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検証 桜島の噴火警戒レベル5引き上げ

2022年9月29日

桜島では、ことし7月に発生した爆発的な噴火で噴石が2.4キロを超えて飛んだとされ、噴火警戒レベルが最も高い「5」に初めて引き上げられました。その過程に課題はなかったのか。改めて検証すると意外なことが分かってきました。
(鹿児島局記者 松尾誠悟・小林育大)

“実際そうはないんだけど…”


7月24日午後8時5分ごろ。桜島の南岳山頂火口で爆発的な噴火が発生しました。

気象庁が発表した大きな噴石の飛散距離は火口から東へ2.4キロ超。基準を超えたため、噴火警戒レベルは「避難」を意味する最も高い「5」に初めて引き上げられ、警戒を必要とする範囲は火口から3キロに拡大されました。

その1時間半後、鹿児島市は警戒範囲内にある有村町と古里町の一部に避難指示を出しました。3日間、避難生活を送ることになった地元の人たち。「避難生活は疲れます。1日でも早く自宅に帰りたいです」などと話し、不安な日々を過ごしました。

影響は観光や経済にも広がりました。

桜島にある3つの宿泊施設では、噴火の翌日から10日間でおよそ870人のキャンセルが出ました。その1つ、南岳山頂火口から5キロ以上離れたところにある「レインボー桜島」の担当者は、3年ぶりに行動制限のない夏休みが始まり客足を期待していたやさきだっただけに、ダメージは大きかったと話します。


レインボー桜島
担当者

ちょうど夏休みに入ったころでしたし、ご家族連れのお客様が来る予定だったんですけれども、警戒レベルが5に引き上げになったことで、実際は満室近いものがキャンセルというかたちで予約がなくなってしまいました。

9月に入り、鹿児島市や桜島島内の施設で始まったキャンペーンもあって、客足は戻りつつありますが、今回の噴火警戒レベルの引き上げには戸惑いを隠せないといいます。


レインボー桜島
担当者

ああいうことになると、実際はそういうこともないんだけどなっていうのが、地元の方の気持ちだったんじゃないかなと思います。



レベル5相当は1955年以降で20例


桜島では、今回のような規模の噴火がこれまでに繰り返されてきました。京都大学の火山活動研究センターによりますと、1955年以降、レベル5に相当する「噴石が2.4キロを超えて飛んだ」ケースは20例あるということです。

38年前の1984年7月には有村町の住宅の近くまで大きな噴石が飛びました。その2年後には重さが5トンもある噴石が古里町のホテルに落下。建物の屋上や床を突き破って地下まで達し、宿泊客ら6人がけがをしました。

おととし6月には、東桜島町の集落の近くまで飛散。このときは、噴石を確認するまで数日かかりました。




正確に計測できたのか?


一方、今回の噴火では今も噴石が見つかっていません。長年にわたって桜島の研究を続ける京都大学の井口正人教授は、気象庁の判断に疑問を持っています。


京都大学
井口正人教授

空振の振幅から見るかぎり、ごく極めてありきたりな噴火なんですよ。そうすると噴石だけが遠くまで飛んだという判定になることがちょっと異常かなという風に思っています。

今回、噴石の映像を捉えたのは、気象庁が桜島周辺に設置している9か所の監視カメラのうち、垂水市牛根にあるカメラです。気象庁は東の山麓にある権現山の南東側に落ちたとしていますが、井口教授は、この場所では地形の特徴から正確に計測できなかった可能性もあるというのです。


京都大学
井口正人教授

急斜面では非常にわかりやすいんです。ところが低いところになってくると斜面の傾斜が緩くなってきます。さらに下のほうになってくると平らになってくるんです。そうなってきますと、どこまで飛んでいったのかというのが非常にわかりづらくなってくるわけですね。本当に2.4キロを飛んでしまったのかどうか。火山学的なところでいうと、事後であってもちゃんと検証していく必要があるかなという印象をもっています。



空振と飛散距離に一定の相関関係


井口教授は、飛んでいなかった可能性を裏付けるデータとして、「空振」の値をあげています。

空振とは、爆発的な噴火によって起こる「空気の振動」のことです。2011年の霧島連山の新燃岳の噴火で起きた空振では、窓ガラスがガタガタと揺れ、霧島市では窓ガラスが割れる被害が出ました。この空振の観測データと噴石の飛散距離には一定の相関関係があるとされています。

おととし6月に起きた爆発的な噴火では大きな噴石が火口から3キロを超えて飛び、集落から100メートルあまりしか離れていない場所に落ちました。噴火警戒レベル5の引き上げに相当する噴火で、この時に火口の南側で観測された空振は148.1パスカルでした。

一方、今回の噴火の空振は同じ地点で観測されたもので34.6パスカル。比べるとかなり値が低いことが分かります。井口教授はこの空振の値から見ても規模の大きな噴火ではなかったと指摘しています。




“大事なのは警戒範囲”


井口教授が最も重要だと強調するのが「火口からおおむね何キロの範囲では大きな噴石に警戒してください」といったかたちで呼びかけられる「警戒範囲」です。


京都大学
井口正人教授

警戒を呼びかける範囲でレベルは決まります。レベル5が大事なのではなくて、警戒を要する範囲が重要で、警戒を要する範囲を決めればレベルは決まるんです。本当に防災を考えるうえでは警戒を要する範囲を明確にまず述べるべきだと私は思っています。

今回の噴火の「警戒範囲」は火口からおおむね3キロでしたが、今後、懸念されるのは100年以上前の「大正噴火」のような大規模噴火です。

大規模噴火が起きる可能性が切迫してきた場合、火口から6キロなどといった警戒範囲が示される見込みで、桜島のすべての住民が避難を要する事態も想定されます。井口教授は「警戒範囲が3キロであっても6キロであっても同じレベル5になるのならば、レベル5という情報はもはや意味を持たない」とも指摘します。

最新の研究では姶良カルデラの地下のマグマの量は、「大正噴火」以前の9割にまで戻っているとされます。いつ来るか分からないその時への備えとともに、気象台から発表される情報を分かりやすく伝えるための努力を私たちも続けていきたいと思います。