7月の兼題
「加勢(かせ)」
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機械植え
爺 あ土手 かあ口 で加勢 鹿児島市/白川 南 さん
(機械植えになって、おじいさんは土手から口で加勢している という意味)
寿星 :田植えの加勢の句が最も競合しましたが、そんな中で抜け出すには、ひねりや選び抜いた言葉が必要です。ただ単に「田植えの加勢」がほとんどのなかで、具体的に機械植えに焦点を当てたことと、そこにおじいさんをユーモラスに座らせたところが光りました。「口で加勢」というのはどちらかというと歓迎される加勢ではないようですが、そこがまた狂句ならばこそです。
キャスター:その様子も浮かんでくるようですね。
寿星 :絵になるというのが大事な要素ですし、「ほらほら曲がっちょっが」との大声も聞こえてくるような風景です。機械植え
爺 あ土手 かあ口 で加勢
<唱>
小言 が多 し ぶんと捗 けじ
(小言が多くて全然はかどらない という意味)
時にはバックさせたりして -
太郎 踊 い長男 が歯痒 いで父親 い加勢 出水市/坂上 不知火 さん
(春祭りで奉納する踊りの中で、長男の演技が憎らしいほどで、つい父親に加勢する という意味)
キャスター:これはどこのお祭りなのですか。
寿星 :鹿児島県下各地で3月頃行われる、太郎太郎祭りの一コマを詠んでいます。田植えの準備を牛役(べぶやく)も混じって面白おかしく演じるのですが、長男役が父親役の言うことを聞かずに勝手に暴れまわるようです。見物人を歯痒ゆくさせるということは、裏返せばそれだけ引き込むほどのうまい演技なのでしょう。境内が笑いに包まれている様子が伝わります。こんな細かいところを素材に選んだ作者の眼力(がんりき)はさすがです。
太郎 踊 い長男 が歯痒 いで父親 い加勢
<唱>
大概大概 せんと血圧 ち悪 りど
(あまり興奮すると血圧が上がりますからほどほどにしましょう という意味)
額に青筋が立っていますよ -
一番 の加勢 茶飲 んタイムい歌 と幼児 日置市/大石 文旦 さん
(茶飲み時に、上手に歌を聞かせてくれた子供に元気が出た、一番の加勢だ という意味)
寿星 :特選句の段階になってきますと目の付けどころも鋭くなってきます。素材を幅広く探し求めていることが伺えます。それは類想を避けることにもつながります。こういう句は絵にもなります。舞台は野良仕事の木陰と想像しました。
キャスター:癒されている感じですね。
寿星 :疲れたところにほっとさせてくれるようです。涼しい風が吹き渡る午後の3時頃ではないでしょうか。
一番 の加勢 茶飲 んタイムい歌 と幼児
<唱> こら
上手 じゃがち祝儀 も出 しつろ
(これは上手だと、ハナまで出した という意味)
まいごのまいごの子猫ちゃん、でしたかね・・
今月のポイント「着想5割 推敲5割」
苦心した課題こそ、素材が見つかればほっとして、半ば出来上がったような気持ちになりがち です。しかしそれからが大事なところです。意味が分かってもらえるか (独りよがりの句ではないか)、狂句味がなく単なる説明句ではないか、などしばらく寝かせて から読み返してみるのも必要です。