6月の兼題
「たっちき」
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遅 せ帰 い たっちき小言 つ浴 びたくっ兵庫県 / 池水 建郎 さん
(遅い帰りに、早速小言を浴びまくった という意味)
寿星 :飲兵衛なら誰にも経験がありそうで苦笑いしながらうなずいてしまいました。
キャスター:「たっちき」の意味が分かりますのでなお面白いですね。
寿星 :課題の「すぐさま」が最大限に生かされております。玄関を閉めたとたんのお小言というような極端な面白さまで想像させてくれます。「付き合いなんだ」とか、「飲み友達から強引に誘われたのだよ」と、いろいろな言い訳まで聞こえてきます。真夜中のドラマですね。
遅 せ帰 い たっちき小言 つ浴 びたくっ<唱> よろんかったん 歌どん
歌 とて(千鳥足でよろよろしながら、歌を歌って帰って来たのでしょう という意味)
寝れば寝たで地響きのようないびきをかいたのでしょうか。
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誰 か来た たっちんこんめ片 付 けっ姶良市 / 岩﨑 好 さん
(門を開ける音がした、誰か来たようだとすぐさま居間を片付けた という意味)
寿星 :この句から「ろうばいする」という意味でさつま狂句でもよく使われる「ばたぐろっ」という鹿児島弁が浮かんできました。門から家まで距離のあるお宅ではと、屋敷の広さまで想像させてくれます。
キャスター:慌てぶりが目に浮かぶようですね。
寿星 :そのような想像をさせるところがまさに狂句です。そんなにすぐに片づけることが出来るのかと真面目に考えては狂句になりません。狂句人なら、次の間に投げ込んだのだろう、というようなことを想像します。
キャスター:「たっちき」と同じ意味のことばでも、今度は7音字ですね。
寿星 :定型に収めるために使い分けのできる便利な言葉です。
誰 か来た たっちんこんめ片 付 けっ<唱>
玄関 みゃ開 けじ はいはいち返事 (玄関は開けずに、はいはいの返事ばかりだ という意味)
投げ込んだ部屋のふすまは閉まったでしょうかね。
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たっだいま
鮎 が肴 ん 解禁日南さつま市 / 中林 和子 さん
(解禁日にはその場ですぐにあゆが酒のさかなになる という意味)
キャスター:この句はどんな点が良かったのでしょうか?
寿星 :鹿児島県内では6月1日の解禁の所が多いようです。詠むとしたら今しかありませんし、課題がしっかり生かされております。河原での楽しい語らいまで聞こえてきて、映像を楽しむことが出来ます。そして「解禁日」を最後に置いたことで、家の中ではない、河原の風景になりました。「たっだいま」ですから河原でなければなりません。
キャスター:ところで「酒のさかな」を「しおけ」というのですね。
寿星 :塩分の「塩気」からきております。鹿児島弁が分かりやすいように当ててあるわけです。
たっだいま
鮎 が肴 ん 解禁日<唱>
河原 れな香 ばしか匂 が舞 たろで(河原では香ばしい匂いが舞ったことでしょう という意味)
これ以上ない、ぜいたくなひとときでしょう。
今月のポイント「上5で説明しない」
一番言いたいことを上5に持ってきますとそのあとはどうしても説明的になってしまいます。説明だけの句は「ああ、そうですか」だけになりがちです。言いたいことは出来るだけ後の方に据えて読み手に想像させる楽しみを持たせましょう。