NHK札幌放送局

ローカルフレンズ訪ね旅 #4 広尾町 明るい未来へ

瀬田 宙大

2022年9月13日(火)午後3時54分 更新

今月10日。
中秋の名月を見上げる、十勝・広尾町の地域活動団体ピロロツーリズム推進協議会・通称ピロロのメンバーらを写した一枚です。
ピロロは漁家、酪農家、地域おこし協力隊らが中心となり、町の内外に広尾の魅力を伝える活動を続けている団体です。
原点となる活動からことしで10年目。精力的に活動するメンバーのもとを訪ねました!  

「訪ね旅」とは

地域活動をしている人を紹介したり応援したりするローカルフレンズプロジェクト。取り組みの過程で出会った人のもとを私が訪ね、その人の活動や地域の魅力をお伝えするのが「ローカルフレンズ訪ね旅」です。

≪ほっとニュース北海道での放送の記録≫
▼道北の上川町&遠別町(22年3月31日)
▼十勝の士幌町と上士幌町(22年6月3日)
▼胆振の厚真町(22年6月24日)

漁師との待ち合わせ場所は高校?

今回、待ち合わせの約束をしているあては漁師さん。
そこで、私が訪ねたのは海!!

…ではなく、町の中。しかも高校です。

いったいどういうことなのでしょうか。

今回約束をしていた漁師・保志弘一さん。
7月から8月にかけてローカルフレンズ滞在記で、地域の案内役=ローカルフレンズを担いました。

≪保志弘一さん≫

保志さんは、三代続く漁家。コンブやツブをとっています。
6次化にも力を入れていて、乾燥コンブのほか、出荷の際にどうしても出てしまうコンブの切れ端などを粉末状に加工した製品も製造・販売しています。
さらに大学生のインターンや観光体験者の受け入れも積極的に行うなど、忙しい日々を送っています。

今回、なぜ待ち合わせ場所が高校だったのか。
お話を聞くと、保志さんのもう一つの顔が見えてきました。

保志弘一さん
漁師の他に地域活動にも力を入れているんです。
きょうは酪農家や地域おこし協力隊の観光担当や狩猟免許を持っている商品開発担当のメンバー、ブライダル業界の経験がある新メンバーらと一緒に高校で授業を行います。
きょうはその様子を見てもらおうと思っています。

保志さんが地域活動に本格的に取り組み始めたのは2013年。
いまも活動をともにする酪農家と出会ったことがきっかけでした。

≪ピロロツーリズム推進協議会のメンバー5人≫

2019年にはピロロツーリズム推進協議会という団体を新たにつくり、生産現場を観光資源として捉えた体験プログラムの企画・提案・受け入れを行っているほか、新たな特産品の開発や広尾町の情報発信にも力を入れています。

漁業×観光 
ピロロが高校生に伝えたいこと

ピロロは活動を始めた当初から、子どもたちや教育現場とのつながりを大切にしてきました。ことしはそれらの積み重ねをベースに、さらに取り組みを深化&進化!!初めて、7月から11月にかけての連続授業の講師を担当することになりました。

きっかけをつくったのはメンバーのひとりで、ことし春に地域おこし協力隊としてやってきた磯野巧さんです。

≪磯野さんと広尾高校 相馬良美 教諭≫

地域おこし協力隊になる前は、研究職として地域観光のマーケティングや分析を主に行ってきました。
その経験を生かし、授業の内容やテーマを決定。
広尾高校の相馬教諭に提案し、地域を学ぶ授業として採択されました。

授業の最終的な目標は、高校生が漁業を活用した体験型観光ツアーを考案し、実際にお客さんを迎えてツアーを行うこと。
そのために、地域の漁業の現状をデータや歴史で学んだり、実際に保志さんの作業場でコンブを干すなどの仕事を体験したりしたほか、観光についても学んできました。

磯野さんは、これらの課題を通じて、将来の選択肢を増やしたいと考えていました。

磯野 巧さん
経験上、一次産業が強い地域は、あまりに身近過ぎることから魅力や強みを十分に理解していない人が多いんです。それはもったいないなというのがまずあります。
さらに広尾町は高校よりも上の教育機関がないので、卒業と同時に町外へ出る人が少なからずいるんですね。出ていった先で町について語れるようになってほしいですし、知ってさえいればまた戻ろうという選択肢も生まれると思うんです。
その為にも、単発ではなく、連続した授業。しかも、自ら観光ツアーをつくるところまで挑戦することで心に刻まれることがあるんじゃないかなと考えて取り組んでいます。

私が取材に訪れた9月8日は4回目の授業日。
これまでに学んだことを生かして、ツアーのメニューを具体的に考えていました。

およそ20人の生徒は3つの班に分かれてプランを練ります。

各班には漁業者のほかピロロメンバーもメンターとして参加。話し合いの結果、以下のようなツアーの案が提案されました。

①漁船でドキドキ 〜船の思い出ツアー〜
②使っていない魚使おうよ!ツアー
③昆布を感じようツアー

今後、実際にツアーとして実現するためにクリアすべき課題を洗い出し、本当に実現可能なのかなど具体的に検討を進め、11月にツアーとして結実させる予定です。

参加した高校2年の生徒たちからは気づきが多かったという声が聞かれました。

漁船でドキドキ! ~船の思いでツアー~ 班代表
もともと広尾町は漁業や海で有名ですが、こうして漁師の方と話をすることで理解が深まりました。僕たちの班では漁船にイルミネーションを施し、それを見ながら食事を楽しむという案を考えました。生まれ育った広尾町を今後も残していったり、盛り上げたりすることにつなげていきたいです。
使っていない魚使おうよ!ツアー班代表
広尾を代表するししゃも漁を軸に考えました。
驚いたのはししゃもの割合。自分が思っている以上に少ないことがわかりました。まさか網の中の9割が未利用魚で、ししゃもはわずか1割だとは思っていませんでした。
使っていない魚使おうよ!ツアー班代表
そもそも親戚など身近に漁師さんがいないので、今回、ほぼ初めて直接話を聞きました。そんなに未利用魚が出ているとは知らなかったので、そうであればツアーに組み込んで漁業者の助けになり、地域の人も嬉しいものにできればと考えました。
昆布を感じようツアー班代表
僕たちは授業で体験させてもらった、コンブ漁に使う「マッケ(長さ50センチほどの錨型のカギ針がついた道具)」投げをみなさんにも体験してもらうなど、コンブ漁を感じてもらえるツアーにしたいと考えました。
こういう機会がなければ漁について関心を持つこともなかったので、いい経験になりました。
昆布を感じようツアー班代表
自分の知らない広尾のいいところとかがたくさん出てきたので、それだけでもいい経験になりました。こういうアプローチをすることで自分の暮らし方や町の見え方が変わるんだなということも知りました。

この授業を取材して、正直こんな気持ちが…。

なんて難しいことを課題にする人たちなんだ

授業終わり、保志さん達にそのことを伝えると、こんな答えが返ってきました。

≪左から 磯野さん 保志さん 菊地亜希さん 黒子真侑さん≫

磯野 巧さん
確かに難しいテーマですし、ツアーとして結実させるのは簡単ではありません。でも、だからいいんです。
単なるインプットよりもアウトプットまでつなげることでいつまでも記憶に残るようなものになると思うんです。授業を通じて得た経験値や現場に足を運んだ感覚値も含めて、将来振り返ってもらえる学びにしたいと思っています。頑張ってほしいですし、サポートはしっかりします!
保志弘一さん
漁業の町ではありますが、漁師の家庭の割合もだいぶ少なくなりました。だからこそいま一度、接点が少なくなった産業に触れてもらうことで、町の特徴を捉えて欲しいなと思っています。
このところ思ったことが形になるという経験をたくさんしました。それがとにかく面白いと僕は思っているんです。
社会に出ると答えのない問題と向き合わなければならないですよね?その時に考えて、チャレンジできる人になって欲しいので、その経験値になったらいいなと。変化の大きな時代で生きていく為には目の前を見つめて柔軟に向き合い続けるというのは必要な力だと思いますから。

地域活動10周年
ピロロの原点 牧場舞台のフェス

保志さんに活動を続けて来られた理由を聞くとこんな答えが返ってきます。

同志である菊地亜希がいたからです

≪保志さんと菊地さん≫

菊地さんは14年前に夫婦で新規就農した酪農家。
酪農についてもっと楽しみながら知る機会をつくりたいと牧場に人を呼ぶピロロフェスの企画書を書き上げ、2013年に初めて開催。保志さんと菊地さんが出会ったのもこの頃です。

その時から数えてことしは活動10周年の節目となります。

ピロロの代表も務める菊地さんを、メンバーらはこう評します。

保志弘一さん
町外から来たのに、誰よりも地域をなんとかしたいと語り、声を上げ続けるのは立派ですよね。地元で生まれ育った自分としては、その声にこたえたいですし、こたえないといけないと思います。
亜希さんは面白い人を次から次に引き寄せる、”人間キャッチャー”のような存在。挙げればきりがないほど人を引っ張ってきますし、どんどん行動するので、この人となら何か新しいことができるとずっと思っています。
そんなボスです。
磯野 巧さん
無言実行タイプの人ですね。
口では誰でも綺麗事は言えるんですけど、いろいろと大変なことがわかっていても、行動に移せるかどうかで地域活動への情熱や本気度ってわかると思うんですが、文句なしに伝わってくる感じ。
指示するだけの上司、リーダーではないので、やんなきゃな!と率先してみんなが動くことで、チームとして機能している感じ。
なので欠かせないボスです!

みんなが口をそろえてボスと語る菊地さん。
この10年、さまざまな取り組みを仕掛けてきました。

≪菊地ファームから見える星空≫

きれいな星空を見つめる無音イベントを開いたり、地域の子どもたちを牧場に招いて牛とふれあい、名前をつけてもらったり、給食で菊地ファームの牛乳を提供したりと、挙げればきりがありません。

それでも、なかなか理想には近づけていないと語ります。

菊地亜希さん
新規就農した時に私が感じた町の持つポテンシャル、町で暮らす人の魅力が、町内にも町外にもいまひとつ伝わっていないなというのはいまも感じています。あえてゴールをと聞かれるなら、私の認知と周囲の認知が一致した時じゃないですかね。
ピロロはその目標を達成するまで緩衝材として機能していきたいですし、外からの人を受け入れたり、町の特に若い世代に魅力を伝えたりして、もっともっと「誰もが思いを実現できる町」にしたいと考えています。

菊地さんはたびたび「まだまだ」と語りますが、その思いは少しずつですが確実に伝わり、多くの人に影響を与えています。

今月1日から新たに広尾町の地域おこし協力隊としてピロロメンバーに加わった黒子真侑さんも影響を受けている一人です。

黒子真侑さん
酪農家と漁師。同じ一次産業とはいえいわば異業種の人が一緒に活動すること自体すごいことだと感じています。
しかも、授業をして、雑誌をつくり、イベントを開いて本業もやる。その様子を見て、自分もいろいろなアイデアややってみたいことが浮かんできました。
前職のブライダル業界でもアテンドもしていたので、そういった経験も生かせるという思いもありますが、それ以上に楽しそうだなというのが素直な思いかもしれません。
私の中で、誰と働くのかはとっても大切なポイントだったので、10年ですか。お互いに信頼しながら、しかも新しいメンバーも快く受け入れて前に進む様子を知れば知るほど「このチーム、いいな」と思って、「よし、やろう!」と決めて応募しました!

≪東京の書店でも販売される広尾町のガイドブック≫

他にも、ことし4月にピロロが発行したガイドブック『PIRUY(ピルイ)』の編集長を務めた地域おこし協力隊の中村麻矢さんや、高校での授業を中心になって進めた磯野さんも「活動の母体があること。10年という実績があること。地域においてこれらがあるかないかは本当に大きな差があって、これまで二人が積み上げてきたことが確実に力になっている」と話しています。

≪左から二人目が 中村麻矢さん≫

さらに若い世代からも。

来年春に卒業を控えた高校3年生。
今月18日、10周年を記念して菊地さんの牧場で開くイベント「ピロロフェス」で飾る麦わらアートの製作にボランティアとして参加したメンバーです。

参加した生徒からは、こうした発表の場を用意してくれた菊地さんたち実行委員会のメンバーに対してこんな声が聞かれました。

広尾高校3年生
近くに住みながらこうやって牧場に来ることは今までなかったので本当に新鮮でした。きれいでいいところだなと思って、また来たいと思いました。
広尾高校3年生
参加してよかったなと思いました。
きっとこの経験は将来にも生きると思います。進路の希望は町外なのですが、また戻ってきたいなという気持ちを持つことができました。心をいやす空間や自然が近いのは魅力的ですよね。

次の10年に向けた大切な1年。菊地さんは次へのステップを祝う10周年のピロロフェスが盛況のうちに終わることを願っています。

ピロロフェス2022
9月18日(日)午前10時~午後4時まで(販売ブースは午後3時半まで)
会場:菊地ファーム(広尾町野塚11線6番地2)
ステージイベントの他、飲食・雑貨の販売あり

全力で駆け抜ける保志さんを追って

ところで、今回の取材中「ちょっと抜けます!」とたびたびその場をさる保志さん。忙しい人だとは聞いていましたが、その忙しさは半端ではありませんでした。

保志さんは、メディアの受け入れに当たって決めていたことがありました。

それは、絶対に本業で手を抜かないこと。

どんなにいいことを言っていても本業をおろそかにしては地域の信頼を得られないという覚悟からでした。

その言葉通り、たとえば高校での特別授業の前には早朝からコンブ漁に。

授業後も作業へ。
天日干ししていたコンブの片付けです。

さらに、今後の新たな活動に向けて様々な企画書を仕上げたり、隣町に会議に出かけたり、オンライン配信のゲストとしてイベントに参加したりしながら私の取材にもこたえるという怒涛のスケジュールをこなしていました。

その忙しさは周囲から「保志さんが寝落ちしていたり、休んでいたりすると安心するんです」という声が聞かれるほど。

なぜそんなに頑張れるのか聞くとこんな答えが返ってきました。

保志弘一さん
本業である漁業でもまだまだやりたいことはあるし、自分が経験した「挑戦して実現させる」ということを地域の子どもたちにもっともっと味わってほしいと思っています。
みんなも話していると思いますが、町を出る子どもたちには、希望をもって、地域を好きなまま前向きに出ていってほしいんです。いろんな形で関わらせてもらった子たちが夢を胸に挑戦する様子を見守ったり、町を出る決断をした子たちを見送ったりすることに喜びを覚えるようになったんですよね。10年たって、20代からアラフォーに。その変化なんですかね?
そして、ことしはピロロにとっても変化の年。新たに加わった若い世代3人のやりたいことも応援したいですし、一緒にどんなことができるのか今からわくわくしています。
でもやりたいことばかりはできないので、地域のいち漁業者としても100㌫でなければならない。ただそれだけです。不器用なので全力でぶつかるのみです。楽しい人生にするかどうかは自分次第ですよ!

保志さんをはじめ広尾町のみなさま、お忙しい中、取材にご協力いただきありがとうございました。今回の取材内容は、9月16日(金)のほっとニュース北海道でお伝えします。

また、まだまだ伝えきれていない広尾町の魅力がありますので、また来週にでもご紹介します。

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2022年9月13日 瀬田宙大


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