内 美登志 - うち みとし

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2020年3月13日(金)

「歌の力」を思い出す日

1週間前の丁度この時間、何をしていましたか?」と聞かれても、なかなか思い出せないですよね。 でも、「2011年3月11日の午後2時46分に、自分が、どこで、何をしていたか」を思い出せる人は多いのではないでしょうか?
今年も3月11日がやってきました。東日本大震災から9年です。 そして、私は、この日が巡ってくるたびに、ある歌の力を思い出します。


9年前、私は、渋谷のNHK放送センターで、ラジオ第1放送の番組を制作していました。NHKのラジオは、3月11日の地震発生直後から、すべての番組を休止して、震災関連の情報を伝え続けました。そして、3日後の14日・月曜日の午前5時から通常の番組枠に戻ることになりました。


14日の朝、番組再開まで1時間あまり。準備を進めていた私たちは、想定外の事態に直面します。 番組の中でかける曲を選ぶ担当者が、困り切った表情で相談に来たのです。 「今、日本語の歌をかけても良いのでしょうか?」というのです。少し考えて、彼の言っている意味が分かりました。大勢の人たちが亡くなり、行方不明になり、また、多くの人たちが避難所で生活している中、日本語の歌詞が、だれかの心を傷つけてしまうかもしれない。それは、ひょっとすると、ありふれた言葉かもしれない。だれが、どんな歌詞に傷つくかわからない以上、日本語の歌を放送することができないという状況に直面したのです。
その日、番組では、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」、キャロル・キングの「君の友だち」など、被災した皆さんに寄り添える海外の名曲や元気の出そうなインストゥルメンタルの曲をかけました。
そんな中、番組再開を知ったリスナーの皆さんから、「日本の歌をかけてほしい」とリクエストも届き始めます。 しかし、翌15日(火)も日本語の歌をかけられませんでした。「日本の歌をかけてほしいというリクエストに応えたい」、でも、「その歌詞で傷つく人がいるかもしれない」・・・・・かけられませんでした。


翌16日(水)、岩手、宮城、福島から、ある曲へのリクエストが届き始めます。小さなお子さんを持つお母さんたちからのメッセージです。
「地震のたびに子供が怯えています。是非、この曲で勇気づけてください!」「避難所で暮らしています。小さなラジオで、子供と一緒に聞いています。是非、聞かせてください!」。
停電したままの避難所から、携帯電話のバッテリーを気にしながら、いわゆる「ガラ携」から送ってくれたリクエストです。どのメッセージにも、お母さんたちの切実な思いが詰まっていました。
そのリクエスト曲こそ、『アンパンマンのマーチ』です。


この日、NHKのラジオ第1で、地震発生後、初めて日本語の歌が流れました。 お母さんたちからいただいたお礼のメッセージを、今でも覚えています。
・ラジオから『アンパンマンのマーチ』が流れてきて、子供がバンザイをしています。
・地震から5日、『アンパンマンのマーチ』を聞いて、うちの子が初めて笑いました。
・『アンパンマンのマーチ』を聞いた5歳の息子が、「僕、頑張るよ!」と私に言いました。


この日以降、NHKのラジオから、連日、『アンパンマンのマーチ』が流れ続けました。


アンパンマンの作者のやなせたかしさんは、生前、色紙にこんな言葉を書いています。 「おそれるな がんばるんだ 勇気の花がひらくとき ぼくが空をとんでいくから きっと君を助けるから」


あの時、アンパンマンは、きっと、電波に乗って、被災地に飛んで行ってくれたに違いありません。


3月11日、この日がくるたび、私は、「歌の力」というものを思い出さずにはいられないのです。


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