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北海道の医療をつなぐメディカルウイング

  • 2024年5月10日

国内で初めて北海道で運用が開始された「メディカルウイング」。医療用の小型ジェット機で、難しい手術を待つ患者などを高度な医療が受けられる病院に運んでいます。病院に搬送する時だけでなく、処置を終えて戻る際の活用への期待も高まっていて、広い北海道の医療を支えています。

メディカルウイングとは

新千歳空港に到着した生後2か月の男の子。札幌で心臓の手術を終え、メディカルウイングで自宅のある函館に向かいました。メディカルウイングの運航は、道が医療関係者などでつくる団体に委託して行っています。7年前に国内では北海道で初めて運用を開始し、地域の病院では対応できない高度な医療が必要な患者を札幌などに搬送しています。機内にはさまざまな医療機器が設置され、医師や看護師が付き添います。

メディカルウイングを利用した家族は

メディカルウイングの重要性を実感したと話すのが、西山朋希さんの母親・ゆりかさんです。次男の朋希さんは生まれて間もなく心臓に疾患が見つかりました。当時住んでいた網走の病院では手術が受けられず、札幌に搬送されることになりましたが、ゆりかさんは札幌への長距離の移動に不安を感じていました。

網走から札幌までは、陸路だと通常6時間程度かかり、冬場だったのでさらに時間が必要で、朋希さんには大きな負担がかかります。この不安を解消したのがメディカルウイングでした。メディカルウイングを使った場合、移動にかかる時間は2時間半ほどで、陸路の半分以下になります。朋希さんはメディカルウイングで搬送され、無事に手術を終えました。手術後も医療的なケアが必要な中、メディカルウイングで家族が待つ網走に戻りました。

西山ゆりかさん
「手術後でやっぱり不安があったので、短い時間で子どもに負担がなく、自宅にまた戻ってこられたことは本当に助かりました。予想よりも早く家族の日常に戻れて、新しい朋希を迎えて、長男と4人でまた暮らすことができてよかったと思います。入院期間が長くなった場合、仕事のことなど、いろいろ不安がありました」

病院側も期待を寄せるメディカルウイング

2023年からは、処置を受けたあとに自宅に戻す際の復路にも道の予算が使われるようになりました。「バックトランスファー(戻し搬送)」と呼ばれ、往路とは異なり、これまでは企業からの寄付などでまかなわれていました。しかし、安定的な運用を目指して、15歳未満については道の事業として実施されるようになったのです。

こうした動きを病院側も歓迎しています。札幌市手稲区にある「北海道立子ども総合医療・療育センター(コドモックル)」は、道内で唯一の特定機能周産期母子医療センターに指定されていて、ほかの病院では対応ができない心臓や消化器などの難しい手術が必要な赤ちゃんなどを受け入れています。中村秀勝医師は、NICU=新生児集中治療室のベッドは常にほぼ満床状態で、新しい患者の受け入れに苦労してきたといいます。

道立子ども総合医療・療育センター 中村秀勝医師
「自分たちが子どもの命を守る最後の砦だという気持ちで受け入れています。地元に帰れる子は何とか帰して、陸路搬送ということになりますが、何とか戻してベッドをまわしていました。それもかなり大きなリスクになってしまうんですけれど、次に来る子、お子さんを取ってあげないと、その子の命に関わることになります」

移動の際の負担が少ないメディカルウイングを使えば、病院での処置を終えた子どもたちを以前よりも早く退院させることができ、ベッドに空きをつくれるようになりました。さらに、人口減少が進み、地域の医療体制を維持することが難しくなると予想される中、都市部と地方をつなぐメディカルウイングの役割はより大きくなると考えています。

道立子ども総合医療・療育センター 中村秀勝医師
「札幌と地方でやりとりしなければいけない患者さんが増えてくる可能性もあります。札幌への集約化、道央への集約化ということも当然進んでくると思いますので、そういうことを考えると、航空搬送を意識するのは北海道としては大変意味があるのではないかと思います」

一方で、課題として指摘されるのがコストです。道によりますと、メディカルウイングのフライトには1回数百万円がかかるということで、搬送の必要性などを慎重に判断したうえで、年間20回前後、利用しています。また、メディカルウイングとして使われているジェット機は別の用途でも活用されていて、ふだんは道外で管理されており、より柔軟に運用することができるよう検討が行われています。

取材後記

メディカルウイングへの関心を持ったきっかけは、体重2500グラム未満で生まれた「低出生体重児」の取材で中村医師と出会ったことでした。低出生体重児の中には高度な医療が必要な赤ちゃんもいて、全道から中村医師が所属する病院にさまざまな手段で運ばれてきていました。その1つがメディカルウイングでした。

メディカルウイングの役割は患者を高度な医療につなぐことですが、もう1つの大事な役割は家族をつなぐことだと中村医師は話していました。遠い札幌で治療を行うことで、その家族も大変な時間を過ごすことになります。心配や不安な気持ちはもちろん、子どもに付き添う間、親は自宅に残ったほかの家族と離ればなれとなったり、仕事を休んだりしなければならないこともあります。また、毎週末、車を長時間運転して病院を訪れる家族もいます。入院が長引けば長引くほど、家族の負担が大きくなっていきます。こうした状況の中で、心までも離ればなれになる家族もいるといいます。

必要な医療を受けられる病院に搬送するだけでなく、家族のもとにも送り届けるメディカルウイング。広い北海道では患者や病院だけでなく、患者の家族にとっても重要だと訴える中村医師のことばが印象に残りました。

  • 上野哲平

    室蘭局カメラマン

    上野哲平

    2010年入局 美唄市出身

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