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追跡!鹿児島の矢印信号 3方向が同時に青の謎信号も?

渋滞解消に効果的な矢印信号 でも鹿児島では普及が進まない理由が
  • 2022年05月20日

「鹿児島市の谷山駅付近にある信号で3方向の矢印信号が同時に点灯する理由を調べて欲しい」という依頼が、視聴者から調査報道班に寄せられました。
鹿児島市の市街地では「渋滞する可能性がある」道路の割合が日本一高いというニュースを受けてのものでしたが(渋滞の特集はこちら)、取材を進めると鹿児島の意外な信号事情が見えてきました。

(鹿児島局記者 熊谷直哉)


3方向 ”同時点灯”の理由は…

その交差点は、鹿児島市の谷山地区の入り口にあたる場所にありました。

赤に変わると、少しの時間をおいて、右折、直進、左折を示す矢印信号が同時に点灯します。通りがかった車の中には、矢印信号がついても気がつかず、すぐ発車しないケースも。

赤信号だけど前にも左右にもいけます

地域の人に話を聞くと、「ただの青じゃだめなのかなって思いました」「1回目は戸惑いがありましたが、2回目からは慣れてしまいました」といった意見が聞かれました。

信号機の大手メーカーによると、全国的にも珍しいというこの矢印信号。

実は警察庁から各都道府県の警察に送られた通達で、設置しないよう求められています。「青信号と同じ意味を表し、運転者の混乱を招きやすい」というのがその理由です。

ではなぜこの場所では設置されたのでしょうか。

鹿児島県警によると、この信号が設置されたのは、4年前です。左折すると住宅地、直進すると谷山地区の中心部へ向かいます。そして、右折した先には開発が進んでいる地区が広がります。

今後、どのように開発が進んでも対応できるよう、3方向全てを設置したとしています。また赤になってから矢印がつくまでの時間で、対向車線の車が右折する時間も確保できるというのです。

県警は「警察庁の指針はあるが、地域の事情によって判断した」としています。

独自調査!九州・沖縄の矢印信号設置率

県警の回答を受けて、NHKは県内の矢印信号をめぐる事情について調べました。

その結果、去年末の時点で、矢印信号が設置されていたのは260か所あり、設置率は8.5%でした。

九州沖縄地方の他の県と比べると、最も設置率が高いのは沖縄県の13.9%です。鹿児島県は長崎県の8%は上回るものの、2番目に低いことが分かりました。

なぜ鹿児島の設置率は低いのでしょうか。交通問題の専門家は、地形的な要因があると指摘します。

九州大学 馬奈木俊介教授

「長崎も鹿児島も一緒なんですけど、比較的平野部が少ないんですね。地形的な特徴になります。そうすると丘の方に住宅が開発されますので、主要な道が都心部に集約されます。そうすると道が細くなってしまうので、右折信号が作れずに数が少なくなるというのが、長崎と同様に鹿児島の特徴になります」

矢印信号が少ないと交通リスクも

矢印信号が少ないことで、危険になっている場所もあります。

自動車保険会社の団体などが毎年発表している鹿児島市内の危険な交差点。令和2年の調査では、6か所のうち5か所が右折信号が全くないか、片方しかない交差点でした。

そのひとつ騎射場交差点では、市電が通っているため右折信号が設置しづらくなっています。ここ3年で47件事故が発生しているということです。

町の人たちからは、右折が難しい場所は、他にもたくさんあるという声が聞かれました。

「鹿児島は市電があるから右折が怖いというのが、実際あります」

「やっぱりすごく見にくいので直進車とぶつかりそうになりそうだなって。           ひやっとすることはありますね」

「場所によっては、信号とかの関係で右折できないところがあります。右折は基本しづらいので、できるだけ右折しないように左折だけでいけるようにルートを組んだりはします」

対応迫られる警察

長年、県民を悩ませてきた鹿児島の道路事情。警察も対策を迫られています。

交通の難所として知られる中洲電停交差点もそのひとつです。赤になったあと無理に右折する車もあり、3年間で55件事故が発生しています。

そこで、3月5日に工事が行われ、矢印信号が設置されました。私も信号の改良後に行ってみましたが、明らかにスムーズに右折することができていました。

ただ、課題も山積しています。この信号の工事にかかった費用はおよそ650万円。信号ごとに更新できる時期も決められていることから、一度に切り替えることはできないというのです。

鹿児島県警 山下英行管制官
「信号の制御をする機械というのは、19年に1回の更新時期と決まっております。なかなか高額な予算を使わせていただくものですから、そこは 有効的に利用しなければならないということで、今回ちょうど更新のタイミングがあったので今回導入したということになります」

取材を終えて         

珍しい矢印信号の設置理由の調査依頼から始まった今回の取材でしたが、調べていくとふだんは何気なく通過している信号にも、さまざまな経緯があることがわかりました。

九州大学の馬奈木教授によると、矢印信号は、2割から3割渋滞を緩和するというデータがあるということです。そのため矢印信号の設置率が低いことと渋滞が多いことの間には、相関関係があるという可能性もあると思われます。

また馬奈木教授は「できる人から、公共交通機関を利用することが渋滞緩和への第一歩だ」と話した上で、「今後、高齢化が進む中で、街中に住む傾向が強まっており、道幅の変更も検討する必要が出てくるのではないか」と指摘していました。

私たちが自分にできることから交通問題の解消に向けて取り組んでいくことはもちろん、警察も今まで以上に県民の声に耳を傾けて、渋滞の解消と安全の確保に取り組んでもらいたいと思います。


 

  • 熊谷直哉

    NHK鹿児島放送局 記者

    熊谷直哉

    2020年入局 京都府出身 事件事故や経済を担当 営業部門を経て2月から記者に

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