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【十勝発】生徒急増!過疎の町の高校で何が?

  • 2024年5月20日

人手不足に、食料の品不足…。さまざまなものが不足する昨今。北海道十勝地方のある町の高校で、“あるもの”が足りない事態が起きました。それは、生徒が使う学生寮。実は、入学生の急増で、遠方からの生徒用の寮の部屋が足りなくなったのです。かつては学級減の危機にまで陥った高校のうれしい悲鳴。なぜ、たくさんの入学生が集まってきたのか、取材しました。(帯広放送局記者・青木緑)

正反対の事象に驚き

「鹿追の高校で生徒が急増しているらしい」
そんな情報が私のもとに入ってきたのが、ことし4月のこと。その時私は、ちょうど鹿追町で、少子化で閉所された保育所や、来年度の閉校が決まっている小学校を取材しているところでした。人口5000人余りの鹿追町。全国の地方自治体に共通する深刻な少子化の影響は、この町も直面しています。そんな中で「子どもが増えている」という、正反対の事象が起きているとは、一体どういうことなのか、取材に向かいました。

帯広市から北西に車で約40分のところにある鹿追町。その中心部にあるのが、町内唯一の高校、道立の鹿追高校です。一歩校舎に入ると、静かな市街地の雰囲気とは打って変わり、にぎやかな声と共に、多くの生徒たちでごった返す様子が目に飛び込んできました。

ことしの入学生は75人。昨年度の1.4倍です。長く入学希望者の定員割れが続いてきた中で、学校関係者も驚く数字だったといいます。

中川修司校長
「生徒が非常に増えていますので、率直にまずうれしいことだと考えています」

○○○に全員行ける!

実は鹿追高校、かつて規模縮小の危機にありました。人口減少や少子化の影響で、生徒の減少が見込まれることから、北海道教育委員会は、学級減の方針を打ち出したのです。「自分たちの町の高校をなんとしても維持したい」。鹿追町では、高校の維持を図ろうと、町を挙げて支援に乗り出します。こうした中で始めたのが「世界に通用する人材を鹿追で育てること」でした。そして高校は昨年度、「生徒の全国募集」に踏み切ります。都道府県の枠を超えて高校に通うことができる「地域みらい留学」という制度に着目。高校では以前から道内全域の生徒受け入れを進めていて、現在、全校生徒169人のうち、半数が鹿追町外出身。出身地も札幌、群馬、青森、長野など、さまざまです。

とはいえ、なぜ全国各地に門戸を開いですぐに生徒が増えたのか。背景を取材してみると、1つのヒントがありました。それは、鹿追町内に掲げられていた1枚の看板。そこには、「さあ、世界へ 全員でカナダへ短期留学」と書かれています。鹿追高校では、鹿追町の姉妹都市のカナダの町に、生徒全員が2週間、留学できるのです。実際に、町外から入学した生徒たちに鹿追高校を選んだ理由をたずねると、口をそろえて「カナダ留学」という言葉が出てきました。渡航費用は1人2万8000円。費用の大部分は町が負担します。

このカナダ留学を柱に、英語教育に力を入れている鹿追高校では、英語好きの生徒が集まり、校内で英会話が自然に聞こえてくることも。私が高校を訪れた日は、英会話でのランチ交流会が開かれていて、ネイティブスピーカーかと感じてしまうほど流ちょうに英語を話す子どもたちの姿に驚きました。

あの手この手で支援

教育の特徴は、英語にとどまりません。生徒みずからが町の課題を分析して解決策を考える「探究学習」や、ICT=情報通信技術を活用した授業もさかんに行われています。町内には塾がないため、バーチャル空間で現役の大学生が勉強を教える「オンライン塾」の取り組みも。町と高校が一体となって、あの手この手のアイデアで「鹿追で高校生活を送ることのメリット」を生み出そうと工夫を続けているのです。しかし、高校生の留学って、鹿追じゃなくてもできるのでは?埼玉県からことし入学した浅野凌大さんに話を聞きました。

浅野凌大さん
「埼玉の高校だと全員がカナダに行くことは難しいと思います。鹿追高校は留学の金額も安いので、地域に支えてもらっていると感じます」

そのほかにも、入学準備金の支援や、大学進学費用の無利子貸付制度など、町による金銭面のサポートが充実していて、教育にかける町の本気度が伝わってきます。

充実のシェアハウス生活

さらに町が力を入れるのが、親元を離れて暮らす生徒たちの生活のサポートです。浅野さんが住むのは、かつて町営住宅として使われていた建物。学生寮の部屋不足を受けて、町が急きょ整備した生徒専用のシェアハウスです。

男女計12人が共同生活を送り、個室のほか、食事をとる共同スペースも完備。食事は町が雇ったスタッフが作り、にぎやかな光景が広がっていました。家賃も町が補助し、生徒側の負担額は朝晩2食付き・光熱費込みで、1か月3万5000円という充実ぶりです。

“未来への種まき”

留学やシェアハウスに、大学進学支援と、至れり尽くせりな支援。鹿追町が、高校の支援に費やす予算は年間1億5000万円近くに上ります。町一般会計の総額75億円余りから考えると、決して小さな額ではありません。ただ、私にはふと1つの疑問が浮かんできました。それは、卒業後の生徒のこと。高校3年間は鹿追にいるけれど、半数が町外出身ならば、町に定住しないのでは?高校によると、確かに卒業生のほとんどは、就職や進学で町を出て行っているとのこと。それでもなぜ支援を続けるのか。私は町長に質問を投げかけました。

喜井知己町長
「人口が減っていくのはどうしても仕方ないが、町から高校がなくなってしまうと、町が寂れていく危機感があって、町のにぎわいを保つためにも高校を守りたいというのがいちばん大きい。鹿追を第2のふるさとだと思ってくれる卒業生が日本全国で活躍して『自分は鹿追高校出身だ』と言ってくれれば、ものすごいうれしい。お金もかかりますけど、お金で高校は買えませんから」

鹿追町が続けているのは、要は「未来への種まき」だったのです。時間はかかるかもしれませんが、鹿追高校で学び、大人になった生徒たちがいつか、「第2のふるさと」に恩恵をもたらしてくれるかもしれないという期待が込められています。

埼玉県からやってきた浅野さんも、将来は海外で勉強したいと考えていて、卒業後は鹿追町を離れることになります。それでも、暮らし始めてまだ1か月の鹿追町は、すでに浅野さんの「第2のふるさと」になりつつあるようです。

浅野凌大さん
「いろんな人に支えてもらって自分のやりたいことができています。埼玉では絶対にできないような暮らしができるので、来て本当によかったです。本当によくしてもらっているので、自分も何らかの形で鹿追町に貢献できればなと思います」

全国各地から「自分のやりたいこと」を求めて鹿追町にやってきた高校生たちが、学校やシェアハウスで、希望に目を輝かせながら過ごしている様子を見て、「うらやましいな」と思う大人は、私だけではないはず。鹿追町の未来に向けた「種まき」が、少子化対策の1つの成功事例となるのか。生徒たちの成長とともに追いかけていきたいと思います。
 

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