NHK札幌放送局

コロナ禍を照らす人・伊藤翔太さん

瀬田 宙大

2020年12月28日(月)午後1時53分 更新

新型コロナで楽しみが次々となくなり、予定がほぼ全て崩れた2020年。メリハリがなく気がついたら師走になっていました。しかも、ことしも残すところ1週間あまり。ため息が出ます。でも、この一年が残念だったのかというとそうでもありません。逆境をはねのけ、時代という波を乗りこなしたり、みずから新たな波をつくりだしたりする人と数多く出会った刺激的な一年でもありました。なかでも、道独自の緊急事態宣言が出されたころに出会った、伊藤翔太さんの存在は大きく、心が砕かれかけていたコロナ禍、一筋の光を見たような気がしました。そんな伊藤さんに、ことし最後のロケ、年明け最初の放送にご協力いただきました。

伊藤さんはトリプルワンという会社の代表です。

「面白いことしかやりません」をテーマに掲げ、タレントのマネジメントや、映像制作、宣伝コンサルタントを行っています。

道独自の緊急事態宣言が出された当時、伊藤さんはあるクラウドファンディングを立ち上げました。飲食業界を支援する「前売りチケット」を購入するというものです。その後、各地で同様の取り組みが行われました。

当時、伊藤さんがどのような思いで取り組みを始めたのかは、ほっと通信(98)で紹介しています。

改めて、伊藤さんが何を見て、どのように考えて行動したのか。動くきっかけになった現場で聞きました。

―――ここは、伊藤さんにとってどういう場所なんですか?
伊藤)
ここは、緊急事態宣言があった時に、何かしなきゃと思った場所です。
―――ここで何を見たんですか。
伊藤)
緊急事態宣言が出た夜に、ここから二条市場が見えたんですね。
―――ここからですか。6丁目だからかなり離れてますよね。
伊藤)
そうですね、本来であれば観光客もたくさんいて、そもそも二条市場は全く見えなかったんですけど、あの緊急事態宣言を境に、結構あっち側も見えるようになった印象ですね。
―――見えた時って、伊藤さんはどう思ったんです。
伊藤)
大変なことになっているなと思いました。ここで見たあと、飲食店の方に行ったんです。その店はいつもならお客さんでいっぱいなんですけど、ガラガラで。「どうしたんですか」って聞いたら、「緊急事態宣言を受けて、予約は全部キャンセル。今日は、伊藤さんだけだよ、お客さん」と言われたんです。それで、何かしなきゃって思って、飲食店のクラウドファンディング、未来のお食事券のクラウドファンディングを考えたんです。

―――今まで北海道は、観光客がどんどん増えて、閑散としたような姿を見る事はほとんどなかったと思うんですけど…、かなり衝撃が大きかったんですね。
伊藤)
そうですね。やっぱり、狸小路って観光客がたくさんいるイメージで、ふだん歩きづらかったですよね。正直。まっすぐ歩けないし。だけど、その日は人がいないんで、何かその景色はもうかなり衝撃でした。
―――違和感みたいな…。
伊藤)
見た事のない札幌っていう景色ですよね。
―――そうした中、あのクラウドファンディングを立ち上げて、実際にプレミア分も含めると11億円というかなり大きな規模の経済効果があったとされていますが、ここまでの反響って想像してたんですか。
伊藤)
一番最初は、そこまで思ってなくて…。本当に、知り合いの店を助けられればいいなと思って始めたくらいなんです。ただやっぱり、大変なお店がたくさんあるってことを知って、これは街の今後に関わる話でもあるから、とにかくたくさんの人に使ってほしいなと思ったんです。そうしたら、札幌市からのプロポーザルがあって、これは大きい事になるから、気合い入れてちょっとやらなきゃいけないと思ったというのが正直なところです。私の会社も、正直、仕事がキャンセルにたくさんなったので、その分時間があったんです。だからこそ、飲食店支援のクラウドファンディングに注力できました。

―――この場所は、伊藤さんにとって2020年を象徴する場所だと思うんですが、その2020年ってどういう年だったと捉えているんですか?
伊藤)
“強制的に変化させられた年”ですね。
たぶん、いろんなものがちょっとずつ変わっていかなきゃいけないと思っていたと思うんですよ、当時も。例えば、デジタル化していくとか、人の雇用の仕方、実際にフリーランスがたくさん増えていましたし、実はいろんなものが変わろうとしていたタイミングだった。ただ、コロナの影響で強制的に早回しになったというんでしょうかね。テレワークにしても、こんなにも早く普通になるとは思っていなかったですし、様々な変化を感じましたよね。なので、僕としては変化の年。それも、単純に変化の年じゃなくて、強制的に変化させられたというイメージです。
―――未来の食事券という形のクラウドファンディングで、新しい消費者とお店のつながりが生まれたっていうことについてはどうですか。
伊藤)
クラウドファンディングやって分かったんですけど、やっぱり普段から、個々のお客さんとのつきあいが深いところがやっぱり支援は集まりやすくて、そうじゃないお店っていうのは集まりづらかったりしたんです。だからこそ、お客さんへの考え方みたいなものは、飲食店の方々もちょっと変わったっていう事は聞いています。どの職種においても同じですが、やっぱりファンづくり、ファンがどれぐらいいるかの重要性に気がついたということですよね。いまは行けなくて、食べてあげられないけど、未来は行くよと。つぶれてほしくはないんだという思いでお客さんはチケットを買っていたイメージですよね。そうしたファンづくりっていうのは、今後さらに大事になってくるんじゃないかなということを再認識しました。
―――困った時も、いい時も、支えてくれるのはファンであると。 それは、業種に関わらずということですね。
伊藤)
そうですね。飲食店に限らず、美容室もそうですし、製造業とかもそうですし、いわゆる流通とかもそうです。やっぱりファンに支えられてるっていう事を、今回のコロナのことですごく認識したのではないかなと思いました。だから僕としては、やっぱりこのコロナがあけたら、すごく強い、札幌が待ってるんじゃないかなっていう気はしてますけどね。これを乗り越えれば。
―――未来のために、お金がしっかりとつながるというか、思いをお金にかえて届けるクラウドファンディングは伊藤さんにとって、すごく勇気になったんですね。
伊藤)
僕というよりは、多分使われた方たちが勇気になってくれたらいいなと思ってやっていました。
―――共感は力になるということですね。
伊藤)
そうですね。

伊藤さんの会社のHPには気になる言葉があります。

面白いことしかやりません

時代にあわせた“おもしろさ”をつきつめ、いまと未来をつなぐ。そんな仕事観の原点は、前職にありました。

伊藤)
何でこんな考え方になったかというと、僕自身の前職にきっかけがあるんです。ユニバーサルミュージックというレコード会社にいて、音楽というものをセールスしていたんです。僕が音楽がすばらしいなと思ったところが、物質じゃないこと。音なので、譜面があれば年代を超えて、弾けるし、聴けるし。これがすごく素晴らしいなと思って。でも、それは音楽だけじゃなくて、いろんなジャンルにおいて、やっぱり未来につなげていくというのが必要な作業だと思ったんです。あと、実は、僕自身が病気をしたんです。脳腫瘍で、死ぬかもっていう思う瞬間があったんですよね。その時に、もし死ななかったら何をしたいって思った時に、北海道にまず戻ってきたいというのと、北海道で自分が、何か未来に残せるものをつくろうという思いで帰ってきているんですよね。テーマですね。
―――いまと未来をつなぐという点では、食の北海道遺産というプロジェクトも共通しているところがありますね。
伊藤)
そうですね。このプロジェクトは、飲食店が今、コロナで大変な状況なので、物販品を、どんどん作っていきましょうっていう企画なんですね。既に人気のカレー屋さんのレトルトカレーができていたり、ザンギで有名な老舗のお店のカレーチャーハンの素や、ハンバーグが有名なお店のハンバーグの種という商品などを協力して開発したんです。結局、何でやったかというと、コロナ禍で、いろんな商売が厳しくなっていく中、物販品があれば、少しでもその商売が補填できるかなっていうところがあるのと、例えば、後継ぎがいないお店とか、続けられなくなってしまったお店とか、そういった、何か物理的に営業できない、途絶えてしまいそうな味を未来につなげたいと思ったんです。飲食店支援のクラウドファンディングよりも長いスパンで、未来の人たちも食べられるということを実現しようと思ったんです。北海道の食を未来につなげたいということですね。

伊藤さんが、いま最も時間をかけているのが、2021年の成人の日にあわせたプロジェクトです。その名も「サッポロオンライン成人式」。ことし11月末、札幌市が成人式を中止することを正式に決めた翌日、SNS上に開催を知らせる投稿を掲載。いま、急ピッチで準備を進めています。

「サッポロオンライン成人式」は2021年1月11日午後4時半~6時半(予定)に、YouTubeで式典などをオンライン配信します。さらに翌日以降、地域の企業からのさまざまなプレゼント企画を用意。新成人に喜んでもらおうと準備を進めています。12月に入り、札幌市の後援も決定しました。

―――このオンライン成人式、なぜやろうと思ったんですか。
伊藤)
成人式が中止になりますよという報道を見た時に、成人の日って、そういえばいつなんだろうとカレンダーを見たんです。2021年1月11日。よく見たら、1が三つ並んでいて「うちの会社名と一緒じゃん!」と思って、じゃあ何かやらなきゃ!という、すごく簡単な思いつきから始まりました。でも、ふと考えたんです。僕らは当たり前に成人式があったので、そういうみんなの当たり前が、来年の成人の人たちに与えられないっていうのは、大変な事だなっていう事を思って…何か、自分の会社ができる事がないかなって考えた時に、まずはオンラインで、この成人式を開催してあげられれば、少しは中止か、ポジティブに変換できるのではないかなという思いだけで立ち上げました。
―――札幌市が全面的に中止を決めた11月30日の翌日、12月1日に、SNS上でやりますっていうことを表明して、かなり多くのリアクションがあったじゃないですか。あのリアクションはどのように受けとめたんですか。
伊藤)
何かしてあげたいっていう思いが集まったっていうか。共感が集まったっていう事なのかなと思います。
―――それだけ多くの大人が、同じように、何かそれって違うんじゃないかなみたいな“モヤモヤがあった”ということでしょうか。
伊藤)
だと思います。オンライン開催をやろう!と集まった人たちの声は、みんな、何かしてあげたいとか、かわいそうだっていう声だったんです。そんな思いをもつみんなが集結すれば何かできるということで、いま打ち合わせを重ねてます。
―――現段階で言える範囲でいうと、例えばこういう事をっていうのはどんなものイメージしてるんですか。
伊藤)
基本的には、成人式をオンラインでやるっていうところがまず主軸にあります。オンラインで、いわゆる祝辞があって、その後、記念品贈呈という名の、いろんな企業からのプレゼント大会、プレゼント抽せん会があって、その後に花火と。まずはそれが主軸としてあって、それ以外に、例えばVRで成人式をやるよっていうチームがいたり、それ以外に例えばその成人式の立て看板を作ってフォトスポットを各地に設けようと考えてる人もいたりとそれぞれが動いています。
―――今までオンラインで成人式を行っている自治体もありますが、1万人を超える新成人を抱える札幌市ぐらい大きな規模でやるってなかなかなかったような印象があるんですけど、どんな期待を今持っているんですか。
伊藤)
成人の方々には、中止になったけど、こういう特別な事をしてもらってよかったねって、ちょっとでも思って欲しいなと僕は思っています。
―――今までは、縮小だったり、延期だったりという事で、なくなっちゃうかもという不安だけがその新成人に届いていましたからね。そして中止にと。
伊藤)
そうですそうです。やっぱりその僕らは僕らで成人式ってあったと思うんですけど、僕らの成人式よりも、もっと何か特別なものにしてあげられればいいなと思っていますね。
―――それこそ、この年でよかったと思えるぐらい。
伊藤)
はい、それぐらいまで思ってくれるようなものができたらいいなと。だから、花火もあげたいんです。成人式のタイミングで花火があがるってあんまりないと思うんですよ。なので、それも特別なことだと思いますし、今回も、2000年生まれが多いっていう事だったので、2000発にこだわって、花火を上げます。曲も、今、若者たちに人気の曲をセレクトしたので、その曲に合わせて花火があがります。共感度の高い花火になると思いますよ。
―――それこそ一緒に、オンライン上かもしれないけれども、夜空を見上げる気持ちでっていうことですね。
伊藤)
そうですね。今回、花火をあげるチームは、音楽と合わせて打ちあげるのが得意なチームなので、音楽にこだわりたいなと思って。そう考えると、みんなが知っている曲で、評価の高い曲ということで、みんなが盛り上がる特別な演出を準備しています。

―――楽しみですね。なんでしょう、みんなでこう1つのものを共有する時間って、実は2020年はあまり持てなかったと思うので、その時だけでも気持ちを1つにできると、前を向ける感じがしますね。

―――一方で、これすごく意地悪な聞き方なんですが、新成人にとっていいことはわかりました。ただ、大人にとってのメリット…というと、すごく言い方はよくないのですが、みんな大変な中でなぜそこまでやれるのかなって…。 
伊藤) 
なるほど。僕の考えで言うと、そもそも、この札幌をつくっていく人たちじゃないですか。僕らの次に。なので、その次につくっていく人たちに少しでもエールを送りたいっていう気持ちでやってるんですよ。ほかの大人達も結構そうで、僕たちはこの後、どんどん年をとっていくだけ。なので、今の20歳になる人たちが、10年後、20年後、僕らと同じ年代の時に、少しでも、自分たちの下の世代に、同じように何かをしてあげようっていう思いを持ってほしいんです。エールのバトンみたいなものを、ずっと送っていけたら、すばらしい街になるんじゃないかなと思ってやっています。だから、僕らのメリット、今現状その何かビジネスにつながるとかは全く取っ払って、シンプルにお祝いしてあげようっていう気持ち、でしかないです。
―――確かにそれが”サイクル”になってまわっていったら札幌がより魅力的な街になりますよね。
伊藤)
僕らがやれることって、こういう事でしかなくて…。というのも、若い彼らが今後の札幌をつくっていくと考えると、やっぱりお祝いできる時には、お祝いをしてあげたいということですよね。
―――伊藤さん自身も、上の世代の人たちから祝ってもらったり、思いをエールとして送ってもらったりという実体験があるということですか。
伊藤)
たくさんあります。仕事でお世話になっている先輩たちをはじめ、周りのサポートがないと今の自分はないと思っています。メリットがあるからとか、デメリットがどうとかじゃなくて、シンプルに応援してくれたことってすごく記憶に残っているんですよね。それがあるから自分も、下の人たちに、何かしてあげたいっていう気持ちになるんです。
―――独立して札幌で事業を始めた時にそういう事って強く感じられたんですか。
伊藤)
感じましたね。僕自身、前職の時に札幌でも働いていたんですけど、会社の転勤で東京に行って、札幌を3、4年離れていたんです。その後、会社を立ち上げたので、はじめはやっぱり不安だったんですけど、かつて札幌で働いていた時に支えてくれた人たちが、たくさん応援してくれたからこそ、今があるんです。本当に。その応援がなかったら、自分は今、会社をやれていないし、いろんな事業にも参画できていなかったと思うんですね。
―――誰かひとりというよりは、札幌の諸先輩方に支えられたということなんですね。
伊藤)
そうです、本当にそうです。
―――今度はそれを、次の世代に渡せるタイミングが来たって事です。
伊藤)
そうですね。オンライン成人式は、先輩たちにありがとうございました、本当にありがとうございますっていう気持ちを込めて、下の世代に、お祝いを贈るっていう感じですね。 何かそういう、善意の連鎖みたいなものが起こればいいなと普段から思っているんですよね。昔見た映画で、「ペイ・フォワード」という映画があって、あの映画に描かれているような善意の連鎖を信じているんです。成人式に関しても、それがどんどん起きてくれたらいいなという感じです。

―――2021年はみんなそれぞれに“いい年にしたい”“来年こそは”という思いが強いと感じているんですが、伊藤さんにとってはどういう年にしたいという思いがあるんですか。
伊藤)
コロナの状況で、いろんな制限が生まれたと思うんですよ。人とも会えないとか、距離を保たなきゃいけないとか。いろんな制限があって、おそらく新様式みたいな、みんなも慣れ始めてきていて…やっぱりそうなってくると僕は、より、人と人っていう部分が、すごく大事な社会になると思っているんです。なので、来年は、人と人をつなげるような仕事をもっとやっていきたいなと思っています。それが、イベントベースのものでもいいし、うちのタレントとかが活躍する場で、そういうような場を作るでもいいと思います。でも大事なのは、知らない人同士が知り合うこと。2020年は、知らない人と会う事があんまりよろしくないっていう年でもあったと思うんです。感染予防として。でも、2021年は、知らない人同士も、どんどん会える環境を、このコロナの状況で、演出、できればいいなと思ってます。
―――人と人が知り合ったり、交わったりしない限りは新しいものが生まれにくいということですか。
伊藤)
そうです。
―――そういう意味で、オンラインですが、成人式も1つの再会で、出会いの場ですね。
伊藤)
そうですね。僕は今回、徹底的に感染リスクを考えて、会うような企画は一切立てていません。外したんです。ただ、今回のことを、話題にはしてほしいなと思ってます。1月11日以降に会った時、あの時何をしてたとか、成人式の花火見たとか、会話の種になってくれればいいなと考えています。

取材を終えて、この一年の締めくくりに伊藤さんにインタビューをお願いして本当に良かったなと思いました。北海道の強さは、伊藤さんのような共感や連鎖をおこせる人が数多くいることだと私は思っています。それぞれの立場から周りのプロジェクトや人と関りを持ち、お互いに刺激を与え、反応しあいながら地域の未来を創る姿に、北海道の新時代の脈動を感じました。こういう光を見ると、また頑張ろうと思えます。いまの時代、北海道で暮らしていて本当に良かったなと思っています。
思いを形にする伊藤さんの生き方、2021年への思いは新年のほっとニュース北海道、1月8日(金)の放送でお伝えする予定です。

最後に。

本年も大変お世話になりました。
みなさま、よいお年をお迎えください。

関連情報

ほっと通信(81)【瀬田宙大】

瀬田 宙大

2019年12月3日(火)午前9時55分 更新

宗谷プチ滞在 DAY4

瀬田 宙大

2021年4月22日(木)午後0時40分 更新

宗谷プチ滞在 DAY3

瀬田 宙大

2021年4月21日(水)午後7時22分 更新

上に戻る