10月の兼題
「ずっさらし」
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ずっさらし
畝作 いじゃち父親 が叱 っ南さつま市 / 玉利 眞智子 さん
(畝づくりが雑だとやりなおされた という意味)
寿星 :「畝づくり」との具体的表現がよかったですね。作者の小さい頃の思い出でしょうか。その場の情景が浮かんできます。
キャスター:昔はどのようにして畝を作っていたのですか。
寿星 :今みたいに耕運機もありませんので、鍬を使ってやっておりました。鍬も慣れないと使いにくいですから、父親からしたらいいかげんに見えたのでしょう。しかしこんな農業体験こそいい思い出になって狂句に生きてきたのではないでしょうか。それを句に出来る嬉しさもあるだろうと思います。
ずっさらし
畝作 いじゃち父親 が叱 っ<唱> よんごひんごで 幅も
大概 大概 (曲がりくねったり、畝の幅もいいかげんだ という意味)
鍬を使って耕すときのサクサクという音が耳に残っております。
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ずっさらし
稲架 あ風も無 て転倒 っ曽於市 / 津留 群志 さん
(風もないのに、いいかげんな作りになっていた稲の掛け干し台が倒れた という意味)
寿星 :実りの秋に似合う句が出てきました。稲の刈り入れは今では機械がほとんどですが、それでもこのような風景はまだ見られます。写真映えするので鹿児島では 東市来町の「尾木場の棚田」が有名です。そうして手を掛けただけあって、「掛け干しのお米はおいしい」という人もいますよね。
キャスター:稲を掛ける台を「うんま」というのですね。
寿星 :馬から転じた言葉だそうです。稲を掛けてある様子から何となくそのような感じがします。ずっと残したい鹿児島弁です。
ずっさらし
稲架 あ風も無 て転倒 っ<唱>
実 いが良 して潰 ったとお(いつものとおり作ったが今年は実りが良くてつぶれたのだ という意味)
人情の寿星はいい方に解釈してあげました。
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ずっさらし 仕掛けあ
魚 い遊 ばれっ南さつま市 / 阪本 良三 さん
(いいかげんな仕掛けで魚に遊ばれている という意味)
キャスター:この句を天に選んだのははどこが良かったのですか?
寿星 :理屈っぽい、こってり味の句が多い中で、このようなあっさり味の句が出てきますとほっとします。狙いが新鮮ですし作者の遊び心が生かされて読み手もその場にいるような追体験ができます。そして自分自身を面倒くさがりやでいいかげん、とこき下ろしたことで狂句になりました。
キャスター:それは具体的にはどんなことなのですか。
寿星 :私も釣りはほぼ素人ですが、例えば餌から針が見え見えといった状況ではないでしょうか。釣れなくなると餌を替えるのも面倒になります。よく釣れる人は竿を動かしたり餌もしょっちゅう替えております。
ずっさらし 仕掛けあ
魚 い遊 ばれっ<唱>
時々 ぴっち揶揄 った当 たい(魚がからかって時々引いたりする という意味)
しかし潮風を浴びただけでもストレス解消になったでしょう。
今月のポイント「一つの句には一つの訴えで」
投句の中で「ずっさらし女房に固い旦那」というのが見られました。句としては面白いのですが、これではピントが合わず課題の言葉がぼやけてしまいます。あくまでも課題をメインにしましょう。