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鹿児島 地方紙が挑むジェンダー問題 格差解消を目指して

  • 2022年07月30日

社会における男女の格差、いわゆる“ジェンダーギャップ”。県内では地域や職場など、さまざまな場面で性別による不平等感が強いことが県民を対象とした意識調査などからもうかがえます。こうした問題に今、積極的に取り組もうとしているのが地方紙の南日本新聞社です。“男尊女卑”とも言われる現状にどのように向き合い、どう発信を続けていくのか。現場の記者たちの思いを取材しました。

(鹿児島局記者 堀川雄太郎)

”見出し”に潜むジェンダー

南日本新聞社 赤間早也香さん

鹿児島市の南日本新聞社の編集局に所属する記者は、およそ130人。その3人に1人は女性です。16年前に入社した赤間早也香さんは、ことし4月からデジタル編集部に所属し、記事をインターネットで発信する際の見出しなどを担当しています。

何気ない見出しでも、赤間さんは、ジェンダーを巡り、女性の自分でもハッとさせられることがあると言います。例えば県の剣道連盟が大会の会場に保育室を設置したという記事に、赤間さんは最初、「ママ剣士 保育ルームあれば全集中」という見出しをつけました。

ところが上司に相談したところ、「子育てをするのはママだけではなくてパパもなのだから、あえてママということばを見出しに付ける必要があるだろうか」と指摘され、「子育て剣士」と見出しを変えたと言います。

取材班結成のきっかけは“モヤモヤ”

運動部や県政、原発など、記者としてさまざまな取材にあたってきた赤間さんがジェンダーの問題に関心を持ち始めたきっかけは、30歳くらいのころ。周りの女性が、出産や育児で、仕事を続けられなくなる現状を目の当たりにしたことでした。

南日本新聞社 赤間早也香さん

「主体的に望んで選択するのは全然いいのですが、そうではなくて続けられない。どうしても思い切りできないということで、そこに苦しんでいたり、両立でとても大変な思いをしていたりする人がすごく多くて、何だかなというモヤモヤを感じるようになりました」

モヤモヤする中で同僚の記者たちと取材班を立ち上げた赤間さんが2年前から取り組んでいるのが、3月8日の国際女性デーに合わせた連載です。

政治や教育、防災など、さまざまな分野で男女の格差について取材を重ねてきました。
去年の連載では、当時の県内のすべての女性議員74人にアンケートを実施。
全員から回答が寄せられ、有権者や同僚議員から受けた性的嫌がらせなどの現状を伝えました。

赤間早也香さん
「ちょっと触らせてくれたら票なんか入るよとか、信じられないことばを言われていました」

校則に潜むジェンダー

さらに中学校の校則での男女の違いについて取り上げた記事では、校則でポニーテールが禁止されているのはなぜか教員に尋ねたところ、「男子がうなじに興奮するから」という答えが返ってきたと言います。見直しを求めても「ここは鹿児島だから」と実現しなかった現状を記事にすると、大きな反響が寄せられ、取材先からは、のちに校則が変わったという声も届きました。

赤間早也香さん

「校則1つとってもジェンダーの問題が根っこにあるのではないかという視点で問題提起しています。鹿児島の女性がすごく働きづらかったり、苦しんだりしている状況があるならば、それはちゃんと報道で問題提起して書いていかないと何も変わらないと思います」

変わり始めた新聞業界

取材班が立ち上がり、広くジェンダー問題を伝えはじめたころ、耳の痛い指摘もありました。ある記者が知事へ取材した際、「県の女性職員が少ないと記事で指摘しているけど、県庁担当に女性記者が1人もいない」と言われたのです。赤間さんが、入社した当時、7人いた同期の中で、女性は1人だけ。今も編集局の管理職42人のうち女性は9人だけで、役員はゼロです。女性記者の数は増えてきていますが、悩みを聞くこともあると言います。
 

赤間早也香さん

「取材相手は中高年の男性の方がやっぱり多いですよね。そういう中で、『女だから取材相手にかわいがられていいよね』と言われたことがある同僚がいました。決して女だからとかそういうことではないのにと感じました」

社内も変わっていく必要があるのではないかという声に、取締役も務める編集局長は次のように話しています。

國弘崇 編集局長

「ジェンダー問題というのはなかなか男性の視点では気づきにくい点が多く、今までなかなか女性の側から声をあげられなかった雰囲気があるとすれば、私たちの努力不足もあったと思います。旧態依然とした形ではいけないだろうし、鹿児島の男女平等の意識が低いのであればそこには何らかの警鐘も鳴らしていく必要があると感じます」

いわば“男社会”とも言われてきた新聞業界ですが、会社の枠を超えてジェンダー問題に取り組もうという動きが広がっています。赤間さんたちは、ことしから共同通信社やほかの地方紙との勉強会にも参加しています。

取材した日は、およそ30社から70人ほどがオンラインで出席し、群馬県の新聞社が取り組む国際女性デーに合わせた広告企画の取り組みなどが紹介されました。記者だけでなく広告営業部の社員にも声をかけ、参加してもらいました。

報道を続け意識を変えていく

ジェンダーは人権の問題だと話す赤間さんは、取材班の仲間を広げながら鹿児島の地方紙として発信を続け、社を超えて意識を変えていきたいと話します。

赤間早也香さん

「誰もが生きやすい社会にしていくにはいろんなアプローチから働きかけていくことが大切ですし、地道に訴えていくことでたくさんの人の意識が変わっていけばうれしいなと思います」

取材後記:NHKはどうなのか?

本来は同業他社として、取材のネタを競い合う、いわばライバル関係にある南日本新聞社。ことし4月、7年ぶりに事件担当に女性記者が配置されたと耳にしました。国際女性デーの連載の印象も強く、男尊女卑が根深いとも言われる鹿児島で、いったいなぜ地方紙がジェンダー問題に積極的に取り組んでいるのか関心をもち、取材を申し込みました。取材を快諾してくれたところにも、社としての取り組みの本気度がうかがえました。

では私たちNHK鹿児島放送局はどうなのでしょうか。現場で取材する記者は、筆者を含めて12人。このうちの4人、3人に1人は女性です。一方、記者の書いた原稿をチェックしたり、取材を監修したりするニュースデスク、管理職は3人いますが、いずれも男性です。さらに放送を束ねるコンテンツセンター長や鹿児島放送局の局長も男性です。どのニュースをどのくらいのボリュームで報じるかなど、最終的な意志決定を行うのはこうした管理職の人たちです。

リポートの中で赤間さんも話していましたが、30代というのがある意味、壁になっていて、出産などで女性はキャリアを積みにくい現状があると思います。仕事を続けたいのに続けられないことがないように私たちも意識や環境を変えていく必要があると取材を通して痛感しました。

今月、発表された世界各国の男女の平等についての調査では、日本は146か国中116位。依然、大きな格差があるとされるなか、鹿児島は、政治や行政、教育など、さまざまな面で男女の格差が大きいとされています。だからこそ県民の多くが目にする南日本新聞でジェンダー問題を報じ続けることは意義があると思いますし、もちろん私たちも向き合っていきたいと思います。

  • 堀川雄太郎

    NHK鹿児島放送局

    堀川雄太郎

    2014年入局 山形局や薩摩川内支局を経て調査報道班のキャップ 種子島のロケットや原発など科学文化も担当

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