ページの本文へ

かごしまWEB特集

  1. NHK鹿児島
  2. かごしまWEB特集
  3. 参議院選挙にバス投票所!? 鹿児島日置市が導入 背景は

参議院選挙にバス投票所!? 鹿児島日置市が導入 背景は

  • 2022年07月11日

バスに乗り込むと、座席の間に記載台と投票箱が。日置市が、今回の参議院選挙から導入した移動投票所です。なぜ投票所が移動しなくてはならなくなったのか?その背景を取材しました。

(鹿児島局記者 庭本小季)

投票所バスがやってきた

投票日までの3日間、日置市の郊外を走り回っている2台のバス。乗った人に渡されるのは乗車券ではなく投票用紙です。座席の間には記載台や投票箱が設けられ、期日前投票を行うことができます。

実際に投票をした人の感想はというと・・・。

「バスの中で投票するのは初めて、期日前も初めてでした」

「特に抵抗はありませんでした」

消えた投票所がバスに変身?

なぜバスを使った移動式の投票所が必要になったのか?。日置市の選挙管理委員会に話を聞きに行きました。すると投票所の大幅な削減計画と関係があることがわかりました。 

これまでの投票所

日置市では、これまで市内に38の投票所がありました。

今回の参議院選挙の投票所

しかし、今回の参議院選挙からは8か所に集約するというのです。投票所の集約は全国でも進んでいますが、一気に半分どころか5分の1近く減らすのはかなり思い切ったケースだと専門家が驚くほどです。
そして投票所が無くなった地域に、いわばその代わりとして期日前投票ができる「移動式投票所」のバスを走らせることにしたのです。
 

(日置市選挙管理委員会 
    瀬戸口亮さん)

「投票所を再編するにあたって、投票所がなくなる地域の方々が、投票しやすくなる環境を整備することが必要だと考えました。バスでこれまで投票所があった30か所を回ることができます。1か所に滞在できる時間は1~2時間と限られますが、投票していただけるようにしていきたい」

なぜ投票所を減らすことに?

でも、そもそもなぜ日置市は投票所を減らしたのでしょうか?。理由としてあげられたのは、まず最近の選挙では、期日前投票をする人の割合が、半数近くに上っていることです。
そして、これだけ期日前投票が増えてきたのなら、投票日当日に設ける投票所の数を減らして、コスト削減をはかったほうが良いのではと考えたということです。 投票所を設けると人件費などで、1か所で最低20万円ほどの経費がかかります。
ところが投票所ごとの有権者の数は、都市部への人口集中などもあって、40倍近くの格差が生まれています。人口が少ない地区の投票所を閉じることで、日置市では単純計算で540万円の節約となり、さらにバスなどの経費を差し引いても、240万円の税金が抑えられると見込んでいます。
 

(日置市選挙管理委員会 
 瀬戸口亮さん)

「投票所の有権者が100人位のところから、4000人に近いところまで、数の差がありました。投票所の維持というのは一定の経費がかかりますのでそこら辺を考えてやはり集約を実施していくべきではないかと考えました」

投票所が消えた地区の住民の思いは 

一方、住民はどう考えているのか?。今回の参議院選挙から、投票所が無くなった平鹿倉地区を訪ねました。
日置市では最も少ない80人の有権者が暮らしている平鹿倉地区ですが、これまでは地区の公民館で投票ができました。それが今回からは、一番近くの投票所は10キロも離れたところになってしまい、お年寄りが多い住民は、車を使わなければ行くのが困難になってしまいました。

不満の声もあるのではと、これまで公民館長として投票所の設営に関わってきた馬篭敦男さんに話しを聞くと、意外と冷静な受け止めが多かったということです。

(馬篭敦男さん)

「おそらく投票率は落ちるだろうなと言ってますよね。ただ、地元で投票所をやってもらわないといけないという意見は、時の流れというかあまり出てなかったですね」

果たして住民は来るのか?

そして迎えた期日前投票の日。平鹿倉地区に移動式投票所のバスがやってきました。投票ができるのは、午後3時から4時までの1時間だけ、その後は次の投票所に移動しなくてはなりません。それでも予告していた時間にあわせて、住民が続々と集まってきました。馬篭さんもほっとした様子をみせました。

(馬篭敦男さん)

「人が集まってくれるかと心配していたけどまあなんとかね、ハハハ。慣れたら定着するんじゃないかと思いますね。町までいかなくても、ここで投票できるから、その点は助かっていると思います」

 バスだけでは不十分

今回の参議院選挙で日置市で期日前投票した人の割合は29.2%。前回を9.85ポイントも上回りました。さらに懸念された投票当日の対策として、日置市では、投票所に行きたい市内の全有権者が使える無料の乗り合いタクシー券や、コミュニティバスの乗車券を配布するなど投票の権利を守るために対策を進めました。

(日置市選挙管理委員会 
 瀬戸口亮さん)

「やはり投票機会を奪うことについては、非常に私どもも苦慮した点です。できるだけ支援を行って投票をできるような環境を一方で整えています。今までよりご不便になるということは確かだと思いますが、タクシー券といった支援もご利用いただいて、ぜひ投票に行っていただきたいと考えています」

そうした対策も成果を得たのか、投票当日も含む最終的な投票率は50.91%。前回を1.45ポイント上回りました。
 

投票の機会をどう守る?

人口が減少する中で進む投票所の削減と、移動式の投票所の導入。一方で、専門家は、今回の日置市の取り組みについて、有権者が投票する機会を制限することにならないか、慎重に見極める必要性があると指摘します。
 

(埼玉大学 松本正生名誉教授

「巡回投票所というのは、ある特定の日の特定の時間帯に立ち寄るだけなので、これは投票の機会がかなり制限されることになる。当日の投票所が無くなっているなかで、どういう対応をするのかが問われていて、それに対して市民がどう対応するかというテストケースみたいなものではないか」

取材を終えて

バスを使った移動式の投票所を運用しているのは、鹿児島県内では日置市が初めてではありません。阿久根市や薩摩川内市、南九州市、伊佐市、南さつま市、とあわせて6つの市に広がっています。また投票所の削減・集約も進んでいます。今回の参院選では全国で1000か所以上の投票所が無くなったのですが、減少率で見ると鹿児島は6.53%で、全国でも5番目の高さです。 

こうして見ますと、投票所の削減と、移動式投票所の導入という流れは、過疎化が進む地域を中心に避けられない流れなのかもしれません。ただ「投票する機会」という民主主義の根幹が、コスト削減を理由に脅かされては本末転倒になってしまいます。どの自治体も人手不足が問題になるなかで、投票所の運営をどう効率的に行うか、模索しているところだと思います。今回の参議院選挙で、日置市では、投票率が上昇しましたが、今後どう影響していくのか、注目していきたいと思います。
 

  • 庭本小季

    NHK鹿児島放送局 記者

    庭本小季

    2020年入局 岐阜県出身 事件事故や防災、調査報道などを担当

ページトップに戻る