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元 をばち食放題 ん店じゃ忙 しこっ鹿児島市 / 前野 智子 さん
(食べ放題の店で元を取ろうと忙(いそが)しかった という意味です)
キャスター:この作品を最優秀作品に選んだ理由はなんですか
寿星 :ユーモアと着想の良さですね。忙(いそが)しいといえばまず仕事と来るのが普通でしょうが、それを食うことにもってきた狂句的見方が引き付けました。
キャスター:時間制限があるようですね。
寿星 :それだからこそ、この句が成り立って忙(いそが)しいとなるわけですね。お店との真剣勝負ともいえますね。店に来る自体が張り切っているわけですから、誰しも元(もと)を、となるはずです。私はゆっくり飲んで味わう方ですので、お店の売り上げに協力するほうです。元 をばち食放題 ん店じゃ忙 しこっ<唱> ストップウォッち
時間 く見張 らせっ
(ストップウォッチで時間を計りながら詰め込んだ という意味です)
胃拡張にならなければよいですけど -
婆婆 ち希 けんの客 き忙 しこっ日置市 / 佐藤 千恵子 さん
(たまに訪ねて来た孫に忙しいことだ という意味です)
寿星 :前回放送でも申しましたが、この句の解釈も作者の意図とは違うかもしれません。作り手にしてみれば、そんな見方もあったのかともなります。「ばあばあ」との表現に孫が訪ねて来たのだろうと解釈しました。句全体では一人暮らしの寂しさも漂っております。そして嬉しくてたまらないのに、「忙(せわ)しこっ」と結んで後は読み手の想像に任せているのが良いですね。コロナ禍で長く会えていなかった孫に会えたのではないでしょうか。「希(まれ)けんの客(きゃ)き」という表現に会えなかった孫への愛おしさが感じられます。
キャスター:「希(まれ)けん」とは字から見て「たまに」という意味ですか。
寿星 :そうですが、この句の場合は「ずいぶんと久しぶり」ぐらいの長さではないでしょうか。そして「忙(いそが)しい」とは御馳走作りのことではないでしょうか。喜びが伝わってきます。婆婆 ち希 けんの客 き忙 しこっ
<唱>
痛 て足腰も性根 も軽 るなっ
(痛かった足腰も胸の内も軽くなった という意味です)
鼻歌交じりで料理を作られたのではないでしょうか -
土産 買 い婆 さんが忙 し バスツアー鹿児島市 / 有馬 靖雄 さん
(お婆さんのバスツアーは観光よりも土産買いの方が忙しい という意味です)
寿星 :この句もご覧の多くの皆様が、そうだそうだと共感されるのではないでしょうか。誰もが経験していることをしっかり課題に結び付けました。旅の目的の一つは土産買いが楽しみですから、このような状況は当然です。
キャスター:寿星さんも夢中になる方ですか?
寿星 :私はこまごまとした買物は苦手ですので、金魚のフンみたいに付いて荷物を持たされる方です。名物の買い忘れがないよう、旅行前からお配り先をしっかりメモしているようですよ。ところでよくあるのが土産買いに夢中になって、バスの出発時間に遅れる光景です。バスを降りるときガイドさんが注意しますが、あまり聞いていないようです。どうしましょう。土産 買 い婆 さんが忙 し バスツアー
<唱>
集合 時間 な頭 いな無 し
(バスへの集合時間は端(はな)から頭になく、買物に夢中だ という意味です)
日常を忘れて楽しまれたから、少しぐらいの遅刻は大目にみてやりましょうか
今月のポイント「読みがなと送りがなに留意を」
・誰(だい)も敵(かの)わん走(はし)くらご
・誰(だ)いも敵(かの)わん走(はし)くらご
前の句は「誰もかなわないほど足の速い子」後の句は「誰にもかなわない足の遅い子」という意味になります。後の句の送ってある「い」は「誰にも」の「れに」に当たる働きもします。
助詞の送り一つでこのように全く正反対の意味になります。
薩摩狂句独特の表現方法です。