“花形の6区” 悲願の初首席に挑む「同じお父さん」の7頭
- 2022年10月07日

和牛のオリンピック”とも呼ばれる5年1度の品評会、全国和牛能力共進会が開幕しました。
8つある審査区分のうち“花形”とも言われるのが6区の「総合評価群」です。
ただ鹿児島はこれまで首席を獲得したことがありません。悲願とされる「花形の6区」制覇に挑む出品者を取材しました。
(鹿児島局記者 小林育大)
“花形6区”の首席は鹿児島の悲願
和牛の品質を競う品評会、全国和牛能力共進会は“和牛のオリンピック”とも呼ばれます。
大きく分けると姿・形などを審査する「種牛」と、肉質を審査する「肉牛」の2つの部門に分かれ、その下に雄雌や月齢などの違いによって8つの区分が設けられています。

この8つの区分で唯一、姿・形と肉質の両方が審査され“花形”とも言われるのが6区の「総合評価群」です。20年前から始まった区分ですが、鹿児島はまだ一度も1位の首席を獲得したことがありません。鹿児島にとっては悲願とも言えるのが、この6区の制覇です。
同じ父をもつ7頭がセットで
6区に出場する牛たちにはある条件があります。同じ「種雄牛」つまり“同じお父さん牛”を持つ7頭の子どもたちが1組となって出品されなければならないのです。

その“お父さん牛”が「安亀忠(やすかめただ)」。9歳で体重はおよそ1トンあります。去年まで県内だけで2万7000を超える牛に種付けし、子牛は7000頭余りに上る、鹿児島を代表する「種雄牛」です。

その子どものうち7頭の“精鋭牛”が今大会に鹿児島代表として出品されます。
▽「種牛の部」は「すみれひめ」「いつみ92」「ひでこ」「かりなきよ」という4頭のメス
▽「肉牛の部」は「亀吉」「誠司37」「速子1154」で、こちら3頭は去勢肥育牛です。

「肉牛の部」お尻周りの肉づきに注目!
「肉牛の部」の「速子1154」は鹿屋市の肥育農家、新地正清さん(72)が去年6月に導入し、地元JAの技術員とともに2人3脚で育ててきました。新地さんは農家歴およそ50年のベテランで、初めて大会に出場します。

「速子1154」が鹿児島の代表に選ばれた大きな理由は、お尻周りの肉づきです。“お父さん牛”「安亀忠」譲りの丸みを帯びた張りのある筋肉で、ほかの牛と比べると筋肉の盛り上がりが違うのが分かります。


JA鹿児島きもつき肉牛課 今熊憲作課長
お尻の筋肉は種牛の血をよく引いていると思います。全体的にむだ油のない筋肉質な牛になっていて、新地さんの長年の経験と勘、日々の努力が実ったということだと思います。
新地さんの育てのポイントはエサの与え方にあります。その量は月齢に応じて目安となる量がありますが、新地さんは必ず牛の様子を見て、食欲がない時は無理に与えません。エサの量を足したり引いたりして調整し、過度なストレスをかけることなく安定した量を食べさせ、育ててきました。

6区の肉牛の部に出品 肝付町 新地正清さん
それはもう自分の子どものように大事に育てました。和牛オリンピックの代表に入れたというだけで、もう最高です。結果は何位であろうが、審査員が決めることですから。
「種牛の部」審査ポイントは4頭がそろっているか
「種牛の部」に出品されるメス4頭の審査では、それぞれの発育の良さに加えて重要な要素があります。それが牛の斉一性です。同じ遺伝子を受け継ぐだけに「4頭がいかに似通っているか」が問われるのです。

9月の末、4頭がそろって鹿屋市の家畜市場に集まり、指導が行われました。
▽横から見た時は体の長さや背中がまっすぐか。
▽前後からは体の幅などがきれいにそろっていなくてはなりません。
このため大切になるのは牛の姿勢です。頭の高さをそろえ、つま先までもきっちりそろう立ち方を徹底して覚え込ませました。

“父のために6区で首位をとりたい”
上別府将さん(44)は4頭のうちの2頭を出品し、みずからの種畜場では6区に挑む7頭すべての“お父さん牛”「安亀忠」を管理しています。今大会には特別な思いで臨むといいます。

その理由は、ともに「安亀忠」を育ててきた父親、和美さんの存在があります。和美さんは20年前の岐阜大会で、若雄の区で首席を獲得した有名な農家です。地元開催の今大会でも首席を目標にしていましたが、おととし事故に遭い今も入院生活が続いています。

“父と育てた安亀忠の娘たちで首席を取りたい”
上別府さんはこの思いを持って県の予選会に臨み、見事、大会への出場権をつかみ取りました。鹿児島にとって悲願とも言える6区の制覇に向けて、上別府さんの気持ちは高まっています。

上別府 将さん
父は誰よりもこの全共を楽しみにしていたので、やっぱり父のためにこの全共で戦いたいです。日本一を目指して取り組んできたので、首席を取って終わらせたいですね。