の開放型だと5000円くらいですからね。それくらいコストはかかります。

普通の開放型の鶏舎を建てるときの費用は、1羽あたりに換算すると5000円弱だということですが、暑さ対策を備えた最新鋭の鶏舎設備は、1羽あたり1万円ほどで2倍のコストになっているといいます。 

コスト削減で生産地にも変化が

温暖化対策の費用がかさむ中、少しでもコストを抑えようと卵の生産地の変化が起きていると信岡さんは指摘しています。輸送費がかからない「大都市近郊型」への変化です。

大量に消費される都市部近くでの生産を行おうと、例えば茨城県や愛知県などで生産量が増えているのだといいます。鹿児島県の卵の生産量は現在全国2位ですが、信岡さんは「今後、別の地域にシェアを奪われていく可能性もある」と話していました。

取材後記

奄美大島の食を支える養鶏場。昔は多く存在したとのことですが、県本土との価格競争や担い手不足などで、現在残っているのは南さんの養鶏場ともうひとつだけです。

食品の中でも特に鮮度が求められる卵。ほとんどの食品が船で輸送されてくる奄美大島にとって地元生産者は、食を安定させるためにも必要不可欠な存在と言えると思います。

地元の産業を守りながら、今後のさらなる温暖化も見据えて対策を考えていく必要があると感じました。

  • 庭本小季

    奄美支局記者

    庭本小季

    2020年入局 岐阜県出身 事件事故や防災などの担当を経て現在は奄美支局

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