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「カツベン!」の周防正行監督も関わった大崎事件第4次再審請求

  • 2022年06月15日

43年前に鹿児島県で起きたいわゆる「大崎事件」の再審=裁判のやり直しを求める4度目の申し立てで、鹿児島地方裁判所が6月22日に再審を認めるかどうかについての決定を出すことになりました。

この4度目の再審請求では、意外な人物が大きな役割を担っています。「カツベン!」や「Shall we ダンス?」などのヒット作で知られる映画監督の周防正行さんです。大崎事件をひと事として捉えるべきではないと話す周防監督に、その理由を聞きました。

(鹿児島局記者 庭本小季)

映画を通じて抱いた刑事裁判への疑問

東京・千代田区にあるNHKの放送会館まで足を運んでいただいた周防監督。大崎事件に関わるようになったきっかけは、過去に作ったある映画だと話しました。

2007年に公開した「それでもボクはやってない」です。電車で痴漢をしたとして逮捕され、何もしていないと主張し続けた主人公が、明らかな証拠がないまま有罪を言い渡される内容です。

この映画の制作にあたって当事者や弁護士に話を聞く中で、刑事裁判で証拠の中心となる調書が作られる過程に、大きな問題があると感じるようになったといいます。

周防正行 監督
「調書が取り調べでの作文であるということを僕は知らなかったわけですね。「私は」という1人称で書かれているのですが、書いているのは取調官なわけですよ。要するに自白調書を作文されてしまうんですね」

映画監督の枠を超えて

この映画がきっかけで周防監督は、刑事司法制度のあり方を議論する法務省が設置している法制審議会の特別部会のメンバーに選ばれました。

その中でも周防監督が参加したのは取り調べの録音・録画などを導入する法案の最終案をまとめた特別部会です。最終案がきっかけで取り調べの可視化が進むことなり、周防監督も積極的に刑事裁判への意見を発信するようになりました。

法制審議会の特別部会に参加する周防監督

そして、大崎事件に関わるようになったのもこのころでした。

43年前に鹿児島県大崎町で起きた「大崎事件」では、義理の弟を殺害した罪で懲役10年の刑が確定した原口アヤ子さん(95)が無実を訴え、服役後、裁判のやり直しを求め続けています。

原口アヤ子さん

弁護団から事件の概要を聞いたとき、以前から解決に取り組んできた密室の取り調べがもたらす問題をはらんでいると感じたといいます。

周防正行 監督
「取調室というものを可視化しなければと。まず調書がどう取られているのかということが分からなかったら、その調書に任意性があるか、信用性があるかということが、どうやって分かるのか。僕が法制審議会で疑問に思っていたこと、まさにその弊害が凝縮されているようなのが大崎事件だったということで、それから大崎事件に関わって直接的に弁護士を支援するような形で関わり続けています」

周防監督が加わり新たな展開

周防監督が加わることで、4度目の再審請求は新たな展開を見せることになりました。

被害者は首を絞められたのではなく、自転車の事故が原因で死亡したと主張してきた弁護団。周防監督はその場面を再現する映像の撮影を指揮しました。

書面で提示されてきた証拠を映像化することで、裁判所により強く訴えようとしたのです。

周防正行 監督
「字面だけではなくて、リアルなアクションとして、やはり物を見ないと正しく理解できないんじゃないかと思いました。それはどういうことだったのかを調べるためには、いろんな供述に当たって、いろんな証拠に当たって確認していかないといけないわけですよね。そうやって初めて立体的になっていく。調書に書かれたことが有罪、無罪の決め手になっているけれど、実際に法廷でその人の言葉を聞いたときにどういう風に思うのかということをもっと大切にしないといけない」

弁護団はこの映像も裁判所が証拠として採用したと説明した上で、画期的なことだと手応えを語りました。

大崎事件弁護団 鴨志田祐美事務局長
「いただいた主張と証拠でもってわれわれは判断に向かいますということをはっきり裁判体が明言しましたので、あとは判断を待つというかたちです」

鴨志田祐美弁護士

浮き彫りになる再審制度の課題

ただ周防監督は、大崎事件では新たな刑事裁判の問題が浮き彫りになってきていると話します。原口アヤ子さんは、これまでに3度、再審開始決定が出ているのにも関わらず、検察の度重なる不服申し立てによって、裁判のやり直しが一度も実現していないのです。

冤罪を訴える人の前に立ちはだかるあまりにも高い壁。周防監督は、再審の制度そのものを見直していくことが求められると思いを強めています。

周防正行 監督
「よく法的安定性と言って、そうそう簡単に一度下した判決を覆せないというのですが、一番大事なのは、被告が正しく裁かれたのかどうか。再審は無辜の救済のためにあります。裁く方にだって間違いがあるかもしれない、だからそういう人を救済しましょうという制度が再審なんです。そこで重要なのは速やかに救わなきゃいけないということです。しかし再審についての法律は戦後何も変わっていないです。システムの改善の余地は果てしなくあると思います」

  • 庭本小季

    NHK鹿児島放送局 記者

    庭本小季

    2020年入局 岐阜県出身 事件事故や防災、調査報道などを担当

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