NHK札幌放送局

広尾町 牛乳の価値をアップデートさせたい

瀬田 宙大

2022年7月4日(月)午後7時28分 更新

この週末、十勝の広尾町へ行ってきました。
放牧で乳牛およそ100頭と暮らす菊地亮太さんと亜希さん。
ふたりがこの地で実践するのは牛にも優しい酪農です。生産者として、人として、この場所で生きているからこそ伝えられるメッセージがある。牛乳の価値をアップデートしたいと様々な取り組みを行っています。
生産者としての思いをインタビューをしていたら亜希さんから驚きの発言が…。
「わたし牛乳が苦手だったんです」
そんな酪農家さんがいたなんて、私、ビックリしました!

帯広畜産大学出身で2009年に新規就農した菊地さん。
2018年には加工施設を備えたカフェもオープン。自ら育てた牛の牛乳や、ジェラート、ソフトクリームのほか、経産牛を使ったメニューを提供しています。

牛の世界に思いを巡らせて

放牧場と牛舎にはゲートがなく、牛が自由に行き来します。
牛の世話をする亮太さんはその理由をこう話していました。

菊地亮太 酪農というと皆さん放牧は当たり前だと思うかもしれませんが、実際にはそんなことはありません。ただ私が酪農家になるなら、思い描いた景色をつくりたいと思ったので放牧にこだわりました。実際に放牧するといろんな発見があります。例えば、牛舎に残っているのは比較的若い牛が多いんです。牛の世界にも先輩後輩があって、先輩が放牧場に草を食べに行っている間は若い牛の天下なので、普段の窮屈な思いを解消しているのかもしれませんよね。

※右奥に見える三角屋根が牛舎 仕切りがないフリーバーンで牛がのびのび過ごしている

菊地亮太 コロナ禍になってソーシャル・ディスタンスという言葉が皆さんも知るところになりましたけど、牛たちにも社会的距離があるんです。心地いい距離感をそれぞれが保っています。先輩後輩関係とかちょっかい出すのが好きな牛とか、それぞれ個性があるし性格があります。それを大切にしながらパートナーとして一緒に暮らしたいんです。人間の仕事は増えますけど牛には自由を可能な限りあげたいと思っています。

大きかったのでマツコにしました

菊地さんたちは1頭1頭に名前をつけています。
自分たちで名付けた牛もいれば、広尾の小学生が名付けた牛もいます。

こちらは目元にお化粧をしているような顔が特徴のモコナ。
こちらが背を向けると少しずつ近づいてきますが、目をじっと見つめると距離を保ちます。牛と初めて「ダルマさんが転んだ」を楽しみました。

頭の白いハートがかわいいトロ。
じーっと見つめてきたので、その様子を撮影しました。

好奇心旺盛なヒナコ。
私たちの撮影にも興味津々で、おそらく放送にも登場します。

亮太さんは「個性があることを尊重するものでもあり、お世話をする私たちスタッフにとってもモチベーションになります」と話していました。

もともとは牛乳が苦手だったんです

今回、私がこの牧場を取材することになったのは、東京・吉祥寺に全国各地の放牧牛乳を扱う専門店が先月新たにできたのがきっかけでした。もともと100年続く牛乳屋さんが現代にあわせた進化を遂げ、牛乳をもっと楽しむ文化を広げたいと取り組みを進めています。

「牛乳の価値観をアップデートしたい。そのためにも牧場を身近に感じてほしい」という思いで放牧にこだわり、自ら加工もする菊地さんたちがその東京の店に牛乳を出荷するのはもはや必然だと感じました。

そんな亜希さんと東京の店をつくった人にはある共通点がありました。
それが、「牛乳が苦手だった」という過去です。

では、亜希さんはなぜ酪農家になったのか。
そう聞くとこう返ってきました。

菊地亜希 牛がかわいかったからです。

なるほど~。
では、いつから苦手ではなくなったのでしょうか。

菊地亜希 牛乳が白い冷たい飲み物ではないと知った時からです。私は千葉県出身で、牧場の様子を知る由はありませんでした。もっと正確に言うと、知っていてもちゃんと思いを寄せて理解はできていませんでした。でも、牧場で牛と一緒に過ごすと、私たちが飲ませてもらっている牛乳は仔牛を育てるために母牛が一生懸命出すミルクで、それをわけてもらっているんですよね。そのぬくもりを身をもって知ったらすべて変わりました。
菊地亜希 草を食べて育つ牛のミルクは季節によって味わいが変わります。私はこの牛乳が好きですし、多くの人に飲んでもらいたい、知ってほしいと思っています。苦手だったからこそ伝えられることがある。生産者だからこそ生産地から発信できることがある。それが今の思いです。

自分と同じように苦手意識を持っている人がいれば、その感覚に変化を促したい。牧場の姿を伝えることがきっかけになるのではないか。牛乳の価値観をアップデートするために生産者としてできることを積み上げたい。

たくさんお話をする中で、そんな強い思いを感じました。

ちなみに、東京の店を作った人の牛乳感を変化させたのも北海道。旭川の放牧牛乳を牧場で飲んだのがきっかけだったといいます。

近く、亜希さんは同志3社が共同で発売する新たな製品をもって吉祥寺へ。その様子も交えて、7月中旬のほっとニュース北海道でお伝えします。

行って分かったこと。
それは、広尾がいま面白い!ということ。

菊地さんのカフェで見つけた一冊の雑誌。
牧場の様子が表紙を飾っています。

人情ガイドブックを名乗るPIRUY(ピルイ)という雑誌です。

広尾の今がわかる写真と記事が並び、心地よく情報が入ってきます。ページをめくるごとに知らなかった広尾町の日常や活動者の姿が続々。あっという間に読んでしまいました。

編集長を務めるのは、広尾町に移住した猟師でライター・編集者の中村麻矢さん。私たちが菊地さんを取材中、カフェで作業をしようと牧場を訪れていました。お人柄がにじみ出ている中村さん。直接お話をして「こういう人だからこういう雑誌になったんだな!」と妙に納得しました。

たった1回の訪問ですが、断言します。

広尾町、いま、きてます!!

2022年7月4日 瀬田宙大

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