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鹿児島県の木材伐採現場に異変?死亡事故増の原因と対策は

  • 2022年08月29日

ことし8月、曽於市の小学校でイチョウの大木の枝が折れ、草刈りをしていた校長が下敷きになり死亡するという痛ましい事故がありましたが、実は鹿児島県内では、ことしに入ってから木材の伐採中の死亡事故も相次いでいます。その原因や対策を探りました。

(鹿児島局記者 熊谷直哉)

盛んになる林業、その一方で

豊かな森林に恵まれている鹿児島県では林業が盛んです。最近は中国などで需要が高まり、国内の木材価格も高騰。昨年度の県内での林業の求人数は、平成25年度以降で最も多くなりました。
その一方で増えているのが、伐採中の死亡事故です。

上半期の伐採中の死亡事故

4月には曽於市の国有林で、63歳の男性がおよそ20メートルの高さのスギの下敷きになって死亡しました。
こうした死亡事故は、ことし上半期に4件発生。そのうち3件は、自分の方向に木が倒れてきたことによるものでした。

実は、伐採中の死亡事故は統計などでまとめられていません。そこでNHKは、過去5年間に警察が発表した事故の件数を調べました。

R4は上半期まで

その結果、もっとも多かった年で少なくとも5件だったのに対し、ことしは上半期ですでに4件発生。最悪のペースで推移していることが分かりました。

死亡事故増加の原因は

なぜ事故が増えているのか。
林業の事故防止に取り組んでいる、林業・木材製造業労働災害防止協会鹿児島支部の寺田茂一保全部長は、チェーンソーの使い方に不慣れな人が増えていることが、理由の1つと考えられると話します。

寺田茂一保全部長

「チェンソーは誰でも使えるが危険な機械だというのを認識してもらいたい」

この団体では年に20回以上、チェーンソーの使い方に関する講習を開いています。寺田さんには、気がかりなことがあるといいます。

法律では、会社や組合がこの講習を従業員に受講させることを義務づけている一方、個人事業主は対象になっていません。そして、ことし発生した4件の死亡事故のうち3件が、個人事業主だったのです。

寺田茂一保全部長

「3日間という日にちと、受講料が2万円ちょっとかかりますので、ためらう方がいらっしゃいます。こちらとしては、特別教育を受けていただくのが一番だと思います」

また、自分の方向に木が倒れてくる事故を防ぐための対策も必要だと指摘します。

寺田茂一保全部長

自分で切った木が自分に来るというのを『自己伐倒』といって圧倒的に多く、9割ぐらいなんです。切る方、それを切った後の整理をする方、そして丸太を出す方など役割があるので、3人から4人はいた方がいいと思います

“自己伐倒”どう防ぐ

この自己伐倒を防ぐために必要な集団での安全対策はどのようなものなのか。曽於市の森林組合が行っている伐採現場を訪れました。
まず、作業が始まる前に毎日行うのが、その日の作業で危険になる可能性がある点についての話し合いです。

「KY(危険要因)は何がありますか」

「待避場所を事前に確認して、伐倒木が倒れ始めたらすぐに待避を行います」

現場に出ると、管理者が作業をしている人に注意を呼びかけ、まわりにいる人たちも、木からの距離を高さの2倍以上に保ちます。そして、「作業開始前、倒れる前、倒れた後」の3回、笛を鳴らします。仮に想定外の方向へ木が倒れても対応できるようにするためです。

曽於市森林組合 瀬戸口大亮さん

「必ず安全な作業を行うということで現場に入る前から周知徹底して、事故が起こらないようにしています」

林業が盛んになる一方で、危険と隣り合わせの伐採現場。事故の防止に取り組む団体は、県や森林組合と連携して呼びかけを続けることにしています。

寺田茂一保全部長

「ひとつずつひとつずつやっていくということですね。安全作業に近道はありませんので、ひとつひとつやるしかないです。丁寧にやっていけば事故は起こらなくなると思います」

取材後記

個人事業主にチェーンソーの使い方についての講習の受講が義務づけられていないという状況には、制度の不備もあるのではないかと感じます。
林業に新たに携わろうという方は、チェーンソーの使い方と集団での安全対策という2点を、ぜひ心に留めていただければと思います。

  • 熊谷直哉

    NHK鹿児島放送局 記者

    熊谷直哉

    2020年入局 京都府出身 事件事故や経済を担当 営業部門を経て2月から記者に

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