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鹿児島県に多いコート禁止の校則 なぜなのか調べた その結果は

  • 2022年04月26日

南国とはいえ登下校時に氷点下になることもある鹿児島県内。駅前を歩いていると、コートを着ている高校生が少ないことが気になります。調べていくと、その背景にはどうやら校則の問題が…。
鹿児島県内の状況について調べて欲しいという調査依頼も寄せられた、校則についての問題を取材しました。

(鹿児島局記者 西崎奈央・庭本小季)

どう感じる?コート着ない実態

早速、鹿児島中央駅前を歩く高校生に話を聞いてみると…。

(男子高校生)
「朝、学校へ自転車で行くんですけど、その時は肌寒く感じます。一度パーカーを制服の裏に着てみたら学校側に怒られたので着るのをやめました。無地のものなら自由にしてもいいんじゃないかなと思います」

(女子高校生)
「小中学校、制服だったんですけど、コートとかマフラーとかはダメでした。着てはいけないと。理由は特に説明を受けませんでしたが、ダメって言われていました」

また、指定のコートに限って認められているという高校の生徒から「指定のコートは高かったりするので着なくてもよいかと思う」と言った意見も聞かれました。

県内の高校の校則は

校則で禁止されているという話を聞いた私たち。実態を確かめるため、情報公開請求などをもとにすべての県立高校の校則を調べました。

コートや防寒着については、61校中11校が原則、着用を禁止。理由を尋ねましたが、明確に把握している学校はありませんでした。

なぜこのような校則が

高校生たちから「自由に防寒着を着たい」といった声が多く聞かれたものの、着られない現状。このことについて県の教育委員会にも聞いてみましたが、実態を把握していませんでした。

(鹿児島県教育委員会)
「防寒着についての校則の実態は把握しておりません。制定する権限は校長にあり、県教委は各県立学校に対し、社会環境などに応じて見直しを行うよう指導しています」

ヒントは小学校に

誰も把握していないコートや防寒着についてのルール。中学校や小学校まで広げて取材すると、ルールが作られた理由の一端が見えてきました。

鹿児島市の桜島にある桜峰小学校では、かつて、保護者からの申し出があった時以外は、原則、防寒着は禁止でした。

(永田洋一教頭)
「一般的に華美になりすぎてしまったりとか、首に巻くものだったら危ないっていう考え方があると思うんです。ただ、理由が分からないのに残すのはいかがなものかと」

よく分からないまま残っていたルール。コロナ禍で換気のため窓を開けるようになった2年前、防寒着を禁止していたルールをなくした上で、教室内での着用も認めることに踏み切りました。

(永田洋一教頭)
「去年もやっていたからまた今年もやりましょうではないと思うんですよ。おかしいと思うルールはなくしていくという力が学ぶ力なのではないでしょうか」

見直しの動き 中学校でも

こうした動きは小学校だけではありません。県内各地の状況を取材すると、制服自体のあり方から考え直し、校則を見直した学校があることが分かりました。

曽於市にある財部中学校です。

女子はセーラー服、男子は詰め襟を示した上で、スカートの長さやズボンのはきかたなどを校則で細かく決めていましたが、来年度の新学期に入学する1年生から、男女共通型と呼ばれるブレザーの制服へ変えることになったのです。

変化のきっかけになったものー。それは生徒からの訴えでした。

(財部中学校 浜田津世志校長)
「生徒の方から制服が寒いといった要望がありました。それで様々な選択に答えられるような制服を検討しようとなりました」

動き出した学校

生徒の声が上がってから2か月あまり。学校は制服変更の是非を問うアンケートを、在校生とこれから通うことになる小学生や保護者に対して実施しました。

その結果、半数を超える54%の人が「制服を変えた方が良いと思う」と回答したのです。

変えた方が良い理由として、「スカートとズボン、好きな方を選ぶことが出来る環境作りが大事」といった意見や、「スカートはやめズボンのみで良い」といった意見があることが分かりました。

(財部中学校 浜田津世志校長)
「今の世の中の状況を考えますといろいろなタイプの方がいらっしゃいますので、対応する必要があると皆さんお考えだったのではないかなと思います」

一番の課題は価格

学校はこのアンケート結果をもとに、教師や生徒、保護者で構成される新しい制服の検討委員会を立ち上げます。

その中では、制服の価格の問題が指摘されましたが、丈夫で洗濯しても乾きやすい素材を採用したり、男女で共通したデザインなどに工夫することで価格をおさえることができました。

(財部中学校 浜田津世志校長)
「おさがり等で使われることも考えています。ボタンの付け替えが出来るようにして、お兄さんから妹へ使われる場合にも対応した制服にしました」

制服を着ることを自己決定の場に

在校生たちは、来年の春からの変化を前向きに捉えています。

(男子生徒)
「学ランが変わってしまうのは寂しい気持ちもありますが、動きやすさなど女子がズボンを選べたりなどの選択肢があるのはいいと思います」

(女子生徒)
「自転車通学の際は、雨の時などもそうですが、スラックスのほうが気候に左右されず、いつでも楽に通学することができるのではないかなと思います」

1人ひとりが考えて自分たちのあり方を決めていく。新たな学校生活の模索が始まっています。

(財部中学校 浜田津世志校長)
「新しい制服は、子どもたちが今後、自分が着るものを通じて自己決定をするいい訓練になるのではないかと思います。新しい伝統をさらに築いてほしいという願いも込めていますので、いろんな活躍をしてくれるのではないかと考えています」

重要なのは大人が変わること

コートを禁止する校則から見えてきたさまざまな課題。

校則に詳しい名古屋大学大学院の内田良准教授は、必要性が検討されないまま過去の校則が踏襲されているケースは多いと指摘しています。

その上で、子どもの自主性を育てるためにも、まずは大人が変わる必要があると呼びかけています。

(内田良准教授)
「日本社会というのは原則自由なんですね。でも学校の校則に限って言うと原則不自由なんです。自分でものを考え、自分で何かをつくり出す。そういった子どもを学校教育として育てていくためにも、もう少し柔軟な生活校則のあり方が必要だとおもいます。子どもにしんどい思いをさせているのは大人ですから。まず大人がこれまでの校則のあり方というの1回見直してみる必要がある」

取材後記

街頭で高校生から聞いた「自由に防寒着を着たい」という考え。その一方、コート・防寒着を禁止している学校への取材でしばしば聞いたのは「生徒から着たいという声が上がらない」という話でした。

今回、子どもたちが自ら声を上げることで変わった学校を取材しましたが、いま子どもたちが何を考えているか理解できていない現場が多いのではないかと感じますし、そもそも生徒が学校や教師に意見を言うのは難しいのかもしれません。

「意見がないから変えない」というのではなく、時代の変化に合わせて、大人側が柔軟に対応してゆくことが求められているのではないかと思いました。

  • 西崎奈央

    NHK鹿児島放送局 記者

    西崎奈央

    2019年入局。警察担当を経て薩摩川内支局。調査報道にも取り組む。

  • 庭本小季

    NHK鹿児島放送局 記者

    庭本小季

    2020年入局。岐阜県出身。事件事故や防災、調査報道などを担当。

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