NHK札幌放送局

苫小牧で指導者へ 元フィギュアスケーター武田奈也さん

渡邉 美希

2022年11月25日(金)午後0時58分 更新

やる気!元気!渡邉美希です。ウィンタースポーツのシーズンに突入しましたね。 フィギュアスケートをやるのも見るのも好きな私にとっては楽しみな季節になりました。 今回は、北海道で指導者として活躍する元フィギュアスケーターに取材させていただきました。 

憧れのあの人が苫小牧に

元フィギュアスケーターの武田奈也さん。
2007年のNHK杯フィギュアでは3位になるなどトップ選手として活躍。
長身を生かした1つ1つのジャンプが映える演技、しなやかなスケーティング、そして、なんといってもはじけるこの笑顔でも多くのファンに愛されました。
私もそのファンのうちの1人。
演技だけでなく、「奈也スマイル」と呼ばれた笑顔を見たくて何度も映像を見返していました。実は武田さん、今、北海道にいるのです。

2年前に苫小牧に移住 武田奈也さん

競技から退いた後は指導者の道へ。
関東を拠点にジュニア世代から大学生まで30人を指導してきました。

2年前には、長男の出産を機に夫がいる苫小牧に移住。
苫小牧では指導者はやらず、子育てに専念しようと思っていたそうです。
しかし。

関東時代の教え子2人も一緒に苫小牧に移住してきたのです。

“武田さんのもとで成長したい”という教え子たちの思いに後押しされ、
武田さんは、苫小牧の地で新たにクラブ(白鳥T・FSC)を立ち上げ指導を続けることにしました。現在は、4歳から20歳までの5人を指導しています。

“生徒も移住” 引きつける武田さんの指導とは

生徒たちが武田さんを慕う最大の理由。
それは、武田さんの「本音で伝える」指導にありました。

毎朝7時から始まる早朝練習。
武田さんのストレートな声がけが響き渡っていました。

武田さん
「スケートって本番で選手を送り出すとき先生しか近くにいない、リンクの中では一人だけなので信頼関係がすごく大事なものかなと。傷つけないように本当は違うのにやんわり伝えるように接するのは違うと思っています。信頼関係を築くなかで本当に上手だったら上手だというしできてなかったらできてないと伝えます。そうしたら、本人たちも信じてくれて、自分たちは上手いんだ!と思って試合に臨むことができると思うのでいつも本音で伝えています。」

武田さんが素直な言葉を伝える一方で
生徒からは苦手な技の修正ポイントや、メンタル面の課題など積極的に思いを伝える様子が何度も見られました。

武田さんに指導を受ける生徒たち

武田さんのもとには様々な思いで指導を受ける生徒がいます。
大学生の木南沙良さん。
高校生の時から武田さんの指導を受け、現在苫小牧で一人暮らしをしています。
どんな思いで移住したのか尋ねると、武田さんとの信頼関係の強さを感じました。

Q武田さんはどんな存在?
「先生に出会ったから自分はスケートを続けていると思います。
本当に人生を変えてくれた人というか、出会えたことが宝物です。」
Q関東でスケートを続ける選択は?
「それなかったです。100パーセント。
もちろん先生のもとを離れてほかのリンクで続けることはできたが、先生のもとだからスケートを続けるって決めているので、スケートをやめるか、ついていくかの2択でした。」
Q武田さんの存在で影響を受けたことは?
「自分は練習が嫌いでスケートに本気で向き合ったことがなかったんです。
でも練習やスケートへの向き合い方を教えてくれたり、先生が自分のことを諦めないでくれたりしたので、私自身も諦めないようにしなきゃと思うようになりました。
本当にやりたいことが見えてきて、今は楽しくスケートをしています。」
Q武田さんはどんな指導者?
「先生が親身になって日常生活からスケートの技術のことまで教えてくれます。
例えば、服装とかメイクとか、じゃあもっとこうしてみたらとか教えてくれたり、そういうところも気を遣うようになったり、それがスケートと直接つながっていると思われないかもしれないですが、日常から悩みやスケートの目標を話していることで先生との信頼関係ができました。」

こちらは東京から母親とともに移住してきた小学生の宮本琉花さん。
取材した際、宮本さんは1週間後に迫った全国大会に向けて課題に取り組んでいました。
ジャンプの前に力が入りすぎてしまい、きれいに着氷できずにいたのです。

そこで武田さんが伝えていたのが、毎日の練習を全力で取り組むこと。
大会を意識しすぎて力んでしまうため、本来の力が発揮できなかったのです。

武田さん
「とにかく頑張らないこと!琉花ちゃんは頑張っているから。
これだけ必死に毎日やっているから、頑張らないことをやってちょうどいいくらいだから。」

練習の時だけでなく、携帯電話でメッセージを送り、細かくコミュニケーションをとっていました。

武田さんが宮本さんへ送ったメッセージ

生徒には“自信をもってほしい”という武田さんの思い。
その言葉を信じ、前向きに練習に励む宮本さんの姿はとても印象に残りました。

競技者として大切にすることは

生徒たちのレベルアップに向け、指導に当たる武田さんですが、伝えていたのは技術面だけではありません。スケートの指導を中断してまで伝えていたのが『礼儀の大切さ』です。

武田さん
「先生には約束があるの。挨拶をすること、返事をすること。返事をしていなかったのは、何回目かわかる?できていないのは3回目だから、きょうはレッスンはできなくなるよ。上手になる前にスポーツ選手の前に、人としてあいさつと返事はしないといけない。どれだけうまくても挨拶できなかったらすごくもない。返事ができないんだったらスケートを頑張っていてもうまい人になれないよ。」

この言葉の裏には、ある願いも込められていました。

武田さん
「もちろん上手い選手になることは大切ですが、多くの方に愛されるスケーターに育ってほしいと思っています。そのためには技術だけではなく、当たり前のことをやらないといけないし、人としても成長しないといけないなと感じているので、大学生でも小学生でも年齢は関係なく、礼儀やスケートへの向き合い方はしっかり伝えるようにしていますね。」

多くのファンに愛されてきた武田さんだからこそ、伝わる言葉の重みも感じました。

左が武田さん 右が宮本さん

厳しさをもって生徒に接する武田さんですが、練習が終わると・・・。
分け隔てなく控室で楽しく会話をしたり、音楽に合わせてノリノリにダンスをしたり、遠征時には一緒に観光に行くこともあるのだとか。
距離感の近さも信頼関係の構築につながっていると思いました。

二人三脚でつかんだ栄光

10月22日、札幌市の月寒体育館で
『全日本ノービスフィギュアスケート選手権』が開催されました。
去年に続き、宮本さんは地区大会1位で通過し、今年も出場しました。
目標に掲げたのは、「ノーミス」と去年の15位を上回る「入賞」。
しかし、宮本さんは演技前、グループの6分間練習で普段はあまり見られないようなジャンプのミスがでてしまい、表情も暗く、いつもの笑顔は一切なくなっていました。
その様子を間近で見ていた武田さん。ここでも単刀直入に言葉を伝えていました。

武田さん
「すごく緊張している感じがして1回喝を入れなきゃなと思って・・。
もうちょっとできたと後悔するのはもったいないので、100パーセントやって失敗したのは練習すればいいけど緊張に負けて失敗して、もうちょっとできたなと思うのはもったいないので、『ノービスで今ある力を出せないとジュニアではもっと無理だから力を発揮しよう』と伝えました。」

すると、練習時の緊張した様子とは一転、
本番には、宮本さんの生き生きとした表情がありました。
練習してきた難関のジャンプも力を入れすぎず、すべて成功。
ステップも軽やかに滑りきりました。
演技後には、宮本さんが武田さんのもとに駆け寄り、抱き合う姿が。
武田さんの目には涙があふれていました。

結果は女子ノービスA 3位!全国の舞台で初めて表彰台に上がりました。

宮本さん
「ミスなく演技ができ、うれしくて先生に飛びついちゃいました。
先生の涙が悔し涙ではなく、うれしくて泣いていてよかったし、うれしかったです。
大会はとても緊張しましたが、武田先生が“自分のやってきた練習を信じて”と言われたので自分を信じることができました。これからもやるべきことに集中してここから上手な選手の仲間入りをしていきたいです。」
武田さん
「感動しました。自分のことのように嬉しかったです。
すごく緊張感は伝わったし、その中でこの演技ができたのは練習の賜物かなと。
(Q涙のわけは?)よくここまでなったなと、強くなったなと思いました。
これからも生徒と向き合ってたくさん試合でよい経験を積ませてあげられるコーチになっていきたいです。北海道で今海外試合に行く選手は少ないと思うので北海道でトップ選手を輩出していきたいと思います。」

放送では伝えられませんでしたが、武田さんにはもう一つの大きな夢があります。
それは、教え子とオリンピックに出場することです。
今年開催された北京オリンピックで恩師の岡島功治コーチが教え子の樋口新葉選手と喜びを分かち合っている様子に感化されたといいます。

武田さん
「(オリンピックの)キスアンドクライで岡島コーチが生徒と喜んでいるのを見て、自分も生徒と喜びを分かち合いたいなと。岡島さんから“奈也の生徒が活躍するのを楽しみにしているよ”とメッセージを頂き、新たな目標ができました。現役の時よりもオリンピックへの意識は強くなりましたね。オリンピックに行った選手も小さいころから見ているのでどれだけ大変なのか見ているし、先生も引っ張っていくのがすごく大変だと思います。この発言も責任感が大きいと思いますが、生徒と一緒に頑張りたいです。」

北海道から世界へ。
今後の武田さんのコーチとしての挑戦に注目です。
フィギュアスケートで北海道、全国を盛り上げてほしいですね。

最後に・・・
武田さん、生徒の皆さん、大会前のお忙しい中、いつも笑顔を絶やさず、取材にご協力いただきありがとうございました。
練習の合間には、何度も取材陣に対し、“寒いですよね・・!風邪ひかないでくださいね。こっちで温まってくださいね”など声をかけていただき、温かい心遣いに心がほっとしました。これからもご活躍を祈っています。

練習取材の時の一枚。
(左はひたむきに練習していた小関夏帆さん。真ん中は全国3位の宮本琉花さん。)

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