桜島で大規模噴火 そのとき市街地では何が?
- 2022年08月01日
7月24日に噴火警戒レベルがレベル5に引き上げられた桜島。このときは島内の一部の地域での避難となりましたが、気になるのは大規模噴火が起きた場合です。鹿児島市の市街地では何が起きるのか。地域の人たちと研究者が一体となって備えようという取り組みが進められています。
(鹿児島局記者 庭本小季)
どう身を守るか? 市街地の模索
桜島から海をはさみ、最短で数キロの場所にある鹿児島市の市街地。市は3年前、大規模噴火の発生で1メートルを超える降灰のおそれがあると示しました。
およそ1万6000人が暮らす八幡地区では、どう身を守るか模索を続けています。
「すぐ行動が出来るかということが今後の課題なんでしょうね」と話す町内会長の和田一雄さん。どう避難すべきか具体的にイメージできず、頭を悩ませているといいます。
鹿児島市外に逃げる?どうやって?
市は被害想定とあわせて「広域避難計画」を発表しています。大規模噴火が迫った際は、鹿児島市から出て決められた場所へ移動するよう定めたもので、計画の中では市内は6つの地域に分けられています。
和田さんたちは、南さつま市が避難先として示されました。
ところが、避難のタイミングやその際の交通手段の詳細は決められていないのです。
八幡地区コミュニティ協議会 和田一雄会長
「いざ避難だというときに、どういう風な手段で逃げて行くのか何も具体的になっておりませんので、みんな不安なんだろうなと。大混乱が起こるのだろうなと思いますね」
専門家に助けを求めたところ・・
市の被害想定でも詳細が分からなかった降灰の実態。和田さんたちは専門家を招いて、ことし1月に勉強会を開きました。招かれたのは当時、鹿児島大学の特任研究員だった中谷剛さんです。
中谷さんが開発しているのは降灰のリアルタイム予測などを行うシステムです。
風向きのデータを元に、大規模噴火が起きたとき、特定の地域でどれだけの時間をかけて灰が降り積もるか計算します。和田さんたちは、自分たちの地域はどうなるのか中谷さんに教えてもらうことにしたのです。
中谷さんははじめに、上空からの視点で灰が積もったときをシミュレーションした図を紹介し、地域の多くの道路に灰が降り積もっていく様子を説明。
その結果、地域の災害時の救援物資の倉庫にもなっている小学校周辺では、2021年の気象データであてはめると、最悪の場合、噴火から48時間で1.5メートル積もることが分かりました。
灰の積もり始めのリスクは?
ただ、和田さんたちには気になることがありました。1.5メートル積もる前にも、リスクがあるのではないかと考えたのです。そこで、和田さんたちは中谷さんとともに町内を歩いて確かめることにしました。
やって来たのは木造住宅が建ち並ぶ地域。中谷さんは、和田さんがおそれていたことは現実に起きうると指摘しました。
噴火から12時間で古い家屋が倒壊する危険性があるというのです。
鹿児島大学特任研究員(取材当時) 中谷剛さん
「屋根の上に40センチから60センチ積もると、古いお家だと倒壊の可能性が出てきます」
大規模噴火が起きると、自宅にとどまれないおそれがあることが分かりました。
「逃げると言われる方々も、相当援助をして、どこに逃げるとかアドバイスしておかないと、交通手段が無いとかいろいろ言われるので少し気になりました」
さらに、広域避難のために使うと想定されている大通りは噴火から4時間で10センチほど積もり、車が動けなくなることが分かりました。
参加者は10センチの降灰なら四輪駆動の自動車が動ける可能性があると指摘しましたが…。
「1台でもノーマル(二輪駆動)の車がいると道路としての機能が損なわれます」
「家にも帰れない、出ることも出来ない、生活はだめになってしまう」
想像以上に早い降灰の進み具合
町を巡って具体化してきた降灰のリスク。
今回のシミュレーションでは、
▽1時間で約0.5センチ積もり路面電車は動けなくなるほか
▽4時間で約10センチ積もり車が動けなくなります。
▽12時間で40センチから60センチ積もり古い家が倒壊、
▽そして48時間で1.5メートル積もることが分かりました。
中谷さんは想像力を働かせることの大切さを指摘します。
「降灰の進む速度は結構早そうなんです。噴火が起きてから避難するというのはやはり現実的ではないと思うんです。
大規模噴火級の火山災害に関しては誰も経験がないので、それぞれの方がいろいろ想像力を働かせて、いろんなことを考えて対処していくことが、これから必要になってくると思います」
和田さんたちは誰も経験したことがない大規模噴火を前に、ようやく対策の第一歩を踏み出せたのではないかと考えています。
「驚きと同時に具体的にここで灰が積もるんだなということがよくわかりました。
事前の情報などを、地域でも行政任せにすることなくつかんで、各町内の自主防災会が、自分たちのところを自分たちのこととしてやっていくような雰囲気を作っていかないといけないと改めて思いました」
備えは鹿児島市以外も必要
想像以上に早い降灰の影響に私たちはどう対処すればよいのか?
大規模噴火時の避難の方法に詳しい鹿児島大学の井村隆介准教授に話を聞きました。
「灰が降り始めた場合は無理をして計画通りに離れた地域に逃げるのではなく近くの頑丈な建物の上の階に逃げるのが良い。
街の機能が止まった状態での生活になるので日頃から飲料水や非常食や簡易トイレを備蓄しておくことが大切です」
また、こうした備えが必要なのは鹿児島市だけではないといいます。
今回のシミュレーションは東風が吹く夏に起きたときのことを想定していますが、鹿児島の場合は1年のうちほとんどが西風のため、大隅半島、そしてより距離の近い垂水市で備えが必要だと指摘しています。
東側では、まだ大規模噴火時の避難についての計画作りが進んでいないのが現状だということで、あらためて桜島のリスクに向き合う必要があるとのことでした。
取材を終えて
大正3年の噴火から100年近く大規模な噴火が起こっていない桜島。いざというときにどのような被害が出るのか、市街地に住む人たちに身近な桜島に危機感を持ってもらいたいと中谷さんは話していました。
研究で明らかになった大規模噴火から1時間で路面電車が動けなくなる計算を知った時、避難までのタイムリミット想像以上に短いのではないかと想像しました。
大雨や台風ほど自然の脅威が迫っていることを感じにくい火山災害ですが、一度大規模噴火が起こればその被害は甚大です。日常と防災の垣根を低くして、備えについて考えてほしいと感じます。