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飼料高騰で苦境 鹿児島の畜産 脱輸入依存の動きコメにも波及

  • 2022年07月06日

ウクライナ情勢などの影響で、畜産業界が厳しい状況に追い込まれています。輸入されるえさの原料価格が高騰し、経営に影響が出ているのです。畜産農家の現状や、輸入依存からの脱却を目指す動きを取材しました。

(鹿児島局記者 古河美香)

牛肉の ”旨さ” を決める配合飼料

指宿市の上久保操さんは、5000頭あまりの牛を飼育する県内有数の規模の肥育農家です。

指宿市の肥育農家 上久保操さん

「和牛のおいしさを引き出すのは、やっぱり配合飼料です。だから、価格が上がっているからといって、減らすわけには絶対にいきません」

ほぼ輸入 飼料価格高騰で経営厳しく

とうもろこしなどを混ぜ合わせた「配合飼料」。原料のほとんどが輸入されています。上久保さんの農場で使っている配合飼料も、原料のほとんどがアメリカ産です。また、牛の胃袋を大きくするために与える稲わらは、すべて中国産です。

上久保さんは子牛をおよそ20か月育て上げて出荷しています。その間、1頭あたり平均で5.5トンの配合飼料や1トンの稲わらが必要です。

しかし、おととし秋以降、南米での干ばつなどの影響で、配合飼料の価格が高騰しています。

ことし5月に上久保さんの農場でかかった飼料代は、高騰前のおととしの秋と比べて、およそ2000万円増えました。配合飼料が1500万円、稲わらが500万円とそれぞれ増えたのです。

さらに飼料の原料となるトウモロコシの輸出国でもあるウクライナ情勢の影響も広がるおそれがあり、先行きに不安を感じています。

上久保操さん

「飼料高騰が影響しすぎてます。もう大変です。今までどおり牛を育てていきたいけど、飼料がいつごろどうなるかわかりません。

借金が増えないように努力しているんですけど、あんまりもうけがないですね。できるだけ生き残りをかけてがんばりたいと思います」

輸入依存から脱却へ 国産原料に着目

輸入される飼料の原料価格が高騰する中、畜産会社などを率いるグループ会社「カミチクホールディングス」は、いち早く国産のえさづくりに取り組んできました。

上村昌志社長は、えさを輸入に頼っているばかりではいずれ限界がくると、早くから国産の原料に着目していました。

カミチクホールディングス 上村昌志社長

13年前に南さつま市に建てたえさの製造工場は、えさづくりの拠点です。今では、熊本県阿蘇地方の野草や県内の南薩地区の工場で出てきたでん粉かすなど、九州各地からさまざまな原料を取り寄せています。

ウィスキーの絞りかすまで?!珍しい原料がずらり

配合しているえさの原料のリストを見せてもらうと、焼酎やウイスキーの搾りかす、しょうゆや豆腐を作ったときに出てくる食品副産物なども有効活用されてきました。

どれも家畜の飼料としては珍しい原料ばかりです。これらを混ぜ合わせて「発酵飼料」と呼ばれるえさを作ります。

しかし、国内で入手できるさまざまな種類の原料を混ぜ合わせて、安定した品質のえさを作るのは簡単ではありません。

そこで必要となるのが緻密な計算です。原料をひとつひとつ分析して成分値を出します。そして、肉質への影響を研究し、原料の組み合わせを考えながら、栄養価の高いえさを作っていきます。

“バカじゃないか”と言われたことも

この製造工場では、多い時で1日に100トンもの飼料を作っていますが、今ではその6割近くを国産の原料が占めるまでになりました。

上村社長が、国産の原料を使ってえさを作り始めたころは、バカみたいなことだと言われたこともあったと言います。しかし、今、上村社長は時代が追いついてきたと感じています。

カミチクホールディングス 上村昌志社長 

『お前バカじゃないか。電話1本、商社や飼料メーカーに連絡すれば海外からの飼料が安く手に入るじゃないか』とみんなからずっと言われましたが、ここに来て、皆さん気付いたと思います」

コメが牛のえさに・・生産者の葛藤

そしていま、家畜の飼料として注目されているのが、なんとお米です。

日置市の農業法人の代表でコメを生産する濵村義美さんは、ことしから、管理する田んぼの7割を使って、牛のためのえさを作ることにしました。コメの生産者としては、悩んだ末の決断だったと言います。

コメ生産者 濵村義美さん

「食用米として作りたい思いもあったんですけど、今の情勢じゃ、コメの価格が下落し、乾燥させるために使う燃料が高騰し、人件費も高騰しています。

いろんなものが高騰していて、ちょっとコメの価格と合わない。だから、牛のえさのほうに切り替えました」

きっかけは、上村社長の会社からの働きかけでした。会社側が提案したのは、収穫量や品質にかかわらず、その田んぼで作られたコメやわらを一定の価格ですべて買い取るという契約です。

コメの価格が下がり、耕作放棄地が増える中、濵村さんは経営の安定化につながると判断したのです。

狙いは耕作放棄の田んぼ

 一方、会社側は、牛の飼料の原料をより安定的に確保するために、契約する田んぼの面積をさらに広げたいと考えています。
日置市の2つの農業法人の関係者4人と、上村社長を含めた会社側との打ち合わせでは、こんなやりとりがありました。

「南薩地区や日置市吹上町では耕作放棄地がまだまだ出てきそうですか?」

「広いところはなかなか空かないですけど、山沿いとか、そういうところは出てくるんですよね」

「まだまだ拡大していきたいんですよ。すっごい広げても全然問題がないんです」

「周りの農家の人たちにちょっと話をすれば興味を持ってくれます。燃料代が高騰しているので、聞かせてくれと。だけど初めてのことなので・・・」

コメ農家にとっては抵抗感もある話ですが、上村社長は日本の畜産業界が、世界情勢の荒波を乗り越えていくためにも、思い切った飼料の国産化にかじを切ることは避けられないと考えています。

カミチクホールディングス 上村昌志社長

「海外に左右されずに自分たちで、地域と一緒に原料を調達する仕組みを作っていくことによって、えさの価格は高くはならず、ある程度安定すると思います。

やっぱり長期的に考えるべき時期にきていると思います。これからの社会は農業とか畜産が日本をすごく引っ張っていきますよ。私はそういう自覚でやっています」

取材を終えて

配合飼料の原料となる穀物がこれほど輸入に頼っているとは知りませんでした。
肥育農家が牛を育て上げるのにかかる費用の半分以上が飼料代だそうです。40年以上、牛を育てている上久保さんは「こんなに高いのは初めてではないか」と話していました。その上、購入する子牛の価格も高止まりし、新型コロナの影響で出荷しても以前ほど高く売れず、上久保さんは「自分たちの努力だけではどうすることもできない」と嘆いていました。

一方で、国産のえさづくりの拡大を狙う上村社長は。原料を海外に依存しない仕組みを確立し、ウイスキーや焼酎の絞りかすをもえさにしていました。地域とのつながりを深め、その資源を生かそうという攻めの姿勢が印象的でした。

そしてことしから、和牛のえさとなるコメづくりを始める生産者の濵村さんの表情は少しさみしそうにも見えましたが、生産者が置かれた現状を受け入れ、飼料用への転換で新たな気持ちで励もうという思いも感じられました。
鹿児島が誇る和牛の、文字どおり「肉」となるえさをめぐる動き、もう少し追いかけたいと思います。
 

  • 古河 美香

    古河 美香

    長崎局を経て鹿児島局勤務 県政担当などを経て、現在は教育や経済を担当   2児の母親

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