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11月の兼題
「歯痒い(はがい)」

  • 一転ひとまくい じかじ歯痒はがい パーパット

    垂水市 / 保久上 勝手耳 さん

    ,一転|ひとまく,い ,届|と,じかじ,歯痒|はが,い パーパット 垂水市 保久上 勝手耳

    (ゴルフのバーディパット〈そのホールの基準打数より一つ少ないこと〉まであと一転び足りず歯がゆいことに基準打数どおりのパーで終わった という意味)

    寿星 :着想が良かったですね。私がさつま狂句のコーナーを担当してからゴルフの内容の句が出てきたのは初めてではなかろうかと思います。「一転び」ですからあと1センチぐらい足りなかったということです。まさに歯がゆいそのものでしょう。ゴルフの面白いところは200mぐらい飛ばしても1打、1センチでも1打です。プロの試合なら優勝がかかればその1打で2000万円ほどの差がつくことがあるわけですが、アマチュアですから秋空の下で楽しんだということが何よりでしょう。


    一転ひとまくい じかじはがい パーパット


    <唱> そいで今日きゅもまた ブービーじゃろで

    (そのために今日もまたブービー賞だったのでしょう という意味)


    大変失礼しました。

  • あいよあい こいなこいなで 歯痒はがゆなっ

    南さつま市  / 茶圓 典之 さん

    あいよあい こいなこいなで ,歯痒|はが,ゆなっ 南さつま市  茶園 典之

    (「あれ」と言ったのに「これね」と違うものを持ってきた、歯がゆいことだ という意味)

    寿星 :長年連れ添った夫婦ならではのゆったりとした空気が漂っているような感じがします。かみ5、なか7の話し言葉の鹿児島弁で特にそれが感じられます。ほとんどは「あれ・それ」の代名詞だけで通じるのでしょう。

    キャスター:歯がゆいと言いながら、ほんとは仲がいいのでしょうね。

    寿星 :今回の投句の中では一番軽い「歯がゆい」かもしれません。似たような鹿児島弁で「なゆばないせんか(あれをこうしなさい)」と言って、はっきりしない指示を冷やかすおもしろい言葉を思い出しました。


    あいよあい こいなこいなで 歯痒はがゆなっ


    <唱> 自分わがでせんなち やい奥様おっさん

    (自分でしなさいと、もっと強く言ったらどうですか という意味)


    私はそのようにしつけられております。

  • ししわろが 甘藷かいもばたけを いたくっ

    鹿児島市 / かねしげ さん

    ,猪|しし,,奴|わろ,が ,甘藷|かいも,,畑|ばたけ,を ,掘|ほ,いたくっ 鹿児島市 かねしげ

    (いのししがからいも畑を掘り散らしている という意味)

    キャスター:この句を天に選んだのはどこが良かったのですか?

    寿星 :課題の言葉を入れずにその状況を簡潔に表現しているところです。単なる「掘っている」でなく「いたくっ」で、畑が「ちんがらっ(めちゃくちゃ)」になっていることが分かります。課題の言葉を入れないということは、「歯がゆさを読み手それぞれが感じてくださいよ」と投げかけているわけです。読み手に想像の余地を残してくれていることになります。

    キャスター:しかも「からいも」はこの時期も合っていますよね。

    寿星 :時期外れでは訴える力はありません。それも大事な要素です。


    ししわろが 甘藷かいもばたけを いたくっ


    <唱> 美味うんまか焼酎しょちゅん もとじゃったとに

    (美味しい焼酎の素だったのに という意味)

    焼酎好きにとっては危機感を覚える問題でございます。

今月のポイント「より鹿児島弁らしく」

言葉づかいの中で「総入歯がんぶいを」とか「こんを」と、名詞は鹿児島弁になっておりますが、助詞の使い方が鹿児島弁になっていないのが見られます。格助詞「を」を、「ゆ」や「ゆば」、「ぬ」などを使って鹿児島弁の表現を使ってみましょう。それぞれ「総入歯がんぶゆ」あるいは「総入歯がんぶゆば」「こんぬ」として、細かいところまで鹿児島弁にこだわらなければなりません