NHK札幌放送局

みなさんはパラアスリートを何人知っていますか?

瀬田 宙大

2021年9月6日(月)午後4時40分 更新

東京パラリンピックの開会式翌日、大会2日目となる8月25日の午後7時半。NHK東京2020パラリンピック放送スペシャルナビゲーター 嵐の櫻井翔さんは冒頭こう呼びかけました。❝みなさん、パラアスリートを、何人知っていますか?その答えは、今日とパラリンピックが終わる9月5日では、全く違うと思います。白熱の競技はもちろんですが、パラアスリートひとりひとりの人生の物語も魅力にあふれています。これからの12日間、いっしょに楽しんでいきましょう❞  さて、東京2020パラリンピックが閉幕したいま、みなさんに変化はありましたか?

願うのではなく、みずから変える

パラリンピックの中継放送を担当することになり、私はNHKのこれまでの放送やパラリンピック特設サイトに掲載されている選手のみなさんの言葉をひとつひとつをメモにしました。するとある共通点が見えてきました。それは、皆さん「変わることを願う」など受け身ではなく、「社会を変えたい」「パラスポーツへの興味をより感じてもらえるようにしたい」など、自らの姿や生き方を通して「変えたい」「変える」と力強く発言していることでした。日本代表だけではなく160を超える世界各地の国や地域などから集まった4400人あまりのアスリートひとりひとりが同じような思いを持って競技に取り組んでいたと思うと、多くの共感を呼んだことは必然だったと感じています。開催に賛否がある中ではありましたが、アスリートが見せてくれた姿はそれとは分けて記憶に刻まれて欲しいと心から思います。

共通点を探すとより存在が身近に!

準備をしながら、私はある悩みを抱きました。それは、どのようにしたらパラスポーツ、アスリートの皆さんをより身近に感じてもらえるのか―。この問いと向き合いながら、ふたりのパラアスリートの名前が頭に浮かびました。ひとりは初任地・長崎局時代に取材をした長崎市出身 義足のプロボクサー土山直純さん。海外にわたりプロボクサーになる夢をかなえました。「諦めさえしなければ人生に負けはない」という思いを、母校や長崎の海を前に何度も伺いました。もうひとりは、今大会5つのメダルを獲得した浜松市出身 競泳の鈴木孝幸選手。静岡局時代に番組でインタビューをさせて頂きました。分析的に静かに語る鈴木選手でしたが、言葉の強さとあふれ出る気迫は今でもよく覚えています。お二人にお話を伺った際、同じ地域で生きていることを誇らしく思いました。我が町のアスリートだと知ってもらうことがその一歩になるのではないかと考え、放送では可能な限り出身地をお伝えするようにしていました。
放送しながら私も、ゆかりの地に新たな憧れのアスリートを数多く見つけることができました。

初任地・長崎の出身選手

鳥海連志 選手(車いすバスケットボール)
車いすの片輪を上げるティルティングで自分よりも体の大きい海外選手と競り合うなど気迫あふれる姿を見せた一方、コートから離れてインタビューに答える際には「トリプルダブル…すごいですね」とプレイに集中していたからか、自らの活躍をインタビュー中に認識した素振りを見せた鳥海選手。鋭さと隙のある表情。そのギャップ、人柄も含めて魅了されました。番組でご一緒したシドニー大会の日本代表キャプテンの根木慎志さんがリオからの5年での成長をたたえていましたが、これから3年でさらに、どのような飛躍を見せるのか楽しみになりました。

次の勤務先・静岡の出身選手

杉浦佳子 選手(自転車)
25日に女子個人パシュート運動機能障害のクラスの予選で5位となり敗退した直後「この悔しさは『ロードで見てろ』という感じです」と語り、その言葉通りに女子個人ロードレースで2冠を達成。有言実行の強さはもちろんですが、「最年少記録は二度とつくれないが、最年長記録はまたつくれる」と力のある言葉を届けてくれました。素晴らしいレースと勇気をくれる言葉をありがとうございました。

杉村英孝 選手(ボッチャ)
個人で初めての金メダルを獲得した杉村選手。日本代表のボッチャチームの正確無比な投球の連続にしびれましたが、中でも杉村選手のビッタビタの投球には何度もうなってしまいました。頭の中に描いたゲーム展開を100%再現するための努力を想像するだけでも頭が下がります。また杉村選手も参加した団体では銅メダルを獲得。コロナ禍のなかオンラインで戦術を磨いた日々が結果として結実して本当によかったなと思わず涙があふれました。杉村さんが今大会の目標として掲げた「過去の自分を超えていく」という言葉も心に残りました。

3つ目の勤務地・関東出身の選手

秦由加子 選手(トライアスロン)
前回のブログでメダルを獲得した宇田選手について触れましたが、トライアスロンに注目するきっかけをくださったのは秦選手でした。大会前に行われたオンラインイベントの中で「完走したすべての人が勝者。ゴール後に他の選手を待ち、互いに健闘をたたえあう。その様子も含めて競技として届けたい」と仰っていました。その言葉を胸にテレビで視聴したトライアスロンは生涯忘れることはないと思います。よく知った街を駆け抜ける姿は今後もたびたび蘇るでしょう。前回に続いて6位という記録について、レース後「悔しさを秘めて一つでも順位を上げたいと練習してきたが世界は強かった。今日の負けを今後の励みに、彼女たちが私たちの可能性を広げていってくれるので私も負けないように頑張りたい」と前を向きました。互いを尊敬し、競い合える環境があることへの喜びを口にする様子が印象に残りました。本当にお疲れ様でした。

現在の勤務地・北海道出身の選手

辻沙絵 選手(陸上)
28日に行われた女子400メートル腕に障害のあるクラスで5位となった辻選手。競技場を去る際に、深く一礼をしました。その後のインタビューで息を切らしながら「うまくいくことばかりではなかった5年だったが、家族や友人、応援してくれる人たちのおかげでこの舞台に立てた。メダルには及ばなかったが自分の持てる力は120%出せたと思う」と振り返りました。その言葉通り精一杯腕を振ってフィニッシュした姿に覚悟を見た気がしました。辻選手はリオでのメダル獲得後、講演活動などで多くの子どもたちとも触れ合ってきました。きっと多くの子どもたちがテレビに向かって声援を送っていたと思います。日常的に関りを持つ、直接言葉を届ける活動の意義を感じたレースでもありました。

この他にも、心に残った言葉は数多くあります。新たに覚えた選手も数多くいます。放送を通じての出会いですが、これからもアスリート、パラスポーツを応援していきます。みなさんもご一緒にいかがですか?

受け止める力

今回、アナウンサーは男女ペアを組んで放送にのぞみました。私は計5日間、オリンピックの開会式からパラリンピックの閉会式まで、TOKYO2020のすべてを目撃してきた和久田麻由子さんとスタジオを共にしました。ずっとこのスタジオで競技を見続けてきた和久田さんのおかげで、大会の全容も知ることができました。ひとつひとつの言葉を等身大で受け止め続け、自分なりに言葉を返す姿に、後輩ですが頼もしさを覚え、大いに刺激をもらいました。その彼女が、閉会式の最後に語った「今度は私たちの番」という言葉は、今回パラリンピック放送に携わった仲間全員の思いでもあります。社会が変わるのを待つのではなく、ひとりひとりの中に芽生えた小さな思いを、ひとりひとりが行動に移すことで社会を少しずつ変えていく。将来、振り返った時にその大きな分岐点がTOKYO2020だったとしていきたいですね。

追記:

わずか数ヶ月、アスリートの人生とひたむきな姿を見つめただけでもこんなに胸が熱くなるんだから、10年という歳月見つめ続けた嵐の櫻井さんの思いが強いのは納得で、涙にも共感しました。思いをのせた櫻井さんの言葉にはアスリートの顔を思い浮かべながら発する優しさを覚えました。対象者と心をかわすことで言葉は強くなるということも印象に残った大会でした。よし!北海道でまた頑張るぞ!

2021年9月6日

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