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鹿児島のブランド「知覧茶」統一への知られざる経緯を追う!

  • 2022年07月04日

今回は鹿児島の名産品である知覧茶についての調査依頼が寄せられました。

「えい茶」や「川辺茶」が名称統一の元に「知覧茶」になりましたが、消費者の立場からもうひとつ納得がいかないのです。どういう経緯を辿ったのでしょうか?

というお尋ねです。

知覧茶は、かつて「えい茶」「川辺茶」「知覧茶」と旧町ごとに銘柄が分かれていましたが、5年前の2017年に知覧茶に統一されています。統一された経緯を取材すると、そこにはお茶の生産者が「地元のプライド」と「茶業の将来」との間で揺れ動く葛藤がみえてきました。

(鹿児島局記者 熊谷直哉)

築き上げた銘柄へのプライド

まず話を聞きに向かったのは、地元で生き字引として知られる後藤正義さんです。50年以上前から知覧茶を生産し南九州市の茶業組合の会長も務めました。

もともと反対の急先鋒だったという後藤さん。「何十回銘柄統一の会議をしたか。年数もかけ、回数もかけやりました」と話して、道のりは非常に困難だったと明かしました。

ブランド統一の議論が始まったきっかけは、今から15年前の平成19年にさかのぼります。いわゆる「平成の大合併」で、頴娃町・川辺町・知覧町が合併して南九州市が誕生し、市町村別の茶の生産量で、静岡県の牧之原市を抜いて1位となったのです。

ただ、3つの銘柄は長年、ライバル関係にありました。

後藤正義さん
「行政の方からも、つどつど、会あるごとに相談が来ました。なんとかひとつの銘柄にしてもらえないかと。しかし、知覧茶は俺らが長年努力して築いた銘柄なんだ。なんで市町村合併がされたからといって、知覧茶にするのか、とてもありえない」

当時、知覧茶は全国で知名度を高めつつありました。昭和37年から全国の品評会への出品を始め、合併までに14回産地賞を受賞。

一方、えい茶も知名度は劣るものの、県内で最も多い生産量を誇っていました。

お互いに、築き上げた銘柄を捨てることには抵抗があったのです。

川辺茶・えい茶 それぞれの事情

ライバルだった3つの銘柄がどのようにして統一に向かったのか。当時の経緯を取材に同席した南九州市茶業課の瀬川芳幸課長が教えてくれました。

まず川辺茶については、「川辺の方は合併したら知覧茶になるものだという認識でいましたね」と振り返り、当初から前向きな姿勢だったと説明しました。

そして、えい茶も方針を転換する出来事が起きたといいます。合併から2年後の平成21年。茶の取引価格が急激に低下したのです。過剰な生産が一因でした。

南九州市茶業課 瀬川芳幸課長
「プライドを捨てて、知覧茶になるべきか。そのままえい茶でいくのか。随分頴娃の方々も議論されました。安くなった時、より販売するためにはどうすればいいかを考えるわけですね。そうすると、一番知名度のある知覧茶で売った方が高く売れるのではないかとそう思われたわけですね」

最後まで反対した知覧茶

一方、最後まで反対したのが知覧茶でした。アンケートには、ほとんどの生産者が「反対」と答えたといいます。

その背景には、知覧茶がブランドを築くためにかけてきた苦労がありました。機械でなく人力で茶葉を収穫する「手摘み」。“葉切れ”を防ぎ、古い葉が混ざりにくいという利点がある一方、膨大な人件費がかかります。この赤字覚悟の生産方法で、名声を獲得してきたのです。

ところが、平成20年代半ばにかけて、茶の国内市場は頭打ちとなり、国際化が求められるようになりました。

瀬川さんは、南九州市として海外の市場で勝ち抜くためには、ブランドを統一すべきだと説得したといいます。

南九州市茶業課 瀬川芳幸課長
「海外を見据えるとロット(単位)が大きくないと注文に応じられないというところもあり、旧知覧茶だけだとない場合があります。ひとつにしてもらわないと行政としても、どのブランドに力を入れていいか分からない。ひとつにしてもらうと、そのひとつで色んな施策ができるんです」

南九州市にも訪れた国際化の波。知覧茶を世界にもはばたかせようと、後藤さんも、賛成に転じました。

後藤正義さん
「将来のことを考えると、銘柄をひとつにして一丸となって、南九州市なんだからお茶も知覧茶ですと。その方が将来に向けても展望が開けるのではないかという決断ですね。一緒にやる、一丸になる力というのは、数字じゃ表せない力があると私は思う」

日本文化「茶」はどうなる

「輸出」を視野にいれて、ブランド統一に踏み切った知覧茶。現状はどうなっているのでしょうか?

海外での抹茶ブームもあり、鹿児島県の茶輸出額は年々増加しています。将来を見据えて輸出に取り組んだ南九州市と知覧茶は、まずは順調なスタートを切ったといえるかもしれません。

また新たな取り組みも始めています。知覧茶の一番茶を使用した芋焼酎「知覧Tea酎」を地元の蔵元が開発しました。この焼酎は、海外でもとても評価されていて昨年9月にパリで開かれた日本の酒などを審査するコンクールで最優秀賞を受賞しています。

このように茶だけで販売するのではなく、異業種と組み合わせることで、輸出をさらに進めたいと考えているということです。

私の祖父母の家も製茶問屋を営んでいて、茶に対する国際化の波は自分ごとのように感じています。日本の文化である「茶」がこれからどのようにして生き残っていくのか。これからも取材を続けたいと思います。

  • 熊谷直哉

    NHK鹿児島放送局 記者

    熊谷直哉

    2020年入局 京都府出身 事件事故や経済を担当 営業部門を経て2月から記者に

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